地銀の次期オンライン (日立が静岡銀行から受注)

日経新聞の平成26年1月23日号に大きく「日立が銀行システム海外展開」「静岡銀と開発」「コスト3割減」「大型汎用機使わず」「国内大手銀に導入波及も」といった見出しで大きな記事が掲載されていました。PCサーバーを使いコストを下げる、ソフトで柔軟に機能追加できるので商品開発を2〜3倍迅速化できる。自動引き落としなど邦銀に特化した機能とグローバル共通機能に分けて設計・パッケージ化し、分割提供できるようにする。欧米中堅銀行ではPCサーバーで勘定系の更新が始まっており、新興国でも需要が見込まれる。Linuxを使うことでメインフレーム並みの信頼性を確保する目途がつき、インターネットやスマホなどとの接続も容易で、若手技術者を確保しやすいこともあり、静岡銀行は脱メインフレームを決定したとのことです。日立としては、国内で10行以上からの受注を目指し、更に、海外の金融市場参入を図るという記事です。

静岡銀行は、数年前から勘定系オンラインの全面更改を検討していました。主に、現メインベンダーの富士通、そして日立とIBMが競合していました。静銀がオープン系採用を打ちだしたので、富士通、日立は海外パッケージによる提案を繰り返しました。日立は、最終的にLinuxベースで新たにミドルウェアを開発し、アプリを全面更新する提案に切り替えたようです。IBMも、海外パッケージを模索したものの最終的には、大手地銀との共同化を提案したようです。静銀の中でも、メインフレーム継続かオープンン系かと随分と迷ったようです。お陰でベンダーは数年に渡って数度の提案書提出を余議なくされました。その過程で他の多くのベンダーは、販売競争から脱落したようです。

記事では、Linuxを使いながら、オープン系オンラインとの表現をしていません。記者は、ITに精通しており、金融システムにも詳しい、金融界でも名の知られた記者です。隠密裏に最終的な詰め作業をしていた日立や静銀は、顔馴染みの記者からの取材で焦ったのでしょう。記事掲載の同日、23日に基本合意したとプレスリリースしました。記者がオープン系と言い切らないのは、日立のHi−RDBを中核に使うからです。これでは、ベンダーオープンにはなりません。日立にも都合があると思います。稼働は平成29年年初の予定です。一年間の総合テスト期間を考えれば、実質的な開発期間は2年しかありません。既に手持ちの制御系ソフトや手慣れたツールを使わざるをえません。

富士通は、バッチと総合情報系を受注したそうです。富士通としては、戦略的分野である情報系を確保したと言いたいのでしょうが、群馬銀行の情報系を日立に奪われたばかりですので、そう前向きに受け取る業界人はいません。勘定系を日立に変えるとしても、現行システムの保守運用や新勘定への移行などに、富士通担当者のサポートが不可欠です。静銀としては全てで富士通を切る危険を犯せなかったというのが本当のところかと想像します。それにしても、富士通の金融におけるプレゼンスは落ち込む一方です。戦略的にも技術的にも営業的にも、かつての実績は影をひそめる一方です。他の富士通ユーザー銀行は、社内への説明に加え、実際に富士通の使い方にも悩んでいることでしょう。

記事では10行受注すれば、開発・運用を合わせて2千億円程度になると書いてあります。昨今の地銀共同化では、初期が20〜50億円、保守運用が年10〜20億円で契約期間10年が相場です。ですから、2千億円という数字に違和感はありません。ただ、静銀の場合は、全て新規開発で全面移行となります。開発に、少なくとも2、3百億円は必要でしょう。すると保守運用には年40〜60億円はかかります。

噂では、静銀の予算はそれを相当下回るようです。つまり、日立にとって、大きく持ち出す案件です。それを社内に通すために、海外進出などと言っているのでしょう。国内でも横展開できる地銀は殆どありません。海外市場は、中堅以下銀行では、2社のパッケージが寡占していますし、金額は二桁も違います。数十億円を出せる海外銀行は、資産5〜10兆円規模の大銀行です。その殆どは、相変わらずメインフレーム中心で自社開発、自社運用しています。日立にとって、当件の先行投資を単純に回収できるとは思えません。オラクルからi−Flex事業を買収した方が、安くて、速くて、安全です。しかし、それでも、日立は踏み切ったのです。何としてでも、銀行におけるリーディングバンクのユーザーが欲しかったのでしょう。それも、新しい技術を使って、スクラッチで作るというのです。その意気や良しとすべきでしょう。

多くの銀行は、30年も経た三次オンラインのアーキテクチャから脱することができずにいます。それどころか、共同化やアウトソーシングで、技術革新から遠のいてしまいました。結果として、わが国銀行のIT化は世界の先端から大きく遅れを取りました。静銀と日立は、この流れから抜け出ようとしたのでしょう。決して、容易なプロジェクトではありません。多くの、それも致命的な障壁が出現することでしょう。でも、50年近く前に三井銀行とIBMが国内初の銀行オンラインを作った時にも、経験者は一人もいませんでした。全て手作りでした。それに比較すれば、ハードもソフトも比較にならないほど改善されています。静銀が、日立をパートナーとして全行的な協力体制を敷き、日立は社内の必要な人材と技術を総動員し、的確なプロジェクト管理を進めることが期待されます。その為には両社の経営トップの全面的なリーダーシップが不可欠です。それでも、難しい局面が発生するでしょう。我々は、このプロジェクトが無事に成功するように、静かに見守り、応援できる人は応援して欲しいものです。どのベンダーが勝ったとか、オープンかレガシーかいう次元の話ではありません。

                                    (平成26年1月27日 島田 直貴)