東京都のみずほ臨時検査結果

東京都がみずほに対するシステム障害の検査結果を6月21日に発表しました。金融庁の対応とは異なり、かなり具体的で突っ込んだ要望を出しています。(日経新聞平成14年6月22日号)
例えば、来年3月までにマルチペイメント・サービスを提供すること、収納金滞留期間を短くすることなどです。更に、旧DKBのシステム機能は旧富士のものより劣っており、 

  • 早急に富士レベルまで回復させること(この表現は極めて厳しいというか、官庁にしては感情的ですらある表現です)
  • 障害の再発の可能性があること(この表現も、再発の可能性を否定できないという通 常の表現ではありません)
  • 来年4月予定だったシステム統合は見直しが必要(これも実質的に不可能と判断しているようです)
  • そもそも機能の劣る旧DKBシステムに片寄せする合理性に疑問がある

とすら言いきっています。

これらの指摘は、みずほシステムの状況を多少なりとも知る人々にとっては容易に推測できますが、実証できないので誰も公には言わなかったことです。それを都は、公金取扱い指定という権限を使って利用者の立場から検査・評価したのです。石原知事の率直な性格や大銀行嫌いということもあるでしょうが、それにしても随分とハッキリと言うものです。旧DKBシステムのイメージに与える悪影響は大変なものです。

ただ、旧DKBの肩を持つ気持ちはありませんが、東京都という立場は一般企業や個人とは異なることに注意しておくべきです。もともと富士銀行は官公庁取引に強い銀行でした。ですからオンライン・システムを開発する際には、官公庁向け機能に注力したことは当然なのです。ある都銀(官公庁に強くない)のオンライン・プログラムを地銀が購入した時に、業務手順は殆ど全てをその都銀の方式に合わせました。どうしてもカストマイズしなくてはならなかったのが、指定を受けている地公体取引業務だったことを覚えています。一般利用者からは、銀行業務は窓口やATMでしか見えませんし、最終的な勘定処理のルールは同じですから、どの銀行のシステムも同じと考えるのでしょう。しかし、顧客層や銀行の営業方針によって細かいところが随分と違うのです。みずほ銀行の悲劇は、経営者がそれを知らなかったことです。富士の頭取ですら自行システムの良いところを知らなかったのでしょう。

3行統合発表後の3ヶ月間で、3行はシステム機能の比較検討をしました。国内勘定系オンラインに関しては、IBJが調整役で、DKBと富士との比較です。技術的支援にコンサル会社も採用しました。多くのコンサル会社にRFP(提案要望書)が出されました。親しいヘッド同志で対応を相談したことがあります。全員が「これはコンサルの仕事ではない」と判断しました。理由は、経営戦略が明確でないので比較判断の基準がないこと、3ヶ月で大手都銀2行のシステム(バッチを含めれば、それぞれ3千万ステップはプログラム=業務機能があるでしょう)を比較検討することは物理的に不可能なこと・・などでした。私は、極めて短期間で結論を出すことには賛成でしたので、顧客に選ばせることを提案しました。両行の法人・個人の顧客を数百ずつ作為・無作為に抽出して、人気投票をさせるのです。一笑に付されました。結論は、既に決まっていたのです。営業的・政策的判断で。であれば、比較検討したこと自体が狂言であり、それを承知で検討に参加させられた富士銀行員の気持ちも察せられます。「ヒドイことするトップ達だな」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。検討結果は「双方ともに大差ない」というものでした。良く言うワと唖然としたものです。この方式は、あらゆる統合作業で行われたのでしょう。

当初、IT統合費用は1500億円と発表されました。ITベンダーやコンサルが目の色を変えて群がりました。銀行系システム会社までが営業バトルに参画したようです。開発要員が確保され、センターに常駐しました。しかし、数々の課題や追加機能が発生し、その検討に時間が失われていきます。外注費を含めた人件費だけが流出することになります。よくある話ですが、予算は倍増しました。次は予算の絞り込みです。前田社長の発言では、結局2500億円に落ち着いたようです。この金はどこに消えたのでしょう。その見返りに、みずほは何を得たのでしょう。

今回の失敗を繰り返さない方法が、いろいろな人達で議論されています。私は、あらゆる機会に言っているのですが、「技術マターでもなく、プロジェクト管理以前の話でしょう。企業合併における経営者の経営能力の問題であり、それが、システム障害という外部に見える形で表面化しただけである。ついては、M&A遂行能力のない経営者は、合併という戦略を採用しないことしか再発防止策はない。」と考えています。この考えは、マスコミの人達には評判が大変悪いのです。M&A遂行能力という極めて属人的能力が解決策では、記事にならないからです。彼らが求めるのは、即物的で即時的なわかり易い解決策です。逆の見方をすると我が国のレベルがその程度ということです。みずほを批判できる水準ではないのです。ITがますます複合的になる今日、eジャパン計画のようなハコセン至上主義では、日本のITは国際水準に遅れるばかりです。頼みは、若い人々が海外で武者修行し、やがて日本に戻って来ることを期待するだけなのでしょうか。それとも、IT人材すらも空洞化するのでしょうか。