決済データのビッグデータ解析

日経新聞平成26年1月20日号に、横浜銀行のビッグデータを使った法人営業支援システムが紹介されていました。同行への月間入金件数は600万件以上あり、このビッグデータを分析することで、企業の状況を予測するのだそうです。新たな取引先との送受金を自動的に発見し、新規事業へ進出した等の情報を把握し、金融サービス提案に結び付けると言います。

記者はデータ件数が月600万件と大きいことから、ビッグデータだとして新奇性のあるニュースだと思ったようです。しかし、日量20万件程度の取引は、今時珍しくもない量です。また、ビッグデータは、量が多いだけでなく、非構造化データをも対象にするものと理解されています。この記事を書いた記者に限らず、データやソフトの規模感を把握している人は少数派です。特に、年令が高くなるにつれて、実態を知らないまま、流行り言葉・ジャーゴンで会話する人が増えるようです。新聞記事では困りますが。

IT関連のある紛争で、加害側が180万もの命令があり、それのバグを皆無にすることは不可能と主張し、裁判官がもっともだと反応しました。被害側は、今時180万程度のプログラム規模は小さなもので、例えば、携帯電話やWindowsには1千万から5千万のプログラムが搭載されている。それでも、送信先を間違えたりすることはないと反論しました。以来、この裁判官はシステムの規模には触れなくなってしまいました。理解を超えるので、考えないことにしたのでしょう。でも心証として、180万は俺には大きく見えると残った様子でした。自分が一人で新たに作るとしたら、とてもできない量だという判断なのでしょう。

データ規模も同様です。銀行第三次オンラインの1980年代には、大手都銀で1500GB、大手地銀で500GBがオンラインDBサイズでした。この程度のデータ量であれば、今ではメインストレージに格納できます。でも新聞記事にして7千5百万ページというと、いかにも凄いと聞こえます。東京ドーム何杯分という、いい加減な比喩と同様です。ビッグデータというからには、非構造化データを含めて、少なくともテラバイト単位で、通常はペタバイト級の規模を言います。

ビッグデータで重要なのは、データ量大小よりも解析技術です。SNSやセンサー情報など膨大なデータの中には、不良データが相当量紛れ込んでいます。それをクレンジングしないと、とんでもない結果が出てきます。迅速に処理するためにHadoopなどの技術も必要です。データの中から何らかの法則性を見出す為に、データマイニングなどのBIも必要です。しかし、ITを知らない人に、こうした技術を説明しても聞いてもらえません。ただ、「凄いね、で、データ量はどの位で、何秒くらいで答えが返ってくるの?」という反応でしょう。判り易く、簡潔に説明するのは、極めて難しい。多少は正確性を犠牲にせざるをえない。それは技術者には耐えがたいことです。でも、小学生にも理解して貰える説明方法を見出す努力は必要です。

横浜銀行は、グループの浜銀総研と協力して、CRMやEBMなどの先進活用銀行として知られています。今回は、その一環として決済データ分析を法人取引に利用したのでしょう。入出金履歴を分析して営業活動に利用しようとする動きは30年以上前からあります。昔、有名だったのは住友銀行、北海道拓殖銀行、埼玉銀行などです。水道料金から家族構成の変化、電気料金から収入水準などを把握していました。電話料金を抑えると流動性メイン口座になり、月々のキャッシュ・バランスが一望できます。しかし、正直なところ、営業現場からは感謝されませんでした。重要な顧客に関しては、そんな情報は既に入手済みだからです。

銀行の営業は、足で集めた情報をCRMに登録しません。本部が勝手に分析して、あーせい、こーせいと余計な指示を出してくるのが、うるさいからです。成約間近になっても、SFAに正直に報告しません。下手に報告すれば、本部は「よし、良く頑張った。もっとやれそうだから、ノルマを少し上げてやろう。」となるだけです。それが営業というものでしょう。

それでも、ここ数年、地銀界でCRMやEBMがブームです。ある銀行が、こうした情報サービスのアクセス状況と営業成果の相関関係を調べたら、全く相関がなかったそうです。どう理解したら良いのかと戸惑っていました。一般的には、CRMやEBMは優秀な営業の気付きを、未熟な営業担当者に提供することが目的とされます。気付いても実行するのは別ということなのでしょう。また、活用のモチベーションにも考慮が足らないようです。

法人など顧客の側からすれば、やたら自分のことを分析されて、お宅はここが問題だとか、お宅のこんな動きを当行は把握していますよ・・・などと、知ったかぶりされても、不愉快ですし、迷惑です。そんな時間の余裕があるのなら、同業他社の新たな動きや、自社に使えそうなアイディアや商品を持って来いというのが本音です。このことを銀行に質問すると、「無条件に出力結果を使う訳ではなく、顧客の状況をきちんと把握した上でアプローチさせている。逆に、この取引先にはXXの案件は、アプローチしない方が良いという使い方もしている。」と答えます。お客も営業も過去の情報よりは、近未来に関する確実な情報が欲しいのです。であれば、公開されているニュース記事やSNSを収集分析して、同業他社や自社取引先の動向情報を提供してくれた方が、数段役立ちます。

銀行は他業禁止です。他業の株式保有も5%以下に制限されています。ところが、他業種企業が銀行の株を100%持つことは可能です。子銀行の顧客にグループ企業間での顧客情報共有を同意して貰えば、通販や店舗などでの購買履歴等と合わせて分析できます。そこから発するDMヒット率等は、銀行の比ではありません。その学習曲線も差が広がる一方で、とても闘いになりません。この問題をどうするか、チャレンジする銀行はありませんし、業界として政府に制度変更を要望する動きもありません。伝統的銀行は、マスリテールでは、他業種系銀行に押される一方となるでしょう。データよりもインフォメーション、更にインテリジェンス勝負となります。

(平成26年1月21日 島田 直貴)