高齢者取引ルール (日証協がガイドライン改正)

日本証券業協会の高齢者取引ルールに関するガイドラインが平成25年12月16日に施行されました。ニッキンの12月13日号に、窓販を行う銀行などで当惑する声が出ているとの記事がありました。証券会社でも販売態勢の複雑化により、組織・職掌の見直しだけでなく、販売手順の見直しが必要となり、特に中小証券では対応に困っているとの話も聞きます。

今回のガイドライン改正は、金融庁の強い要望を受けて証券業協会がまとめたものです。その背景には、高齢者取引に関するトラブルが増えていることがあるそうですが、実態統計などは公開されていません。金融取引における高齢者マーケットが今後ますます比率を上げることは確かですし、金融庁が言うように、高齢者の中には、注文したことを忘れる人も増えるでしょう。自署捺印の注文票があったとしても、高齢者が自主的に、かつ適切な判断をした上で、自署捺印したかは定かでないこともあるでしょう。健全な高齢者マーケットを育成する為には、必要なのかもしれません。しかし、高齢者の話を聞くと、余計なお世話だとの声も多い。問題は、充分な判断力のある高齢者が、数日もすると痴呆が発症するケースも多いことです。その防止を全て金融機関に求めるのは酷な気がしますが。

今回の改正では、勧誘しても受注は翌日以降とする、受注にあたっては勧誘担当者ではなく別人の役席者が行う、受注の後に電話等で約定連絡を行う、高齢顧客の取引適合性を定期的に確認する、取引状況をモニタリングするなどが義務化されています。具体的には各社が社内規則として整備する必要がありますが、対象高齢者を75歳と80歳以上とに区分し、80歳以上にはより精緻で厳密な取引ルールが求められます。それには、高齢者の定義、対象商品、説明方法、受注方法、記録保存と取引内容モニタリングの方法などを明示しなくてはなりません。ちなみに、高齢者が勧誘を受けることなしに、自分の判断でネット注文する場合は、意識も意思も明確だとの理由で、当ガイドラインの対象外です。詳細は日証協のサイトなどでご確認下さい。

代理業務を行う銀行も同様の対応が必要です。更に、金融庁は生命保険業界にも、変額年金等の販売に関して同様の自主規制強化を求めています。窓販を主力ビジネスにしようとする銀行にとっては、大きな変更であり負担となります。来店を求め憎く、電話取引の習慣もない銀行としてては、たまたま来店した顧客に勧誘するか、訪問販売を主としますから、証券会社よりも厳しい対応が必要となります。

まずは、手順と組織態勢を見直す必要があり、場合によっては80歳以上への販売は行わないとか、家族等代理人の同席を前提とするなど、プッシュ販売を放棄せざるをえないこともあるでしょう。しかし、ITから見ると、新システム構築の契機となります。どんな機能が必要かというと

@対象顧客の抽出と取引履歴(商品タイプ、取引額、頻度、時期、代理人登録など)

A対象顧客の勧誘適正性(健康状態や理解力等)確認と記録

B当該顧客への勧誘可能商品と勧誘留意商品のチェック

C勧誘時の説明内容記録と重要事項説明の顧客確認記録

D勧誘時の家族・代理人同席の記録

E勧誘、受注、約定連絡のワークフロー管理、記録作成保存、買付指示書の顧客自署捺印と保存

F受注、約定確認の為の電話連絡や来店などの時間予約管理

G勧誘当日注文など例外扱い管理のワークフロー管理

H取引内容の確認とモニタリング(取引頻度、金額、商品、預かり資産等で異常検知)

などが考えられます。

記録方法ですが、媒体は特に指定されていません。録音でも文書記録でも構いません。保存期間も指定はありませんが、十分な保存期間とありますから、かなり長め(5年、10年等)が無難でしょう。ただし、全てがセンシティブ情報ですから、情報セキュリティには細心の手当てが必要です。また、録音や映像などで保存する場合の検索方法などの検討が必要となります。

このガイドライン作成をリードした人は、ITの最新状況を知っているようです。一昔前ですと、こんな作業を義務付けられたら、とても商売にならない。人手もかかるし、コストもかかる。その上に人手では間違いだらけで、それこそ改善命令の良い口実を作るだけとなります。今日では、音声も動画も得意とするタブレットがあり、音声認識技術も発達しています。テキスト化した記録を要訳する製品もあります。テキストマイニングで記録をチェック、モニタリングすることも可能です。ルール管理やデータマイニングもあります。膨大なデータを廉価に預かるクラウド・ストーレジもあります。録音、録画、署名、印鑑イメージを取り込んだ電子文書製品もあります。日々変化する責任・権限関係をダイナミックに変更管理できるワークフロー管理ツールもあります。どれも、数百万円とか高くても1千万円強の製品です。これらを組み合わせれば、容易に新ガイドライン対応ができます。迅速にIT化して積極的な営業活動する金融機関と手作業による最小限の対応でビクビクと営業する金融機関とでは大きな差がつきます。

問題といえば、上記の技術や製品を、既存のシステム担当者が苦手というか、嫌っていることです。レガシーとは汎用機のことなのか、古いプログラムのことなのか、新技術を受け入れないIT要員のことなのか。来年は、人もソフトもレガシーマイグレーションする年とすべきです。まずは、IT部門を新旧技術で二分化する必要があるようです。

 

                                                                2013.12.19 島田 直貴