モバイル・プラットフォームとモバイル・ブランチ

11月19日にサンフランシスコでセールスフォースの年次イベントDreamforce2013が開催され、セールスフォース社は、同社のサービス再編発表とGoogleGlassやSmartWatchとの接続デモをしたそうです。ポイントは、MobileFirstを前提に同社の各種サービスを全面的に再編成し、APIを従来数の10倍と大幅に増強にしたことです。つまり、ユーザーはWebだけでなく、iOSとAndroidアプリからsalesforceの各種サービスを利用できるようになりました。4年後には企業アプリの90%がモバイル対応になるとの予測に基づき、大きな方向転換を図ったものです。新プラットフォームは、Salesforce1と呼ばれています。

少し前から、Salesforceがスマートデバイスのマルチプラットフォーム対応を行う予定だと聞いていました。しかし、今回の発表はそんなレベルではなく、APIを大きく強化することで、同社クラウドの全面刷新とも言えるものです。これまでに買収したクラウド関連ソフトをただ、くっつけただけとも言えますが、それを見事に整合性のあるサービス集合にまとめ直しています。

多くのベンチャーを買収し、それをカタログ上で全体マップとして、あたかも統合されたソリューションのように見せるのは、米IT企業の常套手段です。そんなことできる訳ないだろうと、当該ベンダー幹部に聞くと「私もそう思っていた。だけど4、5人ながら天才技術者がいて、うまく連携処理できる仕組みをあっという間に作ってしまうのです。それも、アフターの方法まで考えて。」という答えが帰ってきます。1社ではなく4社からです。ソフトだからできるのですが、そうそう簡単なことではありません。アーキテクチャがしっかりした作りになっているから可能なのだと思います。アーキテクチャは日本人が不得意な部分なので、これも拙いと思う次第です。

筆者は最近、モバイル・ブランチという概念の具体化に力を入れています。営業渉外がIT武装することで、勧誘、契約、取引処理の全てを訪問先で完了させるという考え方です。その背景を簡単に説明します。

@地域密着金融の戦略的チャネルとなりえる : 地域金融機関の特性を活かして競争力を高めるにはどうするかとの大命題があります。金利・手数料競争や品揃えでメガに勝てる要素は限られます。やはりサービスで差別化せざるをえない。全顧客の2、3%しかいない採算客対象にサービスで差別化するには、多少の優遇制度では不可能。顧客事情に精通し、顧客視点で必要な金融機能をインテグレートすることしかない。それもメガよりも優勢な店舗網と渉外営業を活用することです。自行にない金融機能はメガや保険、証券など他社から仕入れれば良いという考え方です。

Aスマートデバイス、特にタブレットは渉外営業の強力な武器となる : 現在、銀行が渉外に持たせるタブレットには、カタログや外部の投信関連情報を表示する程度にしか使われていない。結果として導入後、2か月もすればモバイルでなくなり机の中となる。渉外活動には顧客取引情報を含めたリアル情報が必要なことは明らかだが、セキュリティが怖くて外出先からDB照会させられない。また、多様で変化の激しいスマデに不用意にアプリを搭載すると後日、維持保守できなくなるリスクが高いなどの問題があります。ところが、米国や韓国などモバイル化が進んだ国で開発されたツールを調べると、日本の金融機関が心配するリスクへの解決策を集められることが判りました。

技術力のある大手IT企業に実証確認してもらっても問題は殆どありません。複数のOS、ブラウザ、画面にワンソースで対応できるマルチプラットフォームのアプリ開発ツールや運用基盤、複数のセンシティブDBから必要データだけを抽出して個人別か組織別のデータマートをリアルに作る仮想DBツール、シンクライアント化と運用保守を容易にするMDM、動画・音声・イメージなどを一体処理するXML電子文書、複雑なワークフロー管理を行う業務処理基盤、アプリの配布更新を容易かつ安全に行う運用基盤、Javaの基本知識があればエンドユーザーでもアプリを作れる開発基盤、そしてこれらの機能を備えたDaaSが存在するのです。これだけあれば、現金の扱い以外は営業店内と同様に訪問先で処理完結できます。ただし、技術的にはできても、日本の金融機関が一挙に変ることは考えられません。少しずつ、確認しながらシフトすることになるでしょう。

@とAを組み合わせると、地域金融機関にとって弱点を強みに変えるパラダイム・チェンジが実現する筈です。問題は、チャレンジとスピードだけですが、クラウドという「ちょい試し」できるツールがあります。ATM数台の費用で、数か月もあれば実験できるでしょう。このアイディアとツール群を整理して公表したことはありません。部分的な説明をしますが、渉外担当者が営業店機能の殆どを持つという発想が理解されません。銀行員には、営業店とは石で作られた大きな神棚であることが必要なようです。流通系のような新規参入銀行の方が、こうした発想を受け入れ易いようです。

こうしたモバイル・ブランチのインフラとプラットフォームを構築して、他金融機関の代理業務を行う、逆に、他社を銀行代理店にするなどすれば、地域内チャネルを完全制覇できるでしょう。そうなると、他の金融機関は、そこと提携せざるを得なくなります。ネットワーク環境における一人勝ち理論が、リアル環境に持ち込まれることになります。金融の競争原理が根本から変るので、少々怖い気がしますが、遠からず実行する会社(金融機関とは限らないので会社とします。)が出てくるでしょう。日常品が、コンビニ、通販、お届けと多様化しつつ進化するのと同じことだと思います。

                                                   (島田 直貴)