信用金庫のIT戦略 (信金業界がネット専業銀の共同設立を検討)

ニッキン平成25年10月4日号に興味深い記事がありました。信金の長期ビジョン検討委員会が、ネット専業銀の共同設立を提言したそうです。10月下旬から各地区役員協議会で検討を始めるとのことです。営業地域や顧客規模を制限される信用金庫でも、業法上は設立可能と書かれていました。事実、信託や証券、カードなど多くの関連会社を業界として運営しています。全て、または、任意の信金による共同子会社という方法もあります。中央機関である信金中金経由で設立する方法もあるでしょう。

このニュースは、全信協から公式発表されたものではないようです。協会関連の外部向けメディアには関連する情報は一切ありません。筆者は最近、信金関係者とのつきあいが殆どありませんので、当該委員会の報告書を見ていません。ニッキン記事によれば、急成長するネット専業銀行など他の金融業態へ、預金やローンが流出するのを防ぐのが目的だそうです。高齢化や単身世帯の増加に伴い渉外の面談率が下がっていることにも対策が必要とのこと。ただ、ネット銀設立に当たって、個人ローンの与信管理の方法や収益還元方法などが、既に検討課題として上がっているとのことです。

筆者は、共同設立の案に大賛成です。現在、信金が共同等で提供しているネットバンキングは、余りに古いというか、物足りないというか、何故こんなデザインにするのか、この程度のサービスしかないのか、わざと使われないようにしているか?と思っていました。ネット銀ほどではなくても、せめて地元No.1地銀(大半は、極めて原始的なサイトですが)に負けないデザイン、使い易さ、セキュリティを確保した上で、信金らしいサービスを搭載すべきです。技術的にも費用的にもたいしたことありません。信金よりはるかに小規模の商店ですら、数段おしゃれで機能的なWebサイトを持っています。それを共同でやると、差し障りがなく、特徴もないサイトになってしまいます。一艘に呉越同舟は止めた方が良い。

最初の企画段階から、収益還元方法が検討テーマになるというのは、事業性に相当な自信があるのでしょうか?銀行の最低資本金は20億円(銀行施行令)ですが、少なくとも100億円程度から始めるでしょう。一金庫約4千万円となります。(これなら、個別にサイトを作る方が安いのですが。)従来は、預金量や口座数で共同事業の出資金額を分担してきました。今回は、各金庫の希望出資額を入札で決めたら良いと思います。そうすれば、意欲のある金庫が経営の主権を握りますし、収益還元などのルール作りも不要となります。メリットを感じない金庫は、当面参加しなければ良いでしょう。

出資を募る為には、まず、どんな客層にどんなサービスを提供して、どのくらいの事業規模を目指すか、明確にする必要があります。どうも個人を対象に考えているようですが、それだけでは信金らしさは全く出てきません。ソニーのようなブランドはなく、SBIのような先端金融技術のイメージもありません。セブン、イオンや楽天のような小売通販とのシナジーもありません。ジャパンネットのように、決済特化のネット銀では収益性を実現することが難しいでしょう。外部のどこと組むかも重要です。

顧客企業が一定規模以上に成長すると信金との取引を銀行に移す卒業生問題、地域中小企業の減少・縮小、個人顧客の高齢化と若年層取引の減少などは、40年も前から判っていたことです。効果的な施策を打てないまま、ついに平均預貸率が50%を切ってしまいました。1990年に454だった金庫数は、今年春には271にまで減りました。更に減るでしょう。合併などにより、やがて100にまでなるとの見方もあります。でも現在の預金量100兆円は、当面は減りません。すると1金庫平均1兆円の預金量となります。海外では大手銀行です。口座当たりでは小口だが、安定した預金ソースを抱える1兆円銀行というのは、相当強い存在です。ただし、これは合併によるもので、経営努力の結果ではありません。問題は、動態的に見た時に、衰退する地域、業種、企業規模、個人年齢層が中心顧客だということです。

業界としては、これまでも地域マネーやECなどITを使った、いくつか先進的アイディアを検討しました。結局は、自身の体力不足、顧客の参加不足などで何も実現しませんでした。要は、チャレンジ不足と実行力不足なのですが、それは最初から失敗を意識しすぎるからだと思います。何故、失敗恐怖症なのかを、信金経営者に聞いたことがあります。仲間の金庫や顧客に迷惑をかけられないというのが、いつもの答えでした。会員制という制度が、突出するように見えるチャレンジを阻害しているのかも知れません。しかし、会員制は信金の最大の強みです。

また、信金は上場銀行のように短期的利益を追求する必要はありません。ABL,電子債権、EDI、簡易CMC、会計クラウド等を使って中小零細企業を支援し、個人取引では高齢者と若年層それぞれに特化した資産運用・蓄積、相続、決済やリバースモーゲージ、中古住宅ローンなどに特色を打ち出すべきです。ネット取引の勝負は、行きつくところ、金利・手数料とサービス競争です。資金調達コストの高い信金が、メガや地銀と同じ土俵で競合しても勝てる筈がありません。

IT業界を含めた関係企業は、信金を小さな銀行と見るのではなく、メガや地銀と異なるサービスを開発し提供するためのパートナーとなるべきです。信金は、これまでの閉鎖的で消極的な産業文化を破り、他産業と協力して、オープンなチャレンジを推し進め、若い職員が活躍できるようにすべきです。その結果、必然的に協力する企業や個人が増えます。信金のネット専業銀成功のポイントは、高齢の経営陣が企画するのではなく、企画から設立、運営まで全てを若い職員に委ねることでしょう。

                                                  (島田 直貴)