クラウド事業者の海外進出

金融経済新聞、平成25年7月15日号の記事です。大手SIerのTISがインドネシアでクラウド事業を8月1日から開始するそうです。同社は、御殿山の最先端DCを活用してプライベート・クラウドやアマゾンAWSを提供しています。中国でも飛翔雲というクラウド・サービスを手掛けています。これらで培ったノウハウやツールを使って、成長性のあるインドネシアでSaaSに参入するということです。

現地パートナーのDCにクラウド環境を構築して、現地企業と日系企業を対象に2015年末までに250社を獲得する予定です。SaaSですから、アプリは何かと思ったのですが、「ご要望にあったスペックの仮想マシン環境を提供」としか発表していません。250社に採用してもらうのですから、ERPかオフィス系の汎用的なアプリなのでしょう。または、SaaSにするのは地元ベンダーで同社はPaaSまでが担当なのでしょうか。

海外のクラウド事業に進出するIT企業は少なくありません。NTTグループ企業が熱心なようです。しかし、クラウドというよりはDC事業です。それも、先進国中心です。クラウドはTCOで自前よりも安くなければ、見向きもされません。コストの安い、発展途上国よりは先進国の方がコスト・メリットを出し易いですし、欧米系大手はDC事業に余り熱心ではありません。設備産業ですから、投資が大きく、変化の激しいアウトソーシング事業では、リスクが高いと考えているのでしょう。資金に余裕があれば、日系企業が参入する余地が出てきます。ただし、それに止まる限りは、収益性は期待できません。DC事業を基盤に、次のステップで高収益事業を目指す、シナリオと戦略が不可欠です。

最近の国内ITベンダーは二言目にはクラウド事業が戦略の中心だと言います。しかし、実際に提供するのはASPやホスティングなどのDC事業です。クラウドの定義を間違っているのか、恣意的に変えています。安ければ問題ないだろうと価格を操作すれば、自社の事業基盤を危うくします。アマゾンやグーグルが自社リソースの余剰を使って参入し、経験とスキルを積み上げることで、サービスの安全性、安定性を強化しながら、規模のメリットを確立していることを忘れてはいけません。

セールスフォースは、1999年に設立され、約10年かけてSaaS世界bPの地位を得ました。当初からCRMを主力サービスとしましたが、これは米国におけるCRMブームを中堅中小企業向けに展開する戦略でした。成功した後も、次々とサービスラインと営業地域を拡大して、今日の規模と収益性を獲得したのです。ですが、米国以外では大半の国で、いまだ収益性が目標に達していないそうです。それだけの顧客基盤がないことと、オンプレミスとのコスト・ブレイクポイントが確立できていないのでしょう。ベニオフCEOは次の戦略を考えており、海外事業の収益力確保が期待通りでないことに焦りを抱いているとの話も聞きます。

筆者は、ここ十数年の間、数々のIT企業の破綻を見てきました。共通するのは、営業力が弱くトップセールスに頼っている、リスクを無視して高リスク案件に手出しして大きな赤字を出す、ブームに乗ってASPやERPパッケージ開発に参入し大規模投資をしたなどが破綻原因です。決定したトップによれば、利用を約束したお客がいたので、すぐに、拡販できると思ったと言います。筆者が、「一軒でもお客がついたら簡単に撤退できないでしょう。全く売れない方がまだマシでした。5年、10年赤字が続くリスクは考えなかったのですか?赤字のサービス・ビジネスは地獄ですよ。SIで穴をあける方がまだ、救われます。」と質しますと、社外の友人も社内の皆も賛成したと言うのです。ワンマン経営によくあるパターンです。

海外事業は確かに重要です。電力や治安など社会インフラとITスキルの高い人材が豊富な国・地域が前提ですが、そうした国では人件費は安くありません。一方、DCは一度作れば渡り歩くことはできません。こうした読みを加えた上で、複数の長期ビジネスケースで考えつくすことが必要です。偶然、親しくなった現地企業トップとパートナー話が出たくらいで、飛びつく話ではありません。年いくらの赤字を何年続けたら、全社屋台骨が危なくなるかといったストレステストも必要です。

ベトナム、ミャンマーなどと異なり、インドネシアやマレーシなどレベルが高いIT技術者が多い国に進出する場合は、周辺国や欧米先進国への進出も次のステップとして考えておくと事業計画は大きく変ります。市場定義を変えることで、収益を確保できる可能性が高まります。周辺国のベトナムやミャンマーでは、まだ、市場規模が小さく、IT技術者も少ないですから、市場としては有望な筈です。ポイントは、顧客企業がIT要員を抱えられるか、国全体のIT技術者はユーザーとベンダーとの間で片方に遍在しているかなどがポイントとなります。企業内に遍在している場合は、IaaS/PaaS、ベンダー内に遍在していればSaaSのニーズが強くなります。日本は圧倒的にベンダー側に遍在している特殊な国です。

日本国内ではFreeeという会計クラウドが、爆発的とも言える顧客拡大をしています。全自動で使いやすい、コストは極端に安い、簡単に導入できるなどが、消費増税で会計システム大幅変更が避けられないタイミングとフィットしました。アマゾンやグーグル相手に、IaaSやPaaSでは規模で全く勝目がないとすれば、それを二次加工するビジネスか、Freeeのようにアプリケーションで差別化するしか、日系クラウドベンダーが成功する道がないように思えるのです。

                                                   (島田 直貴)