プライベートバンキング

5月に野村證券が主催したビッグ4のIR説明会は、従来とは違う趣向だったようです。横並びの健全化計画などは退屈だというアナリスト達の要請を受けて、4行が最重要視する営業戦略を担当部門から説明したそうです。

UFJがACM(オートメィテド・コンサルティング・マシン)三井住友が中小企業取引、みずほが事業再生ビジネスの説明をしたのに対し、MTFGはプライベートバンキング(PB)戦略を説明しました。

シテイ、ソシジェネ、MSなど外資勢が、ここ数年PBを推進してきました。私も、金持ちになりすましてシテイのPB試行サービスを使ってみました。外国へ行く時にエグゼクテイブ・クラスを使うような快適さと手数料の優遇に喜んだものです。すぐに期間切れとなってしまいましたが。しかし、成功したと言われるシテイですら、最近はPBの営業権譲渡を噂される始末です。シテイはその後もPBのサービスメニューを追加していますが。

そんな折に、堅実とされるMTFGがPBに撃って出る、それもスイスに運用拠点を置くのですから注目されるのは当たり前でしょう。もともと富裕層における三菱銀行のシェアは最も高かったのですが。途端にマスコミがPBの特集を組むようになりました。6月7日などは、日経金融と朝日新聞が特集を組んでいました。(ここでマスコミの主体性の無さを非難する気はありません。彼らは勉強不足なだけなのでしょう。むしろ、そのマスコミ記事が載ってから検討するような金融機関の経営層が問題です。)

当コラムでも何度かPBに触れてきました。私は、決済を基盤としたマスリテールは儲けにならない、むしろPBを強化すべきだと考えてきました。金融業界でも二八の理論が良く言われます。しかし、実態はニーロクマルなのです。2%の顧客が60%の収益を提供しています。また、1400兆円と言われる個人金融資産の半分は年金や終身生保などの流動性が極めて低い資産です。四分の一は、60才以上を中心とした富裕層・準富裕層で占めています。残り350兆円を約1億2千万人(1世帯4人として1200万円)です。総中流国家と我々が思い込んでいる日本は、実は米国に次いで世界で二番目に貧富の差の大きいことを学者以外は認めていません。

外資系が参入しても成功しない理由を、日本人の国民性にする傾向があります。私はチャネル戦略の問題だと思っています。PBにリテールと同じマス・アプローチをとり、ハイリスク商品をベッタリ・サービスでゴマカスような売り方が受容されるわけがありません。多くの金持ちは、勉強しており、世間を良く知っています。むしろ彼らの方が、銀行より資産運用スキルが高いといえるでしょう。彼らは現在金持ちであり、銀行は運用に失敗して10年以上も苦心惨澹しています。

しかし、金持ちには金持ちなりの悩みがあり、また、そのニーズは千差万別です。これらを支援すれば、預かり資産の1%が年間PB手数料という相場です。要は金持ちを探し出し、リレーションを作り、その関係を維持発展させることがPB参入初期段階の成功要因です。ところが、日本の金持ちは自分が金持ちだとは言いません。言う人はフローが大きくても負債が大きいか、ストックが小さいことが多いようです。高額納税者は、前年のフローが大きいことは事実ですが、PB対象者かは別です。高利回り商品だけでは安定したPB展開は出来ません。金持ちを探し出し、関係を構築することが第一歩です。ITの出番は無いとは言いませんが、余り多くはないでしょう。

朝日新聞の記事では、PB成功の決め手は情報系システムであり、旧富士銀行のRMDB(リレーションシップ・マーケテイング・データベース)のように顧客情報を活用することだとしています。この記事でITベンダーは喜ぶでしょうが、顧客は喜ぶでしょうか?私なら「客のことを知ったかぶって、何かと口出しするセールスマン」には二度と会わないようにします。第一、気持ちが悪い。PBはハイテクではないのです。人間性・人格をベースとしたヒューマンタッチが大事で、ハイテクはコミュニケートやプロセシングを効率的にするツールなのですが、それを理解しようとしないマスコミや金融機関が多すぎます。ITを魔法の杖と思っています。その考え方が効果あるIT化を阻害することに気づいていません。銀行員はITに資源をかけるよりも、自分が金持ちになる努力をする方が、顧客に役立つコンピテンシーを身につけられると思います。