マイナンバー制度と金融


平成25年5月9日衆院本会議でマイナンバー法案が可決されました。与党だけでなく民主党も賛成しているので今国会での成立が確実になりました。

導入手順としては、まず、全国民に12桁の個人番号を振り、2015年10月頃に市町村から紙の通知カードを郵送する。16年1月から、顔写真付きICチップ・カードを市町村窓口で交付し、行政手続きに使えるようにする。17年1月からは、マイポータルというサイト経由で手続きが可能となる計画です。施行後3年を目途に医療情報や民間企業での活用など利用範囲拡大を検討します。正式名称を「社会保障・税番号制度」というように、当面は、社会保障と税務に限った利用となります。

この制度は随分と昔から検討され、国民背番号制度と称されてきました。10年程前には、納税者番号制度として検討されました。そのメリットは誰もが認めるところでしたが、国による個人情報管理・悪用が行われるとの理由で革新系政党が反対して、実現に至りませんでした。その流れを大きく変えたのが、2000年代中頃の社会保険における個人情報漏洩、年金記録問題、不正手続きなど一連の不祥事です。結果、社会保険庁は解体され、特殊法人日本年金機構となり、様々な改革が行われました。ただ、この時に発覚した年金記録ミスはいまだ全てが訂正された訳ではなく、システム対応のいい加減さと業務設計・開発のレベルの低さ、コストの高さは、いまだ国民の記憶に強く残っています。ベンダーを含む、あの人達がまた作るとしたら、とんでもないシステムになってコストも膨れ上がらないかと心配になります。

大和証券の予測では、政府、自治体に加え、民間に開放された場合を含めると、関連するIT市場は3兆円程度になるそうです。内訳は、政府のシステム構築2、3千億円、自治体のシステム改修1650億円と運用に年数百億円、カードで500億円などだそうです。この特需に対し、役所ビジネスに強いITベンダーは組織変更など態勢整備を始めたと言います。恩恵を受けそうな企業をネーミングして株取引を進める証券会社も出てきました。こんな動きを見ていると、土建屋体質はいまだIT業界から抜けていないと痛感します。もう少し、賢く考えて、低コストで速く、安心便利なシステムを造れないものか。その算出根拠は知りませんが、大和証券が3兆円というなら、1兆円にするとか。17年からのマイポータルも16年から稼働させるとか。技術的には充分可能な筈です。官僚がより安全を求める結果、ベンダーの見積りはドンドン膨らみ、それが前提となって高コストな仕組みが固定化されるというのが、これまでの常です。政府のIT戦略本部には、革新的なアイディアと強権をもってリードしてもらいたいと思います。

マイナンバーでは、当面は税と社会保障関連の行政手続きが多少便利になるというのが国民のメリットですが、国には収税の効率化という大きなメリットがあります。名寄せが実現しますので、申告漏れを容易にチェックできます。脱税も難しくなるでしょう。日本でGDPの20数%とされる地下経済は大きな打撃を受けます。社会保険関連でも事務ミスや支払い漏れ、過剰徴収などが激減するでしょう。2018年頃からと想定される民間企業への番号開放が実現すれば、企業などの営業方法が画期的に変ることになりますが、これはまだ判りません。個人情報の漏えいや乱用、なりすましによる犯罪への悪用などが懸念されるからです。ただ、実現すれば、金融コングロマリットにとっては大きな武器となります。グループ全体の顧客を一元的に把握できるからです。アグリゲーション・サービスも多様化、高度化するでしょう。経済産業省は個人情報保護法を改正して企業が保有する個人情報を他社が二次使用できる仕組みの検討をしているそうですが、米国のように積極的な情報利用が日本で受け入れられるか興味深いところです。

住民登録番号を社会インフラとして活用しているのが韓国です。行政手続きどころか、学校、病院、軍、銀行、クレジット、ネット取引など、殆どの分野で活用されています。「1枚で何でもできるが、なければ何もできない。」とまで言われます。韓国の友人に、悪用するトラブルはないのかと聞いてみました。返事は「ありますよ。しょっちゅうです。悪い奴は、いろいろな使い方を考え出す。」「被害にあうとしばらく、何もできなくなるのが、一番困る。」と言っていました。また、「韓国では、何にでも使えるようにしたのが間違いで、その点、日本は税と社会保障に絞ったのは正解です。」とも付け加えてくれました。韓国の国民番号導入には、北朝鮮の潜入工作員対策や脱税防止などの目的がありました。それと国民の利便性を高めるためにIT化を進めるインフラとの意味があります。日本でも、これからは海外からの人材流入が増加しますので、マイナンバー制度の必要性、重要性は高まる一方でしょう。しかしながら、先行した国々での事例を学びながら、弊害を抑え込む仕掛けを造ることも不可欠です。認証の仕掛けが最重要となりますが、皆で知恵を出し合うべきです。4ケタ暗証番号では危険極まりないですし、OTPでは面倒すぎます。生体認証でしょうか? これも漏れたら一大事です。生体認証と記憶認証を併用するのでしょうか。先行する国々を越える知恵が欲しいものです。

  (島田直貴)