金融犯罪 (利殖勧誘型犯罪抑止に法人口座チェック強化)


日経新聞、平成23年10月31日号記事。警察庁が金融機関に法人口座開設時のチェック強化や即日開設の停止を要請しているという内容です。金融機関の側では、顧客との関係に悪影響を及ぼしかねない繊細な問題なので、管理職が開設希望者と面談して、会社名、住所、設立年月日、事業目的、役員構成などでペーパーカンパニーでないか確認するなど負担が増しています。元々、法人の口座開設には、慎重な対応を行う銀行が多いのですが、警察庁は、事務所の実地調査や本人確認書類などのコピー保存まで求めており、銀行側では負担増を懸念しているそうです。

この背景には、未公開株や公社債をエサにする利殖勧誘型犯罪が増加しており、被害者からの金の受け皿を封じたいという、警察の狙いがあります。実際に利殖勧誘型犯罪に関連して警察が銀行口座凍結要請を行った件数は、今年前半6ヶ月で375件が、7−9月の3ヶ月で756件に急増したという。

銀行が開催する周年記念イベントなどに警察幹部が積極的に参列するようになったようです。県警本部長が祝辞もほどほどに、地銀頭取に対し「反社対策をしっかりやって下さい。」と必ず注文するという。振り込め詐欺でもそうですが、何かというと金融機関に協力と言いながら、負担を押し付けてくる。規制産業であり、公益的事業ということで、「手数料を払え。銀行は交番ではないのだ。」とも言えず、社会的責任を理由に、対応せざるを得ない。そもそも、こうした口座開設者にお大半が、銀行にとってコスト客であり、取引を断りたいのだが、預金口座となると、それなりの理由がなければ拒否できません。チェックにかかるような事を隠さないまま、口座開設にくる犯罪者などいないでしょう。それを見破るには、ベテランの経験とテクニックが必要であり、コスト意識も銀行実務も知らない警察には、銀行側にどのような負担がかかるか想像もしないのでしょう。いっそ、法人の口座開設には警察の検証と同意が必要で、警察は、1時間程度で検証回答することとし、かつ、銀行に通知手数料を払うというのはどうでしょう。やはり、警察国家は拙いですね。

銀行として注意しなくてはならないのが犯収法です。今年の4月、犯罪収益移転防止法が改正されました。来年春には警察庁から政省令が公布され、再来年春には施行される予定です。この法律は、金融界ではアンチマネロン(AML)対策法として知られていますが、法改正の内容は余り認識されていません。システム対応の費用が膨らむこともあり、見ないふりをしているのか、施行段階で他行の様子を見ながら、共同化で何とかしてもらえると思っているのでしょうか。この法律は、麻薬取引や国際テロ集団との関わりで外為管理法の流れも汲んでいますが、日本では組織犯罪処罰法が中核となっています。つまり、国際問題対応と反社会的勢力の追放という国策そのものです。対象事業者が金融機関だけでなく、貴金属販売業など、高額取引を扱う事業者全般に広がった結果、所管官庁が金融庁から警察庁に移りました。犯収法は、口座開設だけでなく、むしろ資金移動取引(100万円以上が対象になると予想されている。)のチェック厳格化が義務づけられます。取引目的や職業・事業内容を確認し、法人の場合は実質的支配者の本人特定義務が追加されました。疑いのある場合は、資産・収入を確認します。こうした情報の継続的更新や体制整備、従業員教育なども義務化されます。つまり、警察庁の銀行に対する上記要請は、この法律施行を前倒ししているだけであり、1年半後には法律で義務付けられると考えるべきです。

しかしながら、金融界のAML対策、犯収法対策は、殆ど進んでいません。メガバンクが大変なコストをかけてAMLシステムを導入していますが、果たして全ての必要事項を満たしているのでしょうか。地域銀行にいたっては、無料セミナー等に参加する程度で、実施計画を作った銀行すら聞きません。法律に対応する為には、顧客情報(取引履歴や取引傾向を含む)の収集、ブラックリストとの照合、フィルタリング、プロファイリング、届出報告書作成などの体制とシステム対応が必要です。しかし、現在、販売されているソリューション(現在、10社前後が提供している。)に全てをそろえたもの限られます。1、2社程度でしょうか。大変なコストのコンサル(現状分析と表面的対応策)だけという提案が多い。高額なパッケージに加えて勘定系等関連システムとの連携に膨大な負荷がかけながら、実現するのは、フィルタリングだけというものもあります。改正法施行直前になって慌てふためくと、不十分なソリューションを導入して、現場を混乱させ、コストばかり発生し、システム対応できないプロセスは人手に頼るというケースが予想されます。

AMLでは、取引ログとの突合が不可欠です。昔のディスク・スペース節約の名残りで、銀行は、取引ログを一定期間後にオフライン・データとして倉庫にしまってしまいます。これを廉価なディスクに蓄えて、ビッグデータ解析のコアとして利用すれば、DWHや情報系の姿が一変するでしょう。制度案件を受身で、横並びで、駆け込みで対応していては、こうした戦略的展開は不可能です。共同化しているのだから、アウトソーシングしているのだからと、他人任せで考えると、経営の期待を裏切ることになります。ITベンダーも制度案件を単なる棚ボタと考えてはなりません。顧客である金融機関の経営課題を複合的に解決する知恵を絞ることが必要です。