法人向けネットバンキングとコンテンツ・ビジネス

この記事(日経14年5月24日号)の見出しを見た時に「いよいよ始まった」と思いました。東京三菱が有力地銀4行と共同で法人向けネット事業を行なうというので、基幹業務である預貸決済をネットで提供するものと思ったからです。しかし内容を見ますと、有料で中小企業向け経営相談や経済情報を配信するというサービスでした。これにより地銀は低料金のニュース配信サービス提供が可能となり、MTFGは利用者のすそ野を広げられるのだそうです。何でこんなことがニュースになるのかと思ったら、経済情報の提供者が日経子会社だということでした。日経だけではないのですが、日本の新聞は、読者から購読料を取りながら自社の宣伝活動をニュースでやるという悪い習慣があります。

このサービスは、単なる有料ニュース配信で、ネットバンキング・サービスとリンクを貼るのでしょうが、いわゆるコンテンツ・サービスです。私も何社かネットによるコンテンツ・ビジネスを知っていますが、どこも経営が大変厳しい状況にあります。当然といえば当然でして、提供する情報に対価を払ってもらえる仕組み(ビジネスモデル)になっていないからでしょう。原因を思いつくままにあげてみます。

1.   有料サービスと無料サービスの違いが定かでない。
月間4千円弱の新聞や無料のネット情報と比較して、定常的に対価を払う価値のある情報なのか。誰でも入手可能となれば、情報の希少価値が失われないか。汎用的な情報は趣味娯楽教養の分野に特定されるのでは。

2.   中小企業の作業実態を知らない。
経営者のみならず、経営幹部がノンビリとネットから入ってくる情報を眺めているほど暇ではないでしょう。突然発生する問題の相談に銀行関係者を選ぶほど、人脈が枯れている筈はありません。

3.   コンテンツの作成と維持には膨大な費用が必要。
顧客の要望は広がり、高度化していく。全くの我侭放題と言えよう。それを満たすための費用は莫大である。対応しなければ顧客は離れていく。しかし、少数でも顧客が存在する限りサービス・コストが減ることはない。

4.   情報の価値は可変である。
ビジネス情報は、情報そのものに価値があるわけでない。情報を活用して得た成果が情報の価値を決定する。活用方法は使用者の能力に依存する。市況情報のように、利用者が特定でき、生情報をベースとして確立した加工手法が普及している分野はまれではないか。

5.   典型的なチキンアンドエッグ型ビジネスである。

安く、誰でも使えるようにすれば限りなく価格は低下する。高価格では顧客は他の代案を追求することになる。利用者数と価格水準の最適化が極めて難しい。仮に実現しても、それを維持継続することは至難である。

コンテンツ・ビジネス成功のポイント

希少性と新鮮性を確保するには、情報(データ)の発生源を抑えることに尽きます。初期のコンテンツ作成は、別の本来的目的の為に作成された情報を使うべきです。新規に作成するには時間も費用も割に合わないのが一般的だからです。それをより多くの利用者に使用してもらい、フイードバックを受けられればベストでしょう。信用情報などが代表的なコンテンツです。使えば使うほど情報の量と精度が高まることになります。「自然な自己増殖」はコンテンツ・ビジネスのキーワードでしょう。
価格によるサービスの差別化も必要となります。ロイターやブルームバーグ等は、ランクによって情報の提供時間をズラシているとも聞きます。特定の顧客だけに高価格で希少性を提供する方法も良いですが、事業規模は限定されるでしょう。生データそのものは無料ないしは超低料金で提供して、それを加工したり、他の情報と組み合わせることで価格帯をあげていく方法もあるでしょう。いずれにせよ、採算軌道に乗せるには大変な先行投資が不可欠です。

日本人は情報という言葉に弱いようです。一人一人が勝手に、その時点で自分の欲しい情報が入手出来ると解釈する傾向にあります。提供側も平気で「いつでも、どこでも、好きな情報がなんでも手に入ります」的な言い方をして、それを誰もが疑問に思わない。コンテンツの価値(情報価値や時間代替価値など)でなく、その媒介手段であるメデイアに注目する。金融でITが戦略的に使われない原因がこのあたりにあるようです。