銀行の個人ローン業務 (金融庁が体制整備を要請)


日経新聞平成22年6月18日付記事です。小さな記事ですが、銀行にとっては嫌な内容です。金融庁が銀行に対して無担保個人ローン業務の体制整備を求めるということです。具体的には、信用保証会社に頼らず、自行で融資判断や顧客の利用実態を把握する審査体制を作れということです。まだ、正式に公表された施策ではありませんが、改正貸金業法の完全施行に関する議論の過程で、銀行が当分野に対し余りに消極的である、それが貸金業者による多重債務問題に繋がった、銀行自らに与信技術がなく信用保証会社へ丸投げしている・・・などの批判が出ました。こうした批判を受け、加えて、銀行にとって残された数少ない収益拡大分野である無担保個人ローンを推進させたいが、一部を除く大半の銀行は参入する姿勢すら見せていない。であれば、行政主導で進めるかという話なのでしょう。

この6月18日は、改正貸金業法完全施行の日でした。メディアが懸念していた大混乱はなかったそうです。減額されながらも夏ボーナス支給直後ということも幸いだったとされます。次の資金需要は年末で、それまでに新規融資を受けられなくなった利用者に対する救済策を用意することが課題となります。大手専業は、新規融資どころでなく、資金繰りというサバイバル・ゲーム真っ最中です。市場規模が急激に萎み、金利低下も一挙に進みましたが、本来は収益を期待できるビジネスであり、最後に残った者が一人勝ちできると、各社ともに考えているようです。あらゆるコスト削減、新規貸出抑制、貸出金回収、資産売却など、本業そっちのけで資金繰り競争をやっています。(唯一明るい道はアジア市場だけです。これとて目立つ規模になれば、現地政府などと摩擦を引き起こす可能性が高いので、撤退や縮小をにらんだ上での展開となります。)行政としては、何としてでも銀行に、この分野のメイン・プレイヤーになって欲しいし、仮に実現しなくても、資金に窮する100万人単位の多重債務者による社会不安の責任から逃れるアリバイ造りが必要なのでしょう。

ところで銀行による無担保ローンは貸金業法総量規制の対象外です。年収の3分の1以上を既に借りてしまった人は、金利支払いの為に貸金業者から借金することが法的に不可能となりました。ヤミ金に向かうか(既に向かっていますが)銀行から借りるかとなりますが、銀行が貸せる筈がありません。保証子会社を作って、それに保証させても同じことです。一部におまとめローンと称して高収益を上げる銀行もありますが、これはクリーム・スキミングの結果であって、多重債務者の大半が月々キャッシュフローでマイナスだそうです。政府保証でもなければ、こうした層に銀行が貸せるわけがありません。預金者も許しません。

何故、こんな無茶とも思える業法改正をしたのか?これ以上新たな多重債務者を発生させる訳にはいかないというのが政策判断だったそうで、その方策が金利抑制と総量規制だという論理です。そしてこの層へのセイフティネットが、NPOやマイクロファイナンスと銀行による参入だと考えられています。規模からすれば銀行に負う所が大となりますが、当局は銀行にやらせた場合のビジネス・モデルや収益性はシミュレーションしていません。銀行に実験させてベンチマーキングしようという目論見が見え見えです。それが、この記事でいう体制整備の要請だと解釈できそうです。生体実験される銀行や預金者は、もう少し怒って良いでしょう。「俺の金を勝手にするな」と。どうも役人は税金や預金を所有者のいない雨水と同じに考えるようです。そういえば、各銀行協会の役員を務めるような銀行で、無担保個人ローンの事業戦略を検討している様子が窺えます。当局からの要請を受けて、隠密裏に検討しているのでしょう。しかし、マクロとしての信用コストを認識していても、個別融資案件での貸し倒れを一切認めない銀行文化が、検討を阻害しているようです。米銀のように一定条件を満たせば詳細審査なしに貸付口座を開設し、途上与信で信用リスク管理を行うなどといった発想は受け入れません。信用リスク巡航速度を2%と設定したとして、それを補完する貸出利回りは難しくありません。行政は審査技術の問題と考えているようですが、むしろ事務コストの方が大きそうです。ポイントは想定信用コストの範囲であれば許容する組織基準と途上与信管理における事務コスト、そして回収や債権流動化等の出口スキームの問題と考えます。

筆者も30年以上に渡って個人向け有担、無担融資が銀行ビジネスにとって重要と唱えてきましたが、いまだに銀行業務の柱となっていません。多くの銀行が中期経営計画の柱として謳い続けているのですが、具体的に組織文化、行内の評価制度にまで踏み込んだ施策を展開する銀行は稀です。大半は当該分野に注力する銀行を奇異な目で見ている状況です。銀行員は、貸金業者から融資を受けることはありませんし、申し込んでも拒絶されます。ですから、貸金業界を知らなさすぎます。その顧客のことも全く知らず、偏見だけを持っているようです。プライベート・バンキング戦略を考えている銀行のチームに富裕層出身者がいなければ、何も判らないだろうと書いたことがありますが、ここでも同じことが言えます。頭で考えるだけではニーズを掴めません。マイクロファイナンス専門の子銀行を作って、そこに銀行未経験者を採用するくらいのことが必要でしょう。貸金子会社でなく子銀行にするのは、顧客のキャッシュフローを掴んで途上与信管理と生活アドバイスをする為です。別会社にするのは、古い体質の銀行員に邪魔をさせない為です。

どうすれば、小口無担融資で儲けることができるのかと質問されます。筆者に確たる答えがある訳ではありません。しかし、新規にビジネス・モデルを作るのであれば、専業貸金業者と銀行の抱える問題を解消しつつ、選択と集中を行うことが重要なことは確かです。地域に拘泥せず、セグメント別の商品やチャネル開発が面白いと思っています。地域銀行だからと、地域単位で考えると規模の制約で思考が止まります。意外かもしれませんが、ある種の公的職種などは優良な顧客層です。消費者ローン市場が大きくシャッフリングされ、白地に基本設計からできると考えれば、金融サービス産業にとって大チャンスです。戦略と実行力が分かれ目となるでしょう。