デスクトップ仮想化 (BTMUがPCのシンクライアント化)


ニッキン平成22年6月11日付記事です。VMwareが、三菱東京UFJ銀行の行内OA用PC端末3000台を仮想化デスクトップによるシンクライアント端末に置き換えたそうです。IT部門に導入しているPC6千台の内、半分をWyseV10Lに替え、順次統一するとのことです。VMware社は、メディアにリリ−スすると同時に平成22年5月31日付サイトに掲載しています。

http://www.vmware.com/jp/company/news/releases/201005-mufg-view.html

BTMUはこの件に関して何も発表していませんが、同行のことですからVMware社のリリース原稿は厳しくチェックしていることでしょう。金融機関の顧客に関して無断で発表すればとんでもない騒ぎとなり、出入り禁止となってしまいます。つまり、この発表は、内容的にそのまま信用して良いと思います。

大手金融グループの場合、グループ全体で10万台前後のPCが導入されています。それも様々な種類のPCです。さすがに最近は98やOASYSなどがなくなって、大多数はWindows系となっています。それでも95、98、Me、NT、2000、2003、XP、VISTA、7などが混在しています。OA系であれば現在はXPが中心でしょうが、それも今年7月14日にサポート切れとなります。業務系ではいまだにNTが活躍しています。サポート切れのPCでハードが故障したらどうするのかと言えば、PCベンダーからパーツか特別注文PCを入手する仕組みになっています。当然、最新機種市販価格の数倍はします。不要になった旧式PCをバックアップ用に保管している金融機関もあります。但し、置いておくだけですと作動しなくなりますので、定期的に稼働確認します。その作業とスペースが大変だそうです。

仮想化技術はハード、OSとアプリの間に仮想化レイヤーをおき、それぞれの独立性を確保します。アプリケーションをOSやハードから分離独立させ、インフラ環境が異なってもアプリをそのまま稼働させる技術です。以前にもこのコラムで書きましたが、仮想化技術はS/360の時代からありました。昔は、限られたインフラに対してエミュレーション技術で仮想化したのですが、今日ではハードが大容量高速化しパフォーマンスの問題が解決され、OSもオープン化が進みソフトによる仮想化が容易となり低コストで実用化できる時代となりました。コスト削減の為のサーバー集約や可用性向上の為の資源最適化や自動バックアップなどを目的に利用企業が増えるに従い、様々な機能が日々開発されています。今流行りのクラウドでは必須の技術です。仮想化の対象としては、大きくサーバー、ストーレッジ、デスクトップ、ネットワークがありますが、今回のBTMUが発表したのはデスクトップの仮想化です。金融業界でも、1社で数千、数万となった新旧サーバーを仮想化する流れが始まりましたが、デスクトップに及んできたということでしょう。

デスクトップPC仮想化によるシンクライアント化は、情報保護、BCP、在宅勤務、コンプライアンス強化などに直接的効果が期待できますが、更に、PCアプリケーションの長寿命化、PCソフト料金の削減、種々雑多なPCソフトの一元管理、エンドユーザーの権限管理、利用履歴管理などIT部門を悩ませてきた問題を大きく軽減できます。PCのOSとアプリケーションのバージョン整合性管理などは、IT部門もユーザー部門も悩みを超えて怒りの対象でした。大きなFile操作などでエンドユーザーをイライラさせたジョブもセンター側で処理すれば高速処理が可能となります。担当者が異動する時の、PCソフトとFileに関する引き継ぎも楽になりますし、障害や操作方法のQ&Aなどにも迅速に対応できるようになります。

仮想化は好いことばかりに見えますが、それなりの注意も必要です。例えばパフォ−マンスの問題やセキュリティの問題が出てきます。仮想化ソフトに障害が発生して全てのクライアントが停止する可能性はないか、仮想化ソフトがハッキングされた場合やウィルスに汚染されたらどうなるか。クライアント側で必要な千差万別なアプリ・ソフト全てを仮想化ソフトがサポートできるのか、サポートし続けられるのか。仮想化に適さない業務や機器の為に、別個のサーバーやクライアントを導入せざるをえなくなるのではないか。ソフト・ライセンス料金が逆に高くなりはしないかなどです。何かと保守的な金融機関が、仮想化においても他業種に遅れをとっている理由です。しかし、最も保守的と思われているBTMUが採用したことで、大きく流れが変わるでしょう。それにしてもクライアント端末をWyseのThinClientに替えてしまうとは驚きというか、BTMUも随分とIT文化が変わったと感心します。

VMware社について筆者は、社名と製品しか知りませんでしたが、年間売上が20億ドル程度の規模でした。これほど普及した仮想化ソフトのトップベンダーで17万社もユーザーがいるのですから、1兆円前後の売り上げがあるかと思っていたのですが意外と小規模でした。確認してみるとソフト売上で100億ドル以上ある企業は、マイクロソフトの580億ドル、IBMの210億ドル、オラクルの190億ドルだけでした。しかし、VMware社のように特化したソフト・ビジネスでも、成功すれば60〜80%の粗利が可能であること(利益規模で言えば売上2兆円以上の日系IT企業と同規模)、100兆円以上という巨大な世界IT市場でも大きな存在感を持つようになれると痛感します。セールスフォースドットコム社も同様ですが。わが国にこうしたビジネスモデルで成功したIT企業が出てこないことは、極めて残念です。言語や市場がニッチというか閉鎖的なのでしょう。よくIT企業側の経営や戦略の問題と言われますが、最近の筆者は「IT企業の問題だけでなく、市場(=顧客)の閉鎖性や保守性の問題」ではないかと思い始めました。かつて世界の10%であったわが国市場規模は、GDPと同様に7%となり、新興国の成長で更に小規模化が進んでいます。技術には本来、国境がありません。守りだけでは生き残れないのです。IT業界の任天堂やユニクロが出てくることを期待しています。