クラウド (セールスフォースが東京にDC)


日経新聞の平成22年5月12日付記事です。米セールスフォース・ドットコム(以下SFDC)のマーク・ベニオフCEOが、2011年に都内にクラウド・センターを設置すると記者に語ったとのことです。海外での処理やデータ保管に懸念を示す企業に安心感を提供し、現在の国内売上100億円弱を1千億円に伸ばす計画だそうです。全社の成長率を16、7%と見込んでいますから、5年程度で、日本での売上を10倍にする計画ということになります。

同社は、クラウド先駆者であり、最も多くのユーザーを抱えています。富士通を始めとして大手IT企業は、自社展開を発表しながらも、実体はSFDCの販売代理や同社のインフラを使ってのSaaS事業に注力しています。日本での当面の流れとしては、SFDCが企業向けオープン・クラウドで一人勝ちと見られるのはもっともです。グループウェアのクラウド・サービスでIBMやマイクロソフトが健闘していますが、データベースを核としたSaaSの分野では、SFDCに対抗できる企業はまだ出ていません。最近では損保ジャパンが、37万5千人ユーザーを対象とするポータルを構築して注目されています。

まさに破竹の勢いで、大手IT企業も次々と同社になびく状況ですが、弱点というか補強すべき大きなポイントが2点あります。

第一が、営業力です。現在は、国内企業による販売代理が中心ですが、それでは米国本社が期待する利益率を確保できないでしょう。それは外資系IT企業共通の悩みで、日本法人経営者は常に米本社から利益率の低さを責められます。顧客の要望が厳しいということもあるのですが、代理販売による中間マージンが最大の理由です。といって、直販にシフトするのは容易でありません。SFDCも懸命に営業要員の採用・強化を図っているようです。代理店チャネルも、提携先が多くなると様々な問題が出てきます。いい加減な提案をされて、その後始末に追われる。自分だけでは売り切れない代理店の支援に体力を消耗する。パートナー戦略、アライアンス戦略も営業における大きな課題です。

第二が、データセンター設置場所の問題です。処理がどこでどう行われているか、障害が起きた時に、どうコミュニケートして対策調整をするか、顧客データ等の保管保護は大丈夫か、センターが遠いので処理遅延が大きいのではないかなどの懸念が顧客から出されます。自民党政権の末期には、フランスのようにTDF(トランスボーダー・データ・フロー)規制を導入すべきとの動きがでましたが、今の国会では忘れ去られています。しかし、イベント・ドリブンで過剰反応する政界ですから、ひとたび何か起これば、短期間で激変をもたらす規制が行われることが予想されます。SFDCの東京センターに関しては、大半の金融機関IT関係者が、「どこまで本格的なものか?実際にそこで処理やデータ保管をするのか?ただのノードだったりして。」との声が多い。しかし、仮に年間500億の売上として、その10%(極めて低めですが)をDCに割いたとして年50億円となります。100億円以上の初期投資は可能です。それも大半はセンター設備とサーバー等ハードです。もし、コンテナ型DCを採用(大手企業は嫌がるでしょうが)すれば、数千台のサーバーを導入できます。インフラソフトは米本社から持ってくるだけですし、運用も大半は自動化されています。問題は、日本のお客が大きくて頑丈で、外見の良いセンター建物を期待することくらいです。要は、規制が行われて日本での事業ができなくなる前の保険と考えれば妥当な投資です。グーグルやアマゾンなども同様の手を打ってくるでしょう。

そう考えると、残念ながら日本のITインフラが国産技術以外で占拠されることになります。日立が、懸命にクラウド対応の仮想化ソフトや運用ソフトの機能強化を行っていますが、他の国産ベンダーは現在研究中、開発中というところです。米系は、毎日のように万単位の顧客相手に実戦を踏んでいます。日々技術革新を進めているということになります。彼我の差は開く一方ということが自明です。総務省のICTタスクフォースでは、クラウドを戦略的5分野の一つとして2015年までに2兆円の市場創出を目指すとしています。それを当てにしたらとんでもないことになります。これまでのIT産業政策の結果を見れば、恩恵を受けるのは研究開発の助成金を受け取る企業だけだと、誰しも痛感しています。

日本に残るIT関連技術の強みは何でしょう?少なくともアプリケーション開発技術だけは失う訳にいきません。それを失うことは、ITの利用者であるユーザー企業のコンピテンシーすらも、外国依存になるということですから。日本のアプリケーション開発を実際に支えてきたのは、大手の下でプロジェクトに参画する中堅・中小開発企業です。昨今のIT不況で、これら企業が解散或いは人減らしをしています。その結果、毎日のようにアプリ開発技術者が雲散しています。それでいながら、金融界は外部委託とパッケージ使用で自分のアプリ開発力すら劣化させ続けています。IT価値を生み出すアプリケーション・スキルがわが国金融界から失われることは、何としてでも防がねばなりません。