オープン系分散型基幹系システム

日経金融新聞の平成145月14日号特集「IT金融の実力」です。かなり単純な論法で分散型アーキテクチャーへの移行を勧めています。
みずほ障害の技術的要因としてメインフレームの限界と誤訳リスクのあるRCを採用したことを指摘、信金業界の分散型共同オンラインや八千代銀行の分散型オンラインが如何に低コストで、機動性に富んでいるかを強調しています。また、大手銀行が分散型には慎重で、一部のサブシステムでの採用に止まっているとしています。そして、メインフレームを捨てて安価な分散型を活用することが、金融復活のカギだとまで言い切っています。

以前にも、このコラムでオープン系システムについてコメントしたことがありますが、筆者もオープン系技術を高く評価し、クライアントのIT計画を支援する際には、必ず検討して、積極的に採用を提言しています。しかしながら、メインフレームの価値をこのように否定したことはありません。確かに汎用機とその上に岩盤の如くに累積した膨大なプログラム群が、数々の制約要因となってはいます。しかし、それは汎用機の技術的限界というよりは、ソフトウエア・エンジニアリングの問題であり、我が国金融業界のIT化の歴史によるものと言えるでしょう。

この記事を見る限り、取材チームの情報源は一部のベンダーとその紹介による開発段階にある一部の金融機関です。多少なりともITを知った身からすると、極めて表層的な比較だけでメインフレーム廃棄論を展開しているとしか思えないのです。担当記者たちが、2年後にどのような記事を書いているかを見守っていきたいと思っています。

最近、マスコミの記者と接触する機会が急増しています。みずほ障害を契機として、金融のITに対する関心が高まっていることの証左でしょう。取材内容は、SE論、PM論、CIO論等々様々ですが、コンピュータ・アーキテクチャーを勉強したことのある人は皆無です。ましてや、インフオメーション・エンジニアリングなどは言葉も知りません。
ですから汎用機、UnixPCの違いも理解していません。大手金融機関のアプリケーション・プログラムの大半が、巨大な一つの総勘定元帳に繋がっていることや、膨大なセンターカットがオン中バッチで処理されているという我が国金融機関独特の金融システム・アーキテクチャーも知りません。二百数十の信用金庫用に分散した勘定元帳とは前提が違うのですが、記者に説明したベンダーは、そのようなことを正確には伝えていないようです。大手金融機関がWebベースのシステムを開発したとしても、それがフロント業務であり、本当の基幹部分はメインフレームであることも認識していません。

マスコミの立場としては、単純に数字で比較できて、新旧の差が大きければ読者に判り易いというのは理解できます。要は読む側の知識レベルとなります。金融機関の経営者の多くが、この記事を見ると思います。その後の反応は明らかです。「ウチは、分散化はどうなっているんだ?」IT部門の説明も容易に予測できます。「はい、既に取り組んでいます。何時でも採用できる状態にありますので、心配は無用です。」これでは、何も改善・改革されません。

二者択一の技術論ではないのです。戦略に基づいた(なければないで仕方ありませんが)
全体のアーキテクチャーを設計し、各業務のプロセスとデータの特性に応じて、集中と分散の配置を設定することが第一ステップです。次に、処理能力やミドルソフトの開発可能性と総コスト(単純なハード費用や開発人件費のみでなく、ユーザー部門を含めた運用コスト等の全コスト)とのバランスでシステム構成(ハード、ソフト)を決める必要があります。

このような作業に外部コンサル会社が良く利用されます。しかし、私の知る限り、コンピュータ・アーキテクチャーやインフオメーション・エンジニアリングを実務と合わせて理解しているコンサルタントは極めて稀です。多くは結論ありきです。「オープン系です。世界の標準で、欧米の先進金融機関が使っています。安いです。早いです。」と言います。経営者は、「本当に大丈夫か?」とベンダーのトップに聞きます。営業優先ですから、「任せて下さい。当社の総力を挙げて。」という回答で決まってしまうのがこれまでのケースです。

私の個人的思い込みですが、日本のマスコミの多くは無責任です。自分の記事で、事実を提示するが真実は読者が判断すべきだという姿勢です。そこには、希望、予定、実績の区別も、普遍的か例外的かの区別もありません。経過や結果まで追跡取材することも稀です。米国業界紙のように、長短を比較し、予想される問題も指摘した上で、結果までフオローする報道姿勢はありません。このような記事で経営案件を決定する経営者は少ないと思いますが、影響を無視することは出来ないから問題なのです。

基幹系の新規プロジェクトが大破すれば、今回のみずほ騒動とは異なる結果となります。稼動しなくても、旧システムを使えば顧客への影響は何もありませんが、数年の歳月と巨額な資金がドブに消えます。企業存続の問題に至ることもあるでしょう。株主、アナリスト、従業員は大規模プロジェクトのリスクを評価して金融機関の健全性を判断する必要があります。ITケイパビリテイが銀行の格付けに影響する時代となりました。