振り込め詐欺防止 (巣鴨信金が無人ATM振込を停止)

近親者が被害に合わないと気がつかないのですが、振り込め詐欺の被害が拡大一方のようです。連日のように関連するニュースが報道されています。手口もますます巧妙化しているようで、高齢とはいえ弁護士という冷静沈着を代名詞とする職業人まで被害に合うと、誰にも他人事ではなくなってきます。

警察庁調査によれば、今年1月から6月の間、振り込め詐欺認知件数は11903件だったそうです。前年同期比55%増です。被害額も167億円と巨額です。犯罪者からすれば、捕まってもたいした重罪ではありませんので、ローリスク・ハイリターンのオイシイ商売なのでしょう。振り込め詐欺といえば、オレオレ詐欺とばかりと思っていましたが、手口は大きく4種あるそうです。オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺です。融資保証詐欺だけは、対前年で減少していますが、オレオレと架空請求は、ともに50%近い増加です。激しいのは、還付金詐欺で4.4倍の3411件、36億円と急増しています。医療費や税金を返還するからという誘いなのですが、受け取る立場なのに送金することに疑問を感じないというのは理解できません。被害者の6割が50歳以上の女性だそうです。架空請求の被害者の場合は、6割が20代と30代の男性だというのですから、犯罪者は金融機関以上にセグメント・マーケティングに長けています。

防止の仕組として、国民への啓蒙活動以外に、他人名義或いは偽名の預金口座と携帯電話を抑えることがあります。ともに犯罪収益移転防止法、改正本人確認法、有印私文書偽造等の刑事犯罪に該当しますが、軽い気持で携帯電話や預金口座を他人に売り渡す人達が多いそうです。警察は、この犯罪の検挙にも注力しており、昨年前半で80件の検挙数だったものが、今年前半は530件検挙と頑張っています。それでも騙される人が増える一方なので、水際作戦として送金時点で防止しようとします。つまり銀行店内で顧客への声かけ、異常取引を検知して顧客への取引確認、或いは送金手続き停止、被仕向け口座の凍結などです。東京では、ATMコーナーを機動隊員が巡回することまで始めました。警察庁は銀行に、ATMコーナーでの携帯電話使用禁止まで依頼しています。銀行としては、ポスター程度は良いとして、携帯通話中の顧客に行員が止めろとまでは言えません。そこで、通話遮断電波発信機の話が出てきます。電波免許を所管する総務省の許可が必要ですが、総務省は優先的に許可を出すとしています。全国8万以上のATM設置場所に携帯電話遮断装置を導入したら、業者には特需ですが、銀行には堪ったものではありません。

韓国や台湾でも、同様の犯罪が増えており、時々、中国の犯罪集団検挙などというニュースが流れますが、日本のように国民的関心事となり、金融機関にここまで負担を求めることはありません。騙されるのは気の毒だが犯罪だから警察の問題。自分で自分を守るということなのでしょう。しかし、ATM送金を使った詐欺が蔓延するというのは、日本式金融制度とサービスを導入している日韓台だけというのは面白い。そして、黒幕の多くが外国人で、日本人は小銭で口座や携帯電話や住民票を売り、使い走りでATMから出金するというのは実に良くできたビジネス・モデルです。特許取得は難しいですが。

これからも、同じような発想の犯罪が出てくることは間違いありません。純朴で金のある人がいて、深く考えもせず犯罪に手を貸す人がいて、性善説に基づいた決済システムが普及しているのですから、犯罪者が見逃す筈ありません。こうした中、巣鴨信金がまた、面白いことをやりました。無人ATMによる送金サービスを停止したのです。日経新聞の平成20913日号が小さく報道していました。詳しくは同金庫サイトを参照下さい。http://www.sugamo.co.jp/news_release/20080525_b.html

フェイスツーフェイスを原則とする信金として、顧客は職員が守る。利便性よりリスクの高い自動化サービスは止めてしまうという割り切りです。本コラムでは、20072月に同金庫が発表した盗人御用という新商品を紹介しました。カード犯罪防止が強く金融機関に求められていた時期です。口座開設店窓口だけ、本人だけで写真入り証明が必要、カード発行せずという流動性預金で、1260円の月額手数料まで取ります。原点に戻る発想だけなのですが、日経優秀製品・サービス賞優秀賞を受けています。多くの金融機関が視察に行きましたが、同種商品を発表したという話は聞きません。また、同商品がどれほど売れたかも知りません。噂で、商品販売としては失敗だと聞いたことがありますが。それでも、何も考えずに愚痴を言いつつ大勢に従うだけの金融業界にあって、巣鴨信金の「考えて、実行する」という姿勢は新鮮ですし、賞賛したいと思います。

直接収益に結びつかない案件が、社会的要請として金融業界を絶えることなく圧迫し続けることは確かです。付和雷同し続けるのか?長年努力しても住宅ローン以外利益にならない個人ビジネスを今のまま続けるのか?住宅ローンは何時まで収益性を維持できるのか?個人ビジネスの顧客は誰なのか?間接金融と証券・保険の窓販だけでよいのか?ノンバンクとセット販売すれば収益構造の変革が出来るのか?下らないと思える振り込め詐欺騒動も、個人金融ビジネスのあり方を根本から見なおす材料となります。新規参入銀行やゆうちょ銀行が、原点から考えなおしたビジネス・モデルに挑戦すれば面白かったのですが、どこも同じことをやっています。蓄積型の産業で、後から参入した者が勝てるのは、先行者が勝手にこけた時だけです。新生銀行のような新しいコンセプトの銀行も、ビジネス・モデル変革まではできませんでした。その理由はどこにあるのでしょう。個別金融機関の能力ではなく、社会構造に原因があるとすれば怖い話です。その確認のためにも、巣鴨信金のような組織文化をもった金融機関に大きなチャレンジをして欲しいものです。例えば、普銀に転換して、外資や小売業、卸売業と資本提携、業務提携を行って・・・です。組織体制、情報システム、商品などのようなハードウェア的経営資源では、今のような変革期を勝ち抜けません。個々人の技能・資質、組織文化、社内評価制度のようなソフトウェア的経営資源が何より重要です。