SaaSビジネスの拡大 (NECなどがSFDCと提携)


最近、セールスフォース・ドットコム(SFDC)と提携する国内IT企業が相次いでいます。9月1日にはNECがSFDCのVAR(付加価値再販業者)契約を結んだそうです。VARなどとは、随分となつかしい業界用語で、まだ使われていたのかと思いました。要は、SFDCのSaaSの上にNECがアプリを乗せて、販売するというビジネスです。9月3日には、CSKがSFDC認定コンサル15名で、同社のコールセンターASPをSFDCのCRMと組み合わせて提供すると発表しました。

http://www.salesforce.com/jp/company

5月にはNTTコムがVPNでのSalesforce対応を発表し、NTTドコモは、iモードやHSDPAでのシングル・サイン・オン・サービスを発表。NTT持ち株もNGN対応を表明しています。まさに草木もなびくSFDCといった感があります。

SFDC社の今年5〜7月期決算は、売上263百万ドルで純利益10百万ドルと最高だったそうです。前年比49%増ですから大変な成長速度です。とはいえ、年間売上10億ドル強の見込みですから、円換算で1100億円程度の規模です。そんなに騒ぐことはないのにとも思うのですが、MS社などワールドクラスのIT企業は、こぞってグーグルとSFDCを最大の脅威とみなしています。SFDC社の顧客数が4万7700社と年間で1万2千社も増えていることに危機感を持っているのでしょうか。確かに今後のITビジネスでは個人とSMB(中小企業)ビジネスが今後の有望分野として期待されています。それぞれをグーグルとSFDCに抑えられたら、既存大手IT企業は成長の場を失います。そこで、両社のビジネス・モデルを模倣した新規ビジネスに躍起になっているのでしょう。彼らの技術戦略、資本戦略、営業戦略を見比べていると、面白くもあり、羨ましくもあります。どうして、日本ではこうした闊達な競争が起きないのか?

今年に入ってIT需要は急速に冷え込んでいます。特に開発関連のサービス・ビジネスは傍目にみていて、悲惨ともいう状況です。大手は前期までの仕事の支払を受けて売上だけは微増ですが、受注残の急減はどうにもならないようです。期待されていた分野(ノンバンクの次期システム等)は、いわゆる3K不況で全て吹き飛びました。BTMUシステム統合のような巨大プロジェクトも、開発ベンダーには残念でしょうが、順調に稼働移行が進み、技術者が続々と自社に戻っています。その上にサブプライムを理由として大手銀や証券会社関連の投資が凍結状態です。

中堅以下規模のSIer経営者と話をしていると、「90年代バブル崩壊不況どころの話ではない。」「何とかして新しいビジネス・モデルを作らなくては。」「どっかに仕事はないか。何でも良い。安くしておく。」という話ばかりです。筆者は、「考えるだけ無駄でしょう。前回もそう言いながら、何もしなかったではないですか。それでも景気は循環して昨年までは好業績だったですよね。今は、静かにしているか、会社を売り逃げするか、SFDCみたいな成長企業にぶら下がるか、枝振りの良い木を捜すかですね。」とイジワルを言います。今更、ブームに乗じてSaaSに参入しようなんて無謀極まりない話です。インフラ技術、運用技術のレベルが違いすぎます。ASPで懲りた筈なのですが、ビジネスのCSF(主要成功要因)を抑えずして、名前だけ変えてもASPと同じ失敗を繰返すだけです。

日本と同様に需要の冷え込んだ米国では、大手金融機関だけは、サブプライム損を言い訳にせず、40%が投資増を予定しているそうです。減少が20%、維持が40%ですから、投資効果があれば投資するという姿勢です。日本のようにITを投資ではなく、不可避経費とみる経営には無理ですが。国内大手IT企業では、海外ビジネスが止まっています。これまでは、M&Aによる海外売上増ですから、金融不安の強いこの時期ではしかたないでしょう。気の毒にも、国内回帰とちょうど同じ時期に国内市場も冷え込んでしまいました。運が悪いのか、読みが甘いのか、決断力とスピードに欠けるのか。やはり、外資急成長組の後についていくしかないのでしょう。しかし、企業の寿命を優先したと考えれば、懸命な選択と集中戦略とも言えます。

最近、オープン系で構築した基幹システムの更改プロジェクトに続けて携っています。高いのです。時間も食うのです。まるで新規開発並みです。思わずベンダーさんには、「これは更改ではないよね。ただのハード置換えだよね。それもお宅が保守を止めるから。それでUnixもオラクルもバージョンが変わって、その動作確認と導入作業が発生するだけで、アプリは何も変わらない。それでいて、この費用と労力はとても理解できないのだけど。」と言ってしまいます。怒り狂うユーザー経営者には、「オープン系は、確かに導入時は早くて安いけど、保守に金がかかるのと、寿命はレガシーの3分の一以下だということは判っていたでしょう。その説明をシステム部門やベンダーから聞いていなかったのですか?」と問いますと「そんなことは全く聞いていない。」と言います。彼らのベンダーとシステム部門に騙されたという怒りは抑えようがありません。

今の選択肢は、恥とコストを忍んで基幹システムを作りかえるか、ベンダー都合に合わせて更改するかしかありません。サーバーを野放図にいれ過ぎました。オープン系も種類が増えすぎました。仮想化も、この問題に対しては一時的解決にしかなりません。PaaSが本格的に実用化されていればと思います。プラットフォームを素晴らしく技術力のあるところに任せておければ、ハードやOSなど気にしないで、アプリに集中できるからです。開発環境を自前で保有するクラウド・コンピューティングであれば、更に自社のガバナンスを確保できます。CRMのような半定型業務のSaaS以外は、まだ半熟で言葉先行の状況ですが、やがては、自前システム、クラウド、PaaS、SaaSの組み合わせとなるでしょう。しかし、国内ITベンダーはSaaS後追いか便乗しか考えていません。

わが国IT産業を構造改革するには、大手ユーザー企業の資金面、業務面、技術面の参画が不可欠です。米国のように天才的な若い技術者と特化した技術を持つベテランが助けあって新規ビジネスを開発する土壌はありませんが、ユーザーとベンダーの協業であれば日本は負けません。その際に、役所は見ているだけにすべきです。資金援助も要りません。標準化や消費者保護を理由にした口出しは最悪です。