自動認識技術 (指静脈認証と音声認識)


先週は自動認識技術に関するニュースが多かったように思います。平成20年8月20日付け日経新聞が日立とJCBによる指静脈認証のクレジット決済共同実験を報じていました。日立は以前からカードを使わずに生体認証だけで決済サービスを開発したがっていましたが、JCBをパートナーに大規模な実用実験を始めます。同社川崎事業所の社員2千名を対象に3ヵ月程度実験し、来春には上市したいとしています。読取装置3万円程度、システム開発費用数百万円だそうです。スポーツクラブ、ゴルフ場、ホテルなどサイフを持ち歩きたくない場所での利用を想定しているようです。本人確認技法でニーモニックセキュリティ社のニーモニックガードを見た際には、安くて簡単で確実なのに驚きました。プール、海水浴場、エステなどで使えると思いましたが、指静脈認証がこれほど廉価に使えるとなると利用範囲は更に膨らむことでしょう。

同月22日の日経新聞では、NECによる裁判や会議における複数人会話の音声認識実験が紹介されていました。北京五輪では情報通信研究機構がJTB、ドコモと組んで携帯電話による日中音声通訳を実験したそうです。簡単な文章なら完璧に意思疎通できたそうです。海外旅行先で日本語を話せないタクシー運転手で郊外をドライブしたことがあります。遠隔地の日本人ガイドが携帯電話で通訳とガイドしてくれるのです。携帯の便利な使い方だと感心しましたが、それが自動化される時代となってきました。筆者が始めて音声認識に接したのは、24年前IBMワトソン研究所でした。英語だけですが、かなりに正確に自然会話を認識したのに驚いたものです。しかし、期待したほどの速度で普及していません。CNNなどはインタビュー音声をリアルタイムで字幕表示しています。メリルリンチが顧客向けに音声認識による売買注文サービスを実験したのは9年前でした。しかし、本格採用の事例はありません。専門用語、文例などの翻訳データベースの充実度と処理能力がネックだったようですが、ネットワークが高速化したお陰でリモート大規模DBを高速に照会できるようになったことが、壁を越えさせたようです。言葉の壁も取り外せれば、我々個人も越境ビジネスを簡単にできるようになります。個人輸出入や海外金融機関との取引などです。当然、逆も可能です。取引保証やエスクローのような付随サービスも出てきます。過去24年での技術革新以上の進歩が、これからの5年で起きるでしょう。5年といえば、頭取1人の任期ですから、今から準備すべきですが、恐らく、外資系金融機関が国内ITベンダーと組んで進出してくるのが先でしょう。

金融業界における自動認識技術の歴史はきわめて古いものです。MICR、OCR、マイクロフィッシュなども同類技術ですし、紙幣の真贋判定技術、電子透かし、RFIDなども仲間の技術です。最近では顧客記入伝票の手書き文字認識が急速に普及しています。これらは、金融機関の最大の命題である、伝票・現物処理の効率化を目指した使い方です。将来的には、全てが電子化されて顧客が入力するか、自動生成された文書・伝票に顧客が承認操作すれば済むようになるでしょう。紙がなくなれば、金融機関の業務改革が大きく進みます。

数年前から生体認証が普及しました。実際には機器とカードの導入が進んでいるものの、本当に使われているとは言いがたいですが、一般個人が生体認証に違和感を抱かなくなったことは事実です。静脈、指紋だけでなく、顔面や音声(声紋)まで認証技術が実用化されれば、本人確認だけでなく取引意思確認も容易となります。そうなれば、ペーパー・フリーと合わせて拠点フリーが実現できます。金融機関のビジネス・モデルも大きく変わることでしょう。

来店した顧客を捕捉して、その行動パターンを分析しようとの計画も聞きますが、顧客の嫌がることに技術を使ってはいけません。嫌われるか訴えられるだけです。ただ、電話での折衝を分析することは簡単にできるでしょう。場合によっては、合成音声による自動応答が進むかもしれません。個人顧客の方も、合成音声応答装置を使っているかもしれませんが。ただ、音声や顔面認識の場合は、顧客の感情を読み取ることができます。米国では自動認識技術と対でイメージ検索技術が発展しているそうです。つまりディレクトリー技術と検索技術が進んでいます。自動認識、データベース、検索、ネットワークなどの技術革新が一体となって実用化が可能となります。そうなれば、マーケティングやセールス活動に自動認識を含めたITが強力な武器となるでしょう。一つの技術を過大にも過小にも評価してはいけません。今は実用化できなくても、阻害要因を把握して、それが解決された場合の利用方法を考えながら関連する技術の動向を把握しておく。それがIT戦略に不可欠な日常の情報(インテリジェンス)活動です。ITは新旧あわせた総合技術です。どんな先端技術でも単発では適用分野が限られます。