2007年問題 (メインフレーム技術者不足)


日経コンピュータの平成20年7月15日号の記事です。メインフレーム技術を持つ団塊世代技術者を対象とした定年退職者再雇用制度の利用が進まず、当該技術者の確保が難しくなっているということです。同誌が大手IT企業11社を対象にした調査(8社が回答)によれば、昨年定年で再雇用制度対象の1036人の内、60.3%が制度を利用せず退職してしまったそうです。理由は、フルタイム勤務が嫌、現役世代の75%以上の給与を得ると厚生年金、雇用保険が全額カットされる(75%というのはわからない基準ですが、一定以上の収入があり厚生年金に加入し続けていればカットされることは事実です。)、仕事が同じなのに給与が下がるのはプライドが許さない・・などだそうです。

一方、国内サーバー出荷額に占めるメインフレームの比率は、今でも4分の一であり、関連技術者の需要はまだまだ根強い。そこで、若手対象のメインフレーム技術研修に対する需要が出てくる。しかし、若手におけるメインフレームの人気は低く、管理職の方でも「革新の少ない技術を学ばせるのはかわいそう。」という意識もあるそうです。同誌の結論は、処遇改善などを見なおして、再雇用制度を活かすしかないとしています。

筆者も団塊世代ど真ん中で、友人の大半も同世代です。退職した(する)連中と話をしていると、年金、病気、趣味の話が中心です。プロ並みに年金制度を勉強していますし、様々な病気を経験しています。趣味も現役時代には想像できなかった範囲とレベルに及んでいます。1日の予定は完全に埋まっています。彼らは実に忙しい。「週に2、3日でいいからPMOをやらないか?」などと誘っても、一切の迷いもなく、「もういい。あの仕事には戻らない。十二分にやった。この年では、多くは食えないし、飲めない。必要以上の金はいらない。」が回答です。再雇用制度の応用版として、独立した社員に対する業務委託制度を採用する企業があります。勤務日数は週4日とか3日です。厚生年金から外れますので、社会保険料負担が減りますし、60才からの厚生年金特別支給も全額受給できます。しかし、こうした勤務形態に適合する職務内容はどのようなものでしょう。この記事が主題としている“メインフレーム関連の開発・保守”業務ではないでしょう。チームを組んだプロジェクトであれば、60才以上の技術者に何を望むのでしょう?

IT業界で60才の社員といえば、多くは管理職か専門分野を持つスペシャリストです。今更、自分の子供のような世代の指揮命令を受けて、飽きてしまうほどやった仕事をやれという方が無理です。この世代が一斉に抜けることは、40年前から判っていたことです。彼らの責任ではありません。経営陣と人事部門の責任です。それで顧客企業が困るとか、ITベンダーが困るということになれば、それは市場が存在するということです。市場があれば、誰かが参入します。誰も参入しなければ、その市場は消えます。顧客は、希望に反してでも別の手段を選択せざるをえません。つまり市場の原則に委ねておけば、最後は収束する問題です。

それにしても、nK(きつい、帰れない、結婚できない、化粧が乗らない・・・)といわれるIT業界の中で、メインフレームの人気はそれほどないのでしょうか?オープンはできるが、メインはできないという技術者は数多いですが、メインの技術者はオープン技術にもついていけます。つまり、基本知識と技術をメインフレームから学んでいます。その逆がないのは、オープン系技術に基本がないからなのでしょうか?違います。早い、安いでオープン系を商売にしたベンダーや大手ユーザーが、基本を疎かにしただけのことです。基本を知らない若い技術者が基礎知識と技能を前提とするメインフレームについていける訳がないですから、そこから逃げるのは当然です。こうしてわが国には、基本も基礎もなく、目につくものをプログラミングするだけの技術者ばかりとなるのでしょう。こう考えると、わが国IT2007年問題というのは、大きな問題を含んでいることになります。この事態に至ったのは何に問題があったのでしょう。筆者は、ソフト業界の重層的下請け構造、人月単価、年功序列単価、ユーザー企業の丸投げ注文という日本独特のIT産業構造に原因があると思っています。通産省と郵政省の政策ミスです。箱と線だけで考えてしまいました。業界の病根と縮図は、官公庁ビジネスにあります。それも、これからの数年で瓦解するでしょう。大氷河が崩れ落ちるように。理由は、民営化の進展であり、役所の調達制度の変更です。メインフレームの一大市場である官公庁ビジネスが大きく変われば、次に大波を被るのは、金融業界となるでしょう。

大手金融機関やそれを支えるメインベンダーは、こうしたことは想定済みですから、それなりの対策を講じています。問題は丸投げしている金融機関です。金で解決できる問題ではありません。うちは共同化で大手にアウトソースしているから大丈夫という金融機関が多いでしょうが、彼らにはもはや自分で運転することはできません。電車が自分の駅に停止しなくなることを想定していません。IT戦略は、単順に技術動向や新製品の動きで決まるものではありません。人材市場や関連ベンダーの事業戦略なども大きな検討要素です。その意味で、丸投げユーザーの情報不足と感知能力は目を覆うばかりです。退職するメインフレーム技術者が、共同組合かNPOでも作り、各自が個人として参画し、ネットワークを活用して在宅作業を中心とし、若手技術者の出向を受けてOJT指導をしながら、インソーシングという独立運動を行おうとする金融機関を救ってやって欲しいと思うのは無理な注文でしょうか?ITに係わるNPO活動が、もっと拡大発展することを期待しています。団塊世代のIT技術経験者は、3万人はいるでしょう。その1%300人でも、こうした活動に携わってくれればと思います。経済産業省も政策ミスの罪滅ぼしとして、少しは支援すべきです。