システム統合 (三菱東京UFJ銀が移行開始)


貼り付けたのは朝日新聞平成20年5月12日夕刊の一面見出しです。一応、セブン銀との提携取引が止まったとの表現ですが、大多数の読者はBTMUのシステムが全面的に止まったと受け取ったようです。システム統合初日は、このほかに提携金融機関のATM入金等に不具合が発生したということです。マスコミはこぞって全面障害の如き扱いをし、金融庁も勇躍、長官による記者会見をしました。ITになじみのない大多数の人は前述の誤解をし、IT経験者はマスコミの扱いに憤激しつつ、BTMUの対応の速さに、たいした技術力だと感心します。もっとも、内部を知る人達は、対応の技術的難度は高くないと言い、かつ、何故テスト漏れしたのか疑問に思ったようです。

今回の障害は騒ぐような話ではなく、電車で言えば、ドア故障による遅延で一万人強が通勤において不都合が出たという程度のことです。代替策は豊富にある訳で、マスコミのインタビューに「困りますね。」などと深刻に答えるような話ではありません。(マスコミ取材に対して大衆は迎合的反応を示すものです。)本人にリスク管理の心構えがないことを示すだけです。普段であれば記事にもならず、メガバンクだから記事になるとしても、9面とか11面の片隅に小さく書かれるような事故です。そもそも、セブンのATMで旧BTMカードの一部だけが使えないという状況からすれば、基幹部分ではなく、フロントエンド関連の不具合だということはすぐにわかります。しかし、記者陣にはそんなことはどうでも良かったようです。騒ぐ口実さえできれば。

従前から指摘されているように、マスコミ各紙は統合初日のトラブルを心待ちにしていました。BTMUもメディア・リスクを感じていましたから、事前にメディア向け説明会などを行いましたが、社会部記者は協力して、何らかの障害が出れば大々的にネタにする準備をしていました。当日はセブン銀の本店ATMコーナーは社会部記者連中に占拠されたそうです。事前準備よろしく、各自複数枚のカードを持って、盛んに試したそうです。使えないカードがあると大喜びです。そんな所にセブン銀の社長が自分の金を引き出しに行ってしまい、取材を受ける格好となってしまったようです。偶発とはいえ記者団の中に入り込み、BTMUの不具合を非難する台詞を吐いてしまいました。この行動には、金融関係者は勿論、IT関係者や自社内すらも唖然としました。沈黙を守るのは非難されたBTMUだけです。輪をかけたのは金融庁です。報告を求めて再発しないようにする・・・なんて言いますが、「報告を聞いて理解できるのか?」「何か手伝えることがあるのか?邪魔するだけだろう。」が本当の所です。

筆者は、このシステム統合は壮大な技術的実験とは思いますが、経営的には資金、時間、労力の無駄使いだと思っています。それでも、メディアのこうした姿勢には怒りを感じます。それに便乗して売名的行動を取る社会的リーダーの存在にも愕然とします。しかし、これがわが国の品格であり、水準なのだとあきらめるしかないようです。社会のインフラ・システムに関わる人達は、十二分にメディア・リスクを覚悟する必要があります。わが国には、もっと義憤公憤を抱くべき、コストでもサービス・レベルでも品質でも悪質なシステムは数多くあるのですが、人目につかず、ディスクローズせずにいます。メディアはそれを知りながら、無関心でいます。日本のITは、まさしく国の品格を反映しているのでしょうか?

みずほ銀、三井住友銀、りそな銀など都市銀行のシステム統合をやった人達に聞きますと、皆さん、提携ATMのテスト、移行の難しさを嘆きます。全国に20万台近くあるATMは日々、機器、回線、アドレスや管理主体、サービス内容が変化します。テストしようにも大半は365日24時間稼動です。テスト環境はあるものの、社内なみのテストをする余裕はありません。加えてセブン銀は、銀行に対するATM貸しを業とするので各提携行のATM画面をそのままセブンATMに表示します。競合するイーネットは、コンビニに対するATMサービスを業とするので、機器は単一モデルで画面(処理内容、手順)は標準化されています。ですから、日常の管理もシステム変更も負担が少ない。提携ATMだけでなく、収納代行などの決済関係、総振など法人顧客データ取り込みを合わせると、想像を絶する種類の対外接続があります。多種多様かつ複雑で、テスト機会が限定される。当然、システム変更における危険度は高い。事前に細心の注意を払うが限界がある。なぜなら、毎週のようにネットワーク構成が変わるのですから。大手銀のCIOが言いました。基幹系の移行はまだ楽だ。対外接続は、飛んでいるジェットからジェットに飛び移るようなものだと。しかし、何故個々の銀行が、こうしたN対Mの複雑な対外接続に神経を使うのか?一つゲートウェイがあれば済むのですが。戦略的に重要なコア業務のオンラインを共同化しアウトソーシングするのに、戦略性のない接続技術だけの対外接続をバラバラに行って、リスクとコストを負担している。もう少し、協調と競争を深く考えるべきではないか?と思います。

BTMUのシステム統合は、今回は、旧東京三菱銀行の支店を新統合システムに移行しただけです。これから年末にかけて、旧UFJ銀行の店を移行していきます。店群移行ですから、全店障害ということはありません。しかし、全業務を店群毎に移行します。つまり、7月頃の移行で出るべきバグは出てきます。メディア社会部記者諸氏は、移行店舗を追ってコンビニ弁当を食べながら障害発生を待つのでしょう。もう少し生産的な仕事をして欲しいものです。ただ、彼らにも言い訳がありまして、筆者が「広域暴力団以上のメディア暴力だ。」と非難した時、困った顔をして「自分もそう思うのだが、上の方が。」と言います。メディア暴力の被害にあった某社広報責任者の話ですが、「彼らとケンカしても得るものはない。耐えて耐えて、語り続けるしかない。判ってくれるまで。」というのが唯一の方策だそうです。メディア・リスク対策は金融機関にとって大きな経営課題であり続けるでしょう。そのコストは最終的に顧客と株主が負います。そしてわが国金融機関の国際競争力を落します。