プロジェクト管理 (金商法とITガバナンス)


ニッキン平成20年3月7日号の記事です。金融商品取引法に基づき、4月から経営者によるITの運用状況などの評価・報告が義務付けられる。内部統制の基本要素6項目に、IT統制が含まれているためである。経済産業省もITガバナンス構築の参考情報としてシステム管理基準を策定している。金融界では、三菱東京UFJがシステム統合プロジェクトにおいてPMBOOK、CMMIなどを導入し、管理体系を整理しているとの内容です。同紙は3月14日号にも、同行Day2プロジェクトで採用された手法について紹介記事を掲載しています。システム統合委員会への外部有識者参加、第三者機関による進捗管理評価、PMOの設置やリスク評価、詳細な移行判定基準、テスト計画などです。

日経コンピュータ、3月15日号には、BTMUのDay2に関する特集記事が掲載されています。稼働前の銀行プロジェクトの内容が、これほど紹介されるのは異例のことです。同行は、2月25日にマスコミ関係者約60名を大手町の銀行会館に招いてDay2の詳細説明を行ないました。内容は、プロジェクトの内容や品質管理体制と今後の方針などで豊富な資料も配布されました。ITを理解できる記者は少なく説明時間中に熟睡する人も多かったようです。Q&Aでは「何故、UFJのシステムでなく、三菱なのか?」という質問が続いたそうです。もっとも、これが当説明会の第一目的だったのでしょう。多くの国民に影響を与えるプロジェクトなので説明責任を果たすという建前もありますが、何かと粗探しをして批判的報道姿勢を続けるマスコミに、少しでも実態を理解してもらおうと考えたのだと思います。ITの判らないジャーナリストに技術的或いはプロジェクト管理の話をしても馬に念仏なので、いっそ飲み放題食い放題、タクシー代つきでやれば良いのにと筆者は思うのですが。ニッキンや日経コンピュータが、こうした解説記事を書いてくれたのは、同行にとってあり難いでしょうが、一般大衆と監督当局が目にする全国紙などは、全く理解できないままに仮眠と無銭飲食だけしたようです。

旧三菱銀行は、昔から厳格なプロジェクト管理で知られていました。また、メインベンダーのIBMとしても日本の大手顧客という扱いではなく、世界のIBM全体の優良大手顧客という扱いです。ですから、海外の先端情報も逐一提供されます。それでなくても、IT関連各社は競って情報提供、提案活動をしますから、BTMUはいながらにして情報が入ります。それを組織的に展開するのは三菱グループのお家芸です。他行に先駆けて実施したエンタプライズ・アーキテクチャやスキル管理の仕組があるので、その上にプロジェクト管理の先進的手法を導入することが可能になるのでしょう。

PMBOOKやCMMIなどというと、ウチなんか以前から採用しているという大手金融機関やベンダーが多いことでしょう。しかし、実体として活用しているユーザー企業を見たことがありません。クライアントのPMO支援をする際に、開発ベンダーにPMBOOK準拠の報告書式を要請することが多いのですが、提出資料を見ると、市販の参考書を真似た形式的なものばかりです。そこで気付いたことは、こうした手法は形から入るしかないが、シツコイほど徹底して利用しないと定着しないということです。つまりITガバナンスとは、形式的なものではなく、シツコク実践させる経営者の姿勢と管理能力そのものです。

そう考えると、わが国にそれが可能な企業組織が何件あるだろうかと考えてしまいます。社会的には一流とされる金融機関や協会、関連組織の多くが開発も保守も丸投げしています。要件定義すらベンダーの仕事と言い放って、それに疑問すら持ちません。自分の本業を整理し、改善する最も重要な作業すら他人任せです。思わず免許を返せと言いたくなるような事例が余りに多い。結果として品質も悪く、コストも高い。それでいて受託したベンダーもろくな利益が上がらない。こうした不毛な仕組を直そうともしない。原因も解決策も判っているのに、自分からは動かない。トラブルがあれば、開発ベンダーの名をあげ、いかにも自分には責任がないかのような報道発表を行なう会社もあります。この種のユーザー企業は、ベンダーがどこであれ、同じ結果になります。自社システムの品質の悪さを認めず、いつも例外的な状況が発生したからだと説明します。余り繰返すので、例外的でない状況とは何かと聞きたいのですが、それを聞く記者もいません。説明責任を果たさず例外的事象で逃げる。それを許し続けるユーザーとマスコミ相手に、金商法が求めるITガバナンスの必要があるのでしょうか?馬に念仏ではなく、猫に小判のように思えるのですが。

ところで、3月6日にスルガ銀行が、次期システム開発中断における債務不履行でIBMに111億円の損害賠償訴訟を提起しました。このニュースを聞いた際には、そこまで行ってしまったか?という印象でした。しかし、落着いて考えれば、双方とも良い決断をしたのだと思います。法的に明確な基準が示されるかもしれないからです。筆者の経験からすれば、契約書ベースではIBMに非があるとは思えません。しかし、双方の期待からくる責任分界では、齟齬があったということでしょう。IBMは日系企業とは比較にならないほど、精緻に詰めた契約書や作業報告書を顧客とやりとりします。つまり必要な証拠は残っている筈です。裁判所としては、判断材料に困ることはないでしょう。慣行に従い、阿吽の痛み分けで決着してきたのがIT業界です。その為か知りませんが、代表的IT企業の中には、契約書がない、資料が残っていない(作ったのかも判らない)、担当者が変わって判らないなどとガバンンスなど全く無視の仕事振りのところがあります。それでいて、PMBOOKだとかCMMIと言っています。スルガ銀の訴訟は、IBMにとってマイナスであることは間違いありませんが、日系ベンダーの方々は他人事と考えてはいけません。顧客から訴訟を起こされたら連戦連敗でしょう。賠償費用と訴訟費用で、低い利益率が飛んでしまいます。この裁判の結果、開発受託の責任分界が法的に明示され、それに必要な手続きや作業成果を適切に管理できる時代に踏み出せるかもしれません。