郵政かんぽ生命と日生が業務提携


日経新聞平成20年2月23日の記事です。かんぽ生命と日本生命が商品開発やシステム構築に関する提携を発表しました。両社の提携に関して、各マスコミは驚きをもって報道するとともに、寡占化に対する懸念を示す報道をしました。しかし、ここ1年の間、かんぽの動きを見てきた人たちの間では、今更という感じが否めないでしょう。表面的には、かんぽに日生から役員を派遣したり、法人向け商品の事務取りまとめ会社になったりしていますが、日生のかんぽへの肩入れは大変なものです。郵政グループの中には、日生かんぽなどと自虐的に言う人もいるくらいです。その状況で両社が提携を正式に公表するのは、何を意味するのでしょう?いろいろと情報を聞いていますが、筆者には今回公表の意図がわかりません。何かがあって、両者の協力関係は俗人的なものではなく、公式なものだと公に示す必要があったのではないか?とすれば、その理由は日生側にあると思うのですが。

公表資料を見ると、興味深い表現が繰り返されています。それは、「適切な競争関係を保ちながら」です。何が適切なのかはわかりませんが、全面的な提携関係ではなく、場面場面で競争するということなのでしょう。かんぽには81拠点と5400名の社員しかいません。それに保険業務では復代理が認められませんから、かんぽ経由で郵便局会社を二次代理店にはできません。実体的なチャネルとしては、郵便局会社の方が日生には望ましい。しかし、局会社は当面(少なくともかんぽ生保の上場まで、長くてもかんぽ生命の完全民営化まで)は、ゆうちょとかんぽの商品を販売主体とします。ですから、とりあえずかんぽと組んで、郵政グループと親密化しておき、次に局会社を販売代理店にするシナリオを考えるはずです。今回の提携が、両社の永続的な協力関係を保証するものではないというのが、適切な競争関係という表現なのかもしれません。それとも、独禁当局を意識した表現なのでしょうか?深読みに過ぎるかもしれませんが。

かんぽ生命は、商品対応の遅れもあって、業容縮小に悩んでいます。一方、日生には商品開発、チャネル開発双方ともに、従来のトップ企業としての力が感じられません。業界再生の過去10年の間、財務内容強化を優先したことは間違いではないでしょうが、その後の営業面ジャンプに失敗していることは、様々な経営指標や社員の流出状況からも明らかです。保険に限らず最近の金融機関の実態は、社員の転職率をみればわかります。業績が思わしくない、経営陣が新施策を打ち出す、それが一線の納得を得られない、改善しない、経営から一線への圧力が強まる、一線の優秀な人材から流出するといいう悪循環は、どの業界でも企業でも良くあるパターンです。新聞報道では、銀行窓販戦略が思うように成功しない日生が郵政グループを取り込むという構図が想定されています。しかし、窓口販売を行う側からすれば、どの商品を売るかは単純な理由です。第一に売りやすい商品。第二に販売手数料が高い。第三に販売支援体制が整っていることです。日生はこれら三つの一部あるいは全てで劣っていたから、窓販ビジネスで劣勢となったにすぎません。それをそのまま、かんぽに持ち込んだら気の毒です。シェアアップどころか共倒れの危険性すら出てきます。一見して華やかな提携発表なのですが、どうも真にとれない雰囲気を感じます。

両社の提携内容を見ますと、

@     局経由で販売する商品・サービスに関するノウハウ、データの提供

A     顧客保護に資する(何のことかは不明)引き受け・支払い管理のための事務・システムの構築支援

B     リスク管理やマーケティング方策の共同検討

を実施するための人材交流を「行う」ではなく、「協議・検討する」とあります。

要は、生保業務に関わるコンサルティングを日生が提供するということなのでしょう。有料か無料かは知りません。かんぽが味方であるうちは、いろいろと教えるが、もし他社と組めば即座に別れるというのが「適切な競争関係」の意味と筆者は理解します。

随分と長い間、業界単位の集まり(研修や委員会)に顔を出してきました。いつも感じたのはトップ企業の重み、優秀さ、指導力などです。それは立場と情報量のなせる業です。三菱銀行、三菱信託銀行、横浜銀行、城南信金、野村證券、日本生命、東京海上損害保険などです。どんな集まりでも彼らは常に参加者の中心にいて、頼りにされていました。実際にトップ企業にはそれだけの政治力と社員の能力がありました。それが、過去10年の間に大きく変わりました。トップ企業に業界全体への指導力を求めるような甘い企業はなくなりました。規制当局との関係が変わっただけでなく、トップ企業に煮え湯を飲まされたと思う(勝手な思い込みが外れただけですが)企業が多いということです。トップ企業の品格など、提供する意思も期待する気もなくなったということです。しかし、それが本来の市場競争です。

その点、IT業界は甘いと言うか、狭いというか、いまだ昭和40年代の業界論理です。通産省や逓信省直系の大企業の下に、幾重もの下請け構造でモノカルチャです。超保守の金融界よりも保守的です。これで世界のIT企業と競争できる筈がありません。今年も4月が近づいてきました。例年のように幾つかのIT企業で新入社員向け講演を行う予定です。「諸君の会社の寿命は諸君の寿命より短いことを念頭に、仕事を通じて、そして自分の金と時間で研鑽されますように」という鼻向けメッセージしか思いつきません。