規制緩和とグループ戦略


日経新聞平成20年1月9日で、銀行出張所が事後届け出制に変更されると報道していました。コンビニATMなどの無人出張所は既に事後届け出制ですが、有人出張所は事前届け出が必要でした。これからは、年2回の決算期にまとめて届け出れば良く、営業時間規制緩和と合わせて、機動的なミニ店舗戦略が展開可能となります。移動店舗などと同様に顧客に来させる店舗戦略から、顧客のいる所と時間に銀行が出て行くチャネル戦略の比重が高まるでしょう。移動店舗や出張所は採算が取れないとか、管理が面倒だとかの課題を抱えていましたが、ITを活用すれば面白いチャネル展開が可能です。郵便局が試行を開始したミニバスによる移動店舗は、ATMや受け付けカウンターを搭載して1千万円ですから、ブリックアンドモルタルの出張所より数段低コスト化できます。要は顧客の必要とする場所と時間へのルート最適化の問題となります。それと、銀行商品だけでなく幅広い品揃えが顧客利便と採算性を決めます。

日経新聞1月12日号では、金融庁が予定している銀行業務規制緩和内容が紹介されていました。どれも昨年末の強化プランで緩和対象業務として指摘されていたものです。中でも、持ち株会社傘下にある銀行兄弟会社への商品現物取引解禁を先行させることが注目されています。FW規制を緩和しながら、銀行本体ではなく、また銀行の子会社・関連会社でもない兄弟会社に新規業務を認めるというのです。今後、兄弟会社にどのような業務を認めるか次第ですが(プロ向け業務を先行させるでしょう。)持ち株制でない銀行にとっては被差別的な扱いとなります。金融庁はコングロマリット化を進めたいのでしょうか?それとも、持ち株制を必要とするほどの規模が不可欠と考えているのでしょうか?建前では、銀行本体が一次、二次レベルでのリスク遮断できるからということなのでしょうが。

他に規制緩和が予定されている業務は、イスラム金融、排出権取引、株式保有制限の例外措置、投資助言・代理業、海外現法のブック取引勧誘などです。どれも市場規模(顧客数)は小さく、専門知識と既存顧客ベースが必要です。既存資源で対応できるのはメガ3グループくらいでしょう。これまでに多くの銀行とつきあいましたが、メガが数十人で対応するような案件に対して、2、3人、それも兼務などという大手地銀の例を見てきました。これが規模のメリットか?と何度も痛感したものです。関連する他企業も、まずはメガに接触して提携などを提案します。情報格差も開く一方です。加えて、外部から調達する弁護士やコンサルタントにかける費用も比較になりません。これまで、余り差が出なかったのは、規制緩和が中途半端なことやメガのグループ戦略の拙さからでしょう。しかし、FW規制緩和は、メガのグループ戦略実施方法を根本から変えるはずです。

それでは、メガ以外はどうしたら良いのでしょうか?提携戦略かメガの傘下に入るか、合併で規模拡大しつつ持ち株会社化するか、規模より質を求めて伝統的業務の一部に特化するしかありません。昔のようなミニ都銀という選択肢はありえません。その意味で、この日経記事の「脱・横並び」という見出しは、言い得た表現です。

一方でグループ戦略に成功した金融機関がないことも事実です。SMFGがノンバンク業務を含めて他メガよりも収益性・成長性に優れていると評されている程度です。IT面ではナレッジ・システムやイントラネットなどのツールでコラボレーションが追求されています。しかし、本質的かつ組織的にコラボレーションが進められている金融機関はありません。組織変更や提携契約条件、ITツールは十分条件ではないからでしょう。その点で米国系金融機関のグループ会社間コラボレーションとは大きな違いがあります。彼等にはプロジェクトにおける個々人の役割が理解できる目標、評価メカニズムがあります。日本は親会社を頂点としたピラミッドで一種の社会主義的カースト制度です。人事における評価、処遇の仕組みがコラボ用ではありません。各自が出身組織を引きずっていては、実ある協業などできる筈がありません。個人個人のスキルと能力を提供しあうオンデマンド・プロジェクトが日本で定着するには、もっと労働移動性(特に専門職において)を高める必要があります。付加価値金融を目指す金融機関は、ターンオーバーレシオを15%以上に上げるべきでしょう。それでも業務を継続でき、効率と付加価値を増すビジネス・システム(事業目標、戦略、組織、プロセス、ビジネス・ルール、システム、要員、スキル、評価制度、組織文化などの有機的組み合わせ)を構築することが、投資銀行業務や大企業取引には不可欠です。

グループ戦略は、トップの号令と担当者の掛け声だけでは何の実効性もなく、そこにコラボと称して箱モノを入れても全くの無駄です。そこにおけるITは、アーキテクチャがマスリテール用とは根幹から異なります。定型大量のコモディティ・バンキングとはビジネス・モデルそのものが違うからです。ITベンダーは組織面での課題を解決するITソリューションを提供すべきで、動機付け論とコンピテンシー管理に基づいたナレッジ・マネジメント・システムが必要です。個々のツールはeメールやExcelで構わないのです。