規制緩和(競争力強化プラン)



日経新聞(19年12月22日付け)が金融審議会第1部会(座長池尾慶大教授)がまとめた「金融・証券市場の競争力強化プラン」(通称、強化プラン)を報道していました。この種の審議会は、役人がシナリオと資料を作りますが、座長をはじめとした審議メンバーの顔ぶれで、おおよその結論が審議前から予想できます。金融庁担当者の腹案と同じ考えの人々を中心に選定されるからです。池尾教授は、かねてより、わが国金融産業の後進性と低競争力を嘆いていた方です。筆者は報告書原文を読んでいませんが、座長の思想が書かれているでしょう。昔、大阪大学の蝋山教授が金融関連審議会をリードしていた時期があります。理路整然と将来展望を踏まえた説得力ある前向きなレポートで、金融自由化の骨組をスケッチしており、一種感動を覚えた記憶があります。若くして逝去されてしまいましたが、存命で金融行政をリードし続けていたら、日本の金融界は大分変わっていたかもしれません。

本レポートは大きく4つの柱からなっています。

第1に市場改革です。具体的には、プロ向け市場の創設、総合取引所、ETF多様化などです。

第2は、規制緩和です。銀証保の業務隔壁緩和(顧客情報共有や役員の兼務)、業務範囲の緩和(イスラム金融や地域再生目的の株式保有制限緩和など)

第3は、ベターレギュレーションとして民間金融機関との対話など。

第4が、金融産業のインフラ整備。具体的には人材育成(特に英語)や通信網、建物集積など都市インフラの整備です。

これらを見ると、審議途中から公表されていたからかもしれませんが、新鮮味に欠けるというか、行政が手出しすることが疑問に思うことや、形ばかりではないかという感じで、いわゆるレバレッジの期待できる改革案ではありません。外為自由化とか証券届出制とか以前の制度改革に比べると、隔靴掻痒が歴然です。主要な自由化や制度改正は済んでしまっているということかも知れません。それでいて、わが国金融市場が国際的競争力を落とし続けているのは何故なのか?それを突き詰めないと、強化プランにはなりません。不良債権処理などで失われた10年という環境でしょうか?金融機関の経営力のなさでしょうか?日本の金融市場(即ち国民性)の特性(リスク回避)でしょうか?

筆者は、真の競争がなかったからだと思っています。預貯金と運転のつなぎ融資だけであれば、法人を含めた利用者は、金融機関に競争など求めていないのでしょう。零細企業融資に特化した新銀行東京や振興銀行の現状を見れば、それが判ります。電子決済などで、激しい競争が行なわれていますが、所詮は、小売業などの付加サービスの一環であり、金融を日本経済の基幹産業にするほどのマグニチュードはありません。どうも、日本人は、小さな金には拘るが、大きな金には無関心というか、怖がっているように思えます。

過去、十数年の金融低迷は、運用リスクを金融機関が一手に引きうけて、信用リスクに耐えられなくなったことが原因です。強化プランで業際をなくして個人から集めた金を、プロである金融機関が総合取引所やプロ向け市場で運用しても、その構図は今までと変わりません。サブプライムごときの小さな損失で大きな騒ぎになるのが金融です。加えて、個人投資家が大衆という括りになった途端に、政府は金融機関に負担を求めます。そんな国に外国金融機関が行政リスクとメディアリスク承知で参入する訳がありません。せいぜい、クリームスキミングを行なって、怪しくなったら一時的に逃げ出すだけでしょう。日本の直接金融(市場金融)は、実質的に間接金融と同じです。

物理的な金融センター地区を作ったり、金融XX士など創設しても効果は期待できません。この種の促進策は経済産業省がさんざん実施して成功例のないことが証明しています。何かといえば、香港やシンガポール市場の先進性が言われますが、その評価ポイントは何でしょう。わが国とどう違うのでしょう。アングロサクソン系経営者だという人がいます。しかし、米英系資本ばかりとなったソウルにマネーセンターはありません。韓国の方が、香港、シンガポールより数段大きな経済規模です。日本と同様に英語の問題でしょうか?金融テクノロジーを駆使する舞台である市場がないのだと思います。伝統的で利益率の低い預貸金ビジネスと件数だけ多い決済サービスで市場が満足しているのです。このマネーの流れを変えるのは税制しかありえませんが、その権限は金融庁にはありません。

非居住者に関する税制の障壁などを改善すれば、外資系の参入は増えるかもしれません。しかし、IT産業にとって嬉しい話は余りないでしょう。せいぜい、サーバーとPCが売れるくらいです。基幹ソフトは米国制ですし、業務ソフトは社員が手に持って赴任してくるでしょう。そこでは、旨みのある保守ビジネスもありません。使い捨てですから。競争力のない企業を顧客に持つと、そのIT企業の競争力も上がりません。金融業界で覇を唱えるIT企業になりたければ、ロンドン、ニューヨーク、香港、シンガポール、チューリッヒに拠点と先進的な顧客を持つ必要があります。そんな日系IT企業は一社しかありません。他のIT企業がキャッチアップする方策は、モルスタやGSなどを買収するか提携してノウハウを吸収し続けるしかないでしょう。

制度改革は重要ですが、それに頼る企業戦略は皮算用で終わります。制度の欠陥を理由に競争相手が無為にすごしている間が最大のチャンスです。しかし、日本の主要IT企業に金融ビジネスに精通した経営者は殆どいません。市場系のITツールやサービスは、リピート販売可能で独占或いは寡占が可能なビジネスです。北欧小国のIT企業でもドミナントになれる世界ですから、日本のIT企業も外へ打って出て金融テクノロジーを磨いておいて欲しいものです。でなければ、仮に強化プランが成功した場合でも、その市場は海外勢に抑えられることになります。要はウィンブルドン化覚悟でマネーセンターを基幹産業に育てるのか、個人・法人合わせて2300兆円を内外の市場で運用して国富を増やすのかの問題です。筆者は、国内金融市場が日本経済の柱になるのを待つ時間はないと思います。強化プランとは別に、金融機関とIT企業が切磋詫摩して、金融資産運用力を強化することが必要です。