ゆうちょ銀の住宅ローン・ビジネス(スルガ銀と提携)


日経金融平成19年10月16日付け記事です。ゆうちょ銀との住宅ローン販売提携を決めたスルガ銀の株価が上がっているそうです。提携を拒否した地銀10行とスルガ銀の株価を9月25日と10月15日の間での上昇率で比較すると、13%対21%と大きな差があるそうです。原因は、ゆうちょ銀との提携が評価されたことであり、他地銀に比べてスルガ銀の経営ガバナンスが進んでいると判断されたことにあるそうです。同記事は、スルガ銀や日通(宅配で郵便との提携を発表)を抜け駆けと批判する地銀や運送業界を談合体質、古い業界と断じています。そうした面がないとは言いませんが、市場での立場や戦略が違いますから、提携オファーを拒否するだけで、そのように誹謗されるのも気の毒に思えます。

銀行業界筋では、スルガ銀がゆうちょ銀と提携することに違和感は少ないでしょう。同行の脱地元で展開するコンシェルジェ・バンキングは、昨日今日始めたことではありません。若手地銀マンの中に、「ウチもこの位の戦略性があれば、面白いんだが。」という人が多いのは事実です。筆者は「頭取を責めるのは可哀相。そもそも、お宅のお客にそうしたニーズがありますか?地元を捨てられますか?スルガは地元だけでは発展が難しいと判断して、商品開発、マーケティング、ITなど必要なコンピテンシーを昔から強化してきている。失敗に終わる企画も多いのに、めげずに努力を続けているが、お宅の銀行では失敗が許されますか?行員は、頑張り続けられますか?」と反論します。言いたいのは、経営トップが決断して継続するには、市場と行員が応じてくれる前提があるということです。既存の市場を放棄するには勇気だけでは不足です。

今回の提携話では地銀界が結束して、ゆうちょ銀提案を拒否したという側面が目立っています。しかし、9月10日の当コラムでも申し上げたように、郵政は提案を拒否されることを想定していたと思われて仕方ない手順を踏みました。9月上旬に突然、文書を送りつけて、「住宅ローンを自分でやりたい。ノウハウがないから、とりあえず提携で勉強したい。業務提携を通じて教えて欲しい。来年5月から実施したい。9月18日までに返事が欲しい。」という失礼極まりない申し入れをしました。受け取った地銀は、その非常識さに唖然としたでしょう。その上、協会の頭取会直前に新聞へリークするのですから、最初から断らせようと考えていたとされても仕方ありません。以前から郵貯との情報交換を行なっていながら、今回断った地銀が2、3行あるそうですが、二度と付合わないと怒るゆうちょ銀幹部の声を同紙は紹介しています。本末転倒の話で、「大変失礼いたしました。当方の段取りと配慮ミスです。今度だけは許して下さい。」と謝るべきだと思うのですが、やはりお役人なのでしょう。この調子でリテール市場のマーケティングができるとは思えません。コンプラ以前の問題です。

マスコミを始めとして多くの人は、ゆうちょ銀行の実像を理解していないのでしょう。188兆円の預金を経費率54%で処理し、2万4千6百拠点を持つ世界最大の銀行とだけ思っているようです。当然、強みも弱みも持っていますが、実態は巨大かつ単純な資産運用会社というところです。133兆円の定額貯金は、独立行政法人郵貯簡保管理機構からの受託金(特例預金)で元本割れリスクのある運用はできません。相変らず国債での運用となります。他の55兆円は殆どが通常貯金(普通預金)ですから、住宅ローンのような長期債権に使うとALM上の問題が大きすぎます。これから必死に定期性預金を集めるでしょう。しかし、その運用方法は様々に制約されています。人事面での処遇も民間とは大きな格差がありますから、一級のファンドマネジャーが転職するとは思えません。市場リスク管理ができなければ、ここでも国債しかありません。国債が大きく値下がりするような局面があれば、簡単に債務超過です。ですから運用先の多様化が急務なのですが、分母が大きすぎて実効性のある新規運用先が見つかりません。住宅ローンで一口3千万円を1万人に貸しても所詮3千億円です。こうした商品を何百本か並べなくては資産構成の適正化は実現しません。それを1万2千人弱の行員(銀行経験なし)で出来るでしょうか?結局は、収益とのバランスを取りながら資産を圧縮せざるをえません。その資金が自分に流れこんで困るのは地銀です。過剰預金は単なるコストです。少し前は不良債権が破綻の原因でしたが、これからは預金過多が破綻要因となるかもしれません。地方銀行協会は、1936年の創立以来、反郵貯を唱えてきたそうですが、いい加減にして、自分達の今あるポジションを見なおした方が良いと思います。昔とはマネーフローが根本的に違います。市場環境も競争環境も規制環境も技術環境も全てが変わり、相手の郵貯自体が変わってしまったのです。

ゆうちょ銀は3年程度で上場することを目的化しています。事業計画の政府承認を得やすかったかしれませんが、後々の縛りとなるかもしれません。上場すれば、毎年連続でROEとPERの改善が義務付けられます。当然、国有企業であり続ける郵便局に委託する業務と委託費(年間6千億円程度)が削られます。その結果が成功か失敗かに関わらず、ゆうちょ銀と郵便局を別々に捉えなくてはなりません。郵便局を破綻させても地銀にとって何の益もありません。地域社会のサービス・ネットワークとして活用すべきです。県内の郵便局全てをゆうちょ銀から奪うくらいのシタタカな戦略を展開すれば、自行の株価も上がりますし、地元の顧客に喜ばれます。

郵便局を民間金融機関のチャネルとして活用するために、勘定系オンラインの端末機を設置するなどという手抜きの発想では成功しません。そもそも、そんなスペースも電源も操作要員もいません。ユニバーサル・サービスを義務付けられた局には、ユニバーサル・ネットワークが必要です。その要件定義が重要ですが、郵便局側から見るか、地域金融機関側から見るかによって大きく異なります。いずれの場合でも、地域の顧客視点は不可欠ですが、お役人や銀行マンには無理かもしれません。地域地域でボランティアの企画サークルを作って、それにITの判る人が参加する方法が良いかもしれません。