イオン銀行の事業計画(10月29日から営業開始)


日経新聞平成19年10月12日版記事です。イオン総合金融準備株式会社が、10月5日に金融庁の免許予備審査を終了し、社名をようやく株式会社イオン銀行に変更できたそうです。10月11日に銀行業免許が交付され、10月20日から口座開設を開始、10月29日と30日にインストアブランチ4ケ店をオープン予定です。昨年3月の発表時計画より約半年遅れましたが、晴れて新銀行誕生です。

遅れた理由は技術的問題で、開業そのものを悲観的に見る人はいませんでした。その点、他の新規参入計画がビジネスモデル設計で混乱しているのと事情は異なります。技術的問題の一つは、免許取得の手間隙です。準備会社の社名からつまずいていました。イオン銀行設立準備会社としたかったようですが、免許なしに社名に銀行とつけられないのです。消防法や食品安全基準法など規制には慣れている小売業者でも、金融関連の規制と手続きの煩雑さには、戸惑ったようです。

第二の理由は、システムの準備です。費用(120億円)や期間(1年)が限られており、フルバンキングと業務範囲が広く、スタッフの手当ても済んでいない状況ですから、経験のあるベンダーは受注合戦から引いてしまいました。以前のように、売上さえ立てば受注する余裕は、大手ベンダーといえどもありません。受注するのは、リスクの存在を知らないか、または、別の営業目的のあるベンダーしかないと思われていました。当初、受注したベンダーのパッケージでは、時間的、機能的、マニュアル、要員などの点で難しいことが判明し、途中から日立に変わりました。日立は救済者の立場ですから、イオンに対して動かすために必要な条件を堂々と並べたでしょう。イオン側も銀行システムの判る幹部や要員を手当てしました。それ以来、同社のシステム開発に関する後ろ向きの噂は消えました。イオン経営陣が「銀行の勘定系システムなんて、銀行会計ができれば良いのだろう。それならどのパッケージでも似たようなものだろう。」と考えていたのでしょう。半年の時間と百億円近い予算超過でしたが、勉強代というか、当初予算が無理筋にすぎたということです。

岡田社長は、SCに来店する主婦層をターゲットとして既存銀行とすみわけ、特に地方都市を狙うとしています。流通と金融を融合させ「アイデアのある銀行。イオン銀行。」をブランドスローガンにするそうです。既存金融業界への配慮にも力を入れています。金融庁出身の会長のほか、開業時400名行員の70%が銀行出身者だそうです。そして、3メガバンク以外にも生保、損保、信託銀などの大手が出資に名を連ねています。地方都市を主戦場とするので地域金融機関と競合することになり、地銀からの出資は横浜、千葉の2行だけです。これらから受ける印象としては、地方のオバサン相手にワンストップバンキングをやるが、信用補完のために既存金融機関大手を義理の応援団につけたと言ったら失礼でしょうか?

金融ビジネスでは奇抜なアイディアは受けません。毎日SCに来店する1千万人近くの主婦(最近では主夫も多いのですが)相手に、目を見張るような新サービスが出てくるのでしょうか。銀行としての安定したサービスも確実にこなさなければなりません。筆者の自宅周辺にイオンSCがありませんので、他のSCとの違いはわかりませんが、イオンが繰り出すアイディアが楽しみです。既存銀行の参考になればと思います。

事業計画では、2年半で90店、ATM2100台、260万口座、預金残高7千億円、住宅ローン残高3千億円で単年度黒字にするそうです。地銀の平均経費率は1.18ですから、地銀と競合するためには経費率を1.00以下として年間経費は70億円しか使えません。ATMを含めた初期投資は300億円を越えるでしょうから、年間IT費用は100億円前後となるはずです。その他に電気代やスペース・コストは無料としても、人件費は既に400人以上います。そして住宅ローンだけだと預貸率は40%前後ですから、食べていけません。フリーローンに参入するほかないでしょう。こう詰めていくと、電子マネーやクレジットカード一体型の消費者金融業で、その資金調達を預金で行うというのがイオン銀行の姿になってしまいます。率直に言って、筆者にはイオン銀行が大化けするとは思えません。といって、それほど大損するビジネスモデルでもありません。むしろ、新しいビジネス手法に興味があります。仮に家計口座を抑えることができれば、その家計の信用力が一目瞭然ですので、精度の高いマイクロセグメンテーションと与信判定が出来ます。この情報には大変な価値があります。金融業はサービス業ですが、リスク管理業でもあります。イオン銀行が、サービスとリスクの新たなバランス点を見出すと、日本のリテール金融が変わる可能性も出てきます。特に、団塊世代はSCに出かける機会が増えます。地方の主婦といわずに、大都市圏の居住地域金融にも力を入れて欲しいと思います。