ゆうちょ銀の新規業務(地銀に住宅ローン提携を申し入れ)


日経新聞の平成19年9月8日号です。ゆうちょ銀が、サブプライム住宅ローンの取次ぎを行いたいと地銀10行前後に申し入れたそうです。月内にも提携先を決めて、来年中には取扱いを開始する予定だということです。リテールバンク特化型ゆうちょ銀としては、住宅ローン、フリーローン、クレジットカードなど個人向け与信ビジネスに参入せざるをえないのですが、地銀や信金などの業界団体は、完全民営化され資産規模が縮小した後でなければ認めないとの立場です。協会方針に逆らってまで、ゆうちょ銀との提携関係を構築するほど、戦略性や経営ガバナンスのある地域金融機関は限定されるでしょう。郵政グループとしては、地域密着と個人の生活インフラ支援を経営理念としているので、地域金融機関と友好的な競争と協調関係を築きたいのでしょうが、民間地域金融機関は、同じ土俵に上がって欲しくないのです。理由は、規模や信用力で負けるからということです。また、成長性も収益性も低い市場に、ゆうちょ銀が参入すれば、共倒れになるとの考えもあります。新しい市場を創る発想はありません。

郵政グループとしては、メガバンクと組む方が実現性も効果も大きいことを承知で、まずは、地銀に提携申し入れたことになります。記事解説では、くせ球と表現しています。そうかも知れませんが、外交戦術としては至極当り前のアプローチです。地銀に断られても「誠に残念ですが、それならメガと組んでも文句言わないで」と言えます。今回の提案内容は、地銀などが申込み受付すら断るオートスコアリング対象外の住宅ローンです。外銀などが地銀と組んで進出していますが、ゆうちょ銀は自行では融資せずに、希望者を取り次ぐだけです。手数料は、初年度返済額の数%と金額的には知れたものです。次の段階では、地銀の住宅ローン債権を購入するでしょう。回収業務は地銀に残すでしょうから、地銀は顧客接点を保ったままで債権をオフバラ化し、リスク制御しながら資産構成とBIS基準の改善ができます。取次ですから、システム面や販売面での新たな負担もありません。一部地銀に、旨みはないとの意見があるようですが、長期的な提携戦略を考えれば断る理由は何もありません。断れば、株主(特に外人株主)への説明に困るでしょう。

日経にリークしたのは郵政側なのでしょうが、いかにも下手なマスコミ操作です。今週12日は、地銀協の例会で、全頭取が神田に集まります。名前を出された常陽銀やスルガ銀は、声をかけられなかった他の地銀から質問という形で圧力を受けます。自分は抜け駆けするとは言いきれないでしょう。このリークは、今回の提携話を潰す目的なのかも知れません。相変わらず郵政グループの機密情報管理は、まともでありません。積極的に郵政との提携戦略を考える企業にとっては、郵政の情報管理に関して注意しないととんでもないことになります。

ゆうちょ銀関連のシステム準備は、基幹システム、全銀システム対応ともに進められています。基幹システムは、日立キャピタルが所有権を持つ旧三和銀のシステムを使ってNTTデータと日立が開発着手しています。平成21年始めの稼働予定です。当初は、普通預金や定期預金、為替などの限られた科目だけですから、普通なら稼働に問題はありません。しかし、貯金系システムとの連動や新規業務の内容次第では、大きくカストマイズが必要となります。2万数千の代理店もあります。カストマイズしなければ稼働に問題ないでしょうが、それでは将来の新規業務を制約する可能性もあります。その新規業務を自分で決められないのは、何とも辛いことでしょう。全銀システムも、全銀協側の受入承認はまだ出ていません。地銀64行各行が一票を持っていますから、まさに国連総会なみの意思決定メカニズムです。金融庁や政治家の支援を受けて正面突破するか、メガ3グループやりそなグループと個別の送金提携を先行させるかの判断を迫られるでしょう。全銀接続も、技術的には大きな問題はない筈です。ポイントは、支店コードの扱いです。郵貯には従来支店という概念がありませんでした。今日では、この方が合理的なのですが、民間銀行に合わせて支店制度を導入するのでしょうか?代理店となる多くの郵便局は、各支店の傘下に入るのでしょうか?それとも本店がまとめて管理するのでしょうか?その場合、口座番号や顧客番号をどうするのでしょう?コード体系を変えるのは、結構大変な話です。マスコミ各社は、郵政民営化におけるシステム対応が無事にできるのかと興味津々です。筆者は、普通にやれば、何の問題もない筈と答えるのですが、普通にやらない決定がなされる懸念も残っています。10月1日の移行日に窓口やATMが混乱することはないでしょうが、裏では大変な作業が待っていますし、長い目で見れば、現在準備されているシステム対応が経営の方向性に大きな影響を与えることになります。上場できるまで持てば良いという考えでシステム計画を立てると、一番困るのは顧客と職員ということになります。それにしても、アプリケーション・ドメイン(業務範囲)の決定権は政府にあり、その政府は民間金融機関にも配慮しなくてはなりません。こんな状況でシステム戦略を立てざるをえないのは、何とも気の毒な話です。