銀行のマーケティングとCS(南都銀行の架空顧客)


日経情報ストラテジーのサイトで平成19年8月7日に掲載されたトピックスです。南都銀行が架空顧客ペルソナを作成して、サービス向上活動に利用する試みを始めたそうです。顧客を抽象的にイメージするのではなく、また、個別顧客に絞って考えるでもない。代表的な顧客イメージを極めて具体的に幾つか想定して、顧客視点でサービスのあり方を考えるアプローチです。

ペルソナという言葉は始めて聞いたものですから調べてみました。ラテン語で人や仮面を意味するそうです。10年ほど前からソフト開発でペルソナ/シナリオ法という開発手法が使われるようになったそうです。システムの利用者を複数のタイプで仮想化し、その利用者の立場で判断することで、開発者の共通理解とコミュニケーションの正確化と円滑化を図る手法です。例えば、PCオタクの30代前半の男性、メールとネットサーフィン好きな40代主婦、住宅ローンも払い終えて退職金を受け取った65歳の男性といった利用者によってネットバンキングの操作性や機能に求められることは異なります。ITリテラシーだけでなく、趣味や性格、教養、体調、家族構成等などを具体的に想定しペルソナとします。開発にあたって、開発者や銀行員の知識や好みではなく、ペルソナの立場で機能やデザインを決めるという方法です。

ソフト開発を含めた製品やサービスの開発では、機能やデザインを最大公約数と最少公倍数の間のどこに収めるかはとても難しい問題です。万人を満足させる適正ポイントはありません。ニ八でいくか、80点狙いでいくかとなります。銀行でも最近はインタラクティブ・デザインという顧客に試用してもらって最適解を求める方法が増えています。しかし、選定した顧客によってバラ付きが出ますし、時間とともに顧客の満足基準も変化してしまいます。結局は、頻繁にバージョンアップすることで、どれが最も評価が高いのか判らないままになってしまいます。ペルソナ方式でも同じ悩みはあると思いますが、それでも開発者の思いこみや多勢の要望を取り入れることで中途半端になることを防ぐ効果があるかも知れません。

この開発手法が最近ではマーケティングの世界で利用されるようになったそうです。筆者の知る限り金融界で初めて南都銀行が使ってみたということなのでしょう。南都銀では、郵送アンケートやインターネット・アンケートを行い、7人とインタビュー、他行客41人にメール質問して、定量情報と定性情報を集めたそうです。それを整理して5人のペルソナを設定し、イメージが湧きやすいように顔写真もつけたということです。このペルソナを全行員が共有して、サービス改善活動や商品開発の際に、ペルソナの視点で考えるのだそうです。ペルソナの作成には、大阪のマーケティング・コンサル会社大伸社が支援したそうですが、同社はコミュニケーションを柱としたマーケティング立案を得意としているとのことです。日本では、マーケティングというと市場分析や顧客層分析が中心ですが、米国の大企業でマーケティング部門というと対顧客のコミュニケーションを担当する部門のことが多いのです。日本では広報部門というところでしょう。顧客とのコミュニケーションを最重要視する点は、日本の金融機関も見習うべきです。

筆者は昔からCRMに懐疑的でした。顧客を一つのマスで捉えることも、個々別々に捉えることも、効果はないし、手間とコストの無駄だと思うからです。個で捉えるべき5%の客とパターン分類した20〜30%の客を捉えれば、今の収益の130%くらいは確保できる。残りは赤字客ですから(それも永遠に)レピュテーションを著しく落とさない程度のサービスに抑えて赤字をなくせば、収益は30%以上伸びるはずです。ペルソナを使って顧客サービスを上げるのも良いですが、お客様は神様的な発想ですと、いくら投資しても際限がありません。貧乏神も多いのです。金融機関も私企業ですから、利益を追求すべきです。しかし、地域密着型の地域金融機関の場合は、全セグメントで利益重視ということもできません。収益のポートフォリオ管理が必要なのですが、経営計画にこの発想を取り入れる金融機関はありません。セグメント別に収益とコストを配分して、それを総合する収益管理が必要です。もっとも収益改善に効果を期待できる(或いはせねばならない)セグメントで、ペルソナを使って顧客の金融関連ソリューションを創発し、新たな収益源を開発できれば経営としてありがたい。顧客の側には、金融機関がまだ発見していないニーズ(それは顧客自身も認識していないことが多い。)が沢山ある筈です。マスで見たのでは発見できません。ペルソナの使い方が進化していくことを期待しましょう。知識ベース、ルールベースのテクニックが有効だろうと思っています。