政府系金融機関(政策金融公庫と商工中金)


日経新聞平成19年7月12日号に、政策金融公庫が、民間金融機関の中小企業向け無担保融資の貸し倒れリスクを買い取って、証券化する計画だそうです。同公庫は、中小企業金融公庫など5つの政府系金融機関が、来年10月に統合して唯一の政府系金融機関となります。民間と競合するビジネスではなく、民間を補完する分野に特化しなくてはなりません。これまでにも、貸出債権の購入、流動化を行なってきましたが、最近では中小金融機関なども、預貸率の底止まりから貸出債権のオフバラ化を求めないので、貸倒れリスク肩代わりを新規事業とするのでしょう。初年度2千億円の証券化規模なので民業圧迫にはならないとしています。

7月14日の日経では、商工中金が手数料ビジネスに急速傾斜しているとあります。業務粗利益に対する比率は現在6%ですが、13%にまで高めたいとしています。その内容は、従来のシンジケートローン、私募債に加えて、個人年金窓販、遺言信託取次、天候デリバの仲介、投信窓販などです。こちらは、完全に民間と競合します。やはり来年10月に民営化されますが、江崎理事長による「民営化されるからには、地銀などとのすみわけは必要ない。堂々と張り合っていく。」という発言が紹介されています。民営化といっても、政府が全資本を放出するには5〜7年かかります。その意味では、郵貯と同じなのですが、こちらには地域金融機関もマスコミも余り目くじらを立てません。預貯金の収集力や決済機能が弱いから、本業での競合がないということなのでしょう。これまでにも、随分と補完関係にありましたので、親近感もあるのでしょう。しかし、預金や小口決済が、これからも銀行基幹業務であり続けるのでしょうか?収益への貢献度からすれば、その重要性は下がる一方の筈です。民間がこれから重視すべき分野で、商中や政策金融公庫が先行するのです。民営郵貯とは質的に違いますが、競合協業バランスが大きな課題となります。

商中は、チャネルとしての支店網は脆弱ですが、ネット・チャネルを強化するとしていますし、資産運用力は人材、システムともにメガ並みに充実させてきました。その点、他の政府系金融機関には調査研究力はあっても、実業に必要な人材とシステムはありません。今後の課題でしょう。政府系金融機関との間で、競争と協調のバランスをいかに取るかは、特に地域銀行にとって最優先の経営判断となります。市場開拓の先行投資リスクを負ってもらう、先端金融技術の調査研究結果をフィードバックしてもらう、地域間の資産運用バランスを補完してもらう、自身の過剰資産の運用分散先になってもらう・・・があります。金融もオープン化、アンバンドル化、水平分業化の時代です。単独では存続できません。エコノミーオブスケールよりもエコノミーオブスコープが地域銀行に必要です。自分の物理的縄張りに入ることは許さないという自己虫本能では、環境変化に対応できず金融の価値連鎖から外れてしまいます。

地域金融機関経営者の大半は、環境変化の影響と企業変革の必要性を認識しています。しかし、動きません。何故でしょう?時期が早いのでしょうか?では、その時期とはいつなのでしょう?どういう事象や兆候が現れれば、その時期となるのでしょう?それとも、経営の実権がないのでしょうか?それでは誰が持っているのでしょう?退任した相談役達なのでしょうか?意識変革のできない行職員なのでしょうか?それとも環境変化に見向きもしない顧客達なのでしょうか?少なくとも、規制は充分に緩和されています。

筆者は、銀行IT戦略は従来の体系のままでは、ニコラス.カーの「IT does not matter」になると考えています。限られた数のIT企業が、勘定処理、販売支援、内部管理、リスク管理などをハード、ソフトを組みこんだ閉鎖的システムを製品として提供してきました。金融機関は、その固くて閉鎖的な業務処理手順を単能機のように担当者が操作するようにしてきました。ATMやネット・バンキングなどで開放的になったといわれますが、それは以前、銀行員が行なっていた窓口端末機の操作をATMとネットPCで顧客にさせているだけです。商品別という縦割りのアプリケーション体系を顧客勘定DBで横断していますが、これでは商品多様化もプロセスの追加、切り離しも難しい。システムの柔軟性を顧客勘定DBが拘束しているのです。殆ど変化しない顧客の基本属性、少しずつ変化する取引属性、そして頻繁に変化する取引履歴をひとつのDBに統合して、種類の増え続ける商品取引処理を横断管理するというコンセプトは水平分散のビジネスモデルに適しません。このアプリ体系をUnixやWindowsに乗せてJavaで書こうが、ユーザーである顧客や営業行職員には何の変わりもありません。それで総資産の0.1%前後であるIT支出を20%削減しても0.02%です。資産運用効率やオペレーショナル・リスクのマグニチュードの比にもなりません。要は、金融商品販売業を続けるのか、金融関連機能をサービスとして提供するのかの選択です。サービスとして捉えた場合、何を提供するのか(商品、プロセス、情報、場所、時間,技術)?それは単独か提携か?提携ならば代理か共同か?を決めなくてはなりません。商品提携とサービス提携は全く異なることに注意が必要です。

政府系金融機関自身も、それとの競合と協業に結論を出さざるをえない地域銀行も、現在のビジネスを固定的な市場規模と範囲に限定して、そのシェアを奪い合う競争戦略だけを考えていると、新しい市場創造も顧客価値拡大もできず、常に後ろ向きで弱者の戦略となります。ITは使い方によって、規模のデメリットや後発のメリットを発揮できる道具です。エコノミーオブスコープを支援できるようにもなりました。ITベンダーは、金融機関の経営企画担当者に代わって、革新を続けるテクノロジーを利用した新しいビジネスモデルを提案して欲しいものです。仮に、既存の顧客銀行に採用されなくても、新規参入者や政府系のように、根本的な変革を追求せざるをえない金融機関に採用されるでしょう。