担保株式の管理業務(日本マスタートラストが地銀から受託)


日経金融の平成19年6月21日号記事です。三菱UFJグループの日本マスタートラスト信託が、地銀の保有する融資担保株式の代行管理を開始するということです。既に、八十二、百五、静岡、常陽の4行が委託を内定しているそうです。こうした大手地銀が外部委託する理由は、保振機構に直接参加するために必要な手続き、システム投資などコストの問題があるとしています。

2009年1月に株券電子化一斉移行が予定されています。株券電子化においては、タンス株の存在が問題視され、最近では大手証券会社が、個人対象にキャンペーンを張っているので、個人投資家(或いは相続などで意識せずに保有している個人)の問題と思われがちです。また、証券業協会の調査などでも、中小証券会社の対応が遅れていることに警鐘がならされています。ところが、専門家筋の間で最も話題となっているのが、銀行や信金などが融資先から預かっている担保株の管理体制です。現物で担保保有している株券は、約54億株あり、これがある日をもって一斉に電子移行する訳です。通常の株券担保は、略式質の担保方式であり、そのまま電子化すると金融機関の所有という形になってしまいます。移行前に、預託証券として保振制度に登録しておく必要があるのだそうです。全銀協は、こうした移行時の課題や解決方法を調査報告しているのですが、中小金融機関の中には、意識していない、準備予定がないところが少なくないということです。下手をすると、再来年初頭には、融資先と金融機関の間で、騒動が頻発する恐れがあるという人もいます。

この記事で疑問に思ったことが二点あります。

第1は、証券代行会社が金融機関向けに担保株管理代行サービスを開発して、積極的に営業活動しているのに、何故、401kマスタートラストのレコードキーパーである日本マスタートラストを使うスキームなのか?そもそも、日本マスタートラストの中核母体である三菱UFJ信託にとって、証券代行は中核業務の一つではないのか。MUFG色を薄めて多くの地域金融機関から受託しようとする目的なのか。

第2は、この記事では三菱UFJが代行管理するということで、メガのグループ戦略の一環というイメージを与えようとしているが、ニュースソースは記載されておらず、関連各社のニュースリリースもありません。日本マスタートラスト株式の35%を日本生命が押さえていますし。むしろマスタートラストの新規事業という性格が強いのではないか?401kレコードキーピングだけでは、事業拡大が難しいか、遅すぎるので、本格的なマスタートラストに発展させる戦略なのか。

筆者の推測と希望としては、真の意味でのマスタートラストへ脱皮を図って欲しいと思います。資産管理業務は地味ですが、なくてはならない業務ですし、業務プロセス・ノウハウとITを結合させる典型的ハイブリッド・アプリです。きちんと構築すれば、圧倒的なバリューポジションを確保できます。また、規模のメリットが効くビジネスですので、欧米では寡占化が進んでいます。その欧米マスタートラストが日本への進出を考えているとも聞きます。資産運用は、海外を含めて分散するとして、資産管理までも海外に出てしまっては、日本の投資家は安心して眠れなくなってしまいます。

この件は、金融業務アンバンドリングの一環であり、次のリバンドリングへの一歩であり、そこでのポジション争いです。メガによる地銀囲いこみ戦略だとか、メガ中心の共同アウトソーシングと単純に捉えてはいけないでしょう。これまでの金融機関は、自社商品に関連する全ての業務を垂直統合して処理してきました。ところが、金融ビジネスが多様化、複雑化、高度化するにつれて、コストやノウハウの問題から共同化やアウトソーシングが進められています。今後は、業務プロセスを分解(アンバンドル)して、効率や市場価値に応じてリバンドルする流れが強まります。バンドリングされたプロセスや商品に特化した新規参入やリバンドルによりで新市場が創造されることになります。既に多くの分野でこうした動きとなっていることに気付いておられることでしょう。金融機関各社は、どの商品やプロセスで収益を確保するのか、鳥瞰図を持っている必要があります。

ITベンダーに望まれることは、こうした新たな事業機会を発見し、顧客金融機関にITソリューションと合わせて提案することです。リバンドリング・ビジネスにおいては、規模や業務範囲、そして取引関係の広さなどから大手金融機関が有利なことは事実ですが、金融機関が見逃す事業機会や不得手な業務プロセスの多いことも確かです。常に、関連する金融ビジネスのバリューチェーンとプロセスを把握しながら、金融機関の収益増強に資する方策を追及することが必要です。それを繰返すことによって、金融IT市場のリーディング企業となれます。過去の勘定系や情報系、証券系などのシステムにおけるシェアを競っても、これからの金融ITビジネス競争には、殆ど役立たないでしょう。役立つのは、変化に気付かないで、旧式なビジネス戦略とIT戦略の枠から出ない顧客との取引だけということになります。