ゆうちょ銀の資産運用(短期金融市場に大規模参加)


日経新聞平成19年5月30日号夕刊です。民営化後に資産運用対象の多様化が政府に認可されることを見越して、ゆうちょ銀が市場系システムを来年4月に稼動予定としている。その際に短期運用の比率を高めて長短バランスを測るために、短期金融市場での投資額を増やそうとしている。そのロットが4兆円(現在は2兆円)と大巾増加となるため、取引規模が6、7兆円の無担保コール翌日物に集中した場合、金融調節機能がかく乱される恐れがあるという内容です。

現在は、公社法で運用対象が制限されており、187兆円の資産は国債(73%)を中心とした公共債で運用されています。これは金利上昇イコール評価損ということで、郵政民営化の最大リスクとされています。このことは現公社も充分認識しており、民営化委員会でも早急な改善が必要と認識されています。先日、全銀協が始めて運用対象多様化を肯定する意見を表明しましたが、地域金融機関は、まだ、運用対象多様化にも否定的なようです。今年3月時点で約2兆円の金銭信託を持っていますが、その運用先として銀行株は大きなウェイトを占めているそうです。民間金融機関としては、単純に民業圧迫論だけで郵貯問題は整理できません。預貯金と個人融資という単純な資金循環で郵貯や簡保の民営化を見るようでは、金融機関の経営者としては資質を問われます。

例えば、現在136兆円ある国債をゆうちょ銀(正式には定額貯金分は貯金簡保管理機構からの受託運用)は、引き下げることになります。その受け皿をどうするかといえば、金融業界全体で個人に販売するか、海外に販売するほかありません。単純には売れませんから、ハイブリッド商品などに化粧直しが必要です。仮に国債の買手が見つからないようなことになれば、何が起きるでしょう。一部の投機筋を除けば、誰の益にもなりません。政府も郵貯も民間金融機関も市場機能を活かしながら、市場をかく乱させないよう慎重に資産のリバランスをせざるをえません。それに何年かかるのか?上場予定の3年でも完全民営化の10年でも無理でしょう。

資産運用多様化には、別の大問題もあります。システムと要員です。システム面では、メガや農中などでもそうですが、商品別、取引手法別に取引システムはバラバラです。しかし、リスク管理や資産運用管理に関してはデータを統合しておくことが必要です。現在のシステムは、どこでも見事なまでに付焼刃というか古い温泉旅館のようになっています。それを整理した実例はありません。経営における投資優先が低いこともありますが、全体を判る人がいないのです。郵政グループは資産運用の専門家の中途採用を奨めています。しかし、転職先人気度としては、極めて低い状況です。処遇が公社規定に準じることもありますが、運用ポリシーに制約がありすぎることが嫌われるそうです。運用資産額が大きいということで人を集めることはできません。応募する経験者は、地銀などを中心として公社型運用とのギャップが少ない国内金融機関からの人が多いそうです。いずれ、別会社化し、グローバル水準の運用態勢とリスク遮断を図るしかないと思います。国内だけでは、運用しきれない規模ですから。大きいことは気の毒です。

民間金融機関にとって、脅威となるのは、拠点数、顧客数や資産規模よりも自己資本の大きさでしょう。昨年度期の純利益は有価証券評価益減少のため、9400億円と対前年で半減しました。しかし、積み上げた自己資本は8兆円を越えたようです。調達コストゼロの資金が8兆円もあるというのは、融資業務に参入するとしても、圧倒的な価格競争力を持てます。しかし、小口販売費用や信用リスクを回避するために、貸出債権の購入やクレジット・デリバティブ購入なども積極的に行なうでしょう。住宅ローンにおける公庫のような役割です。ゆうちょ銀行そのものは、200強の支店と約1万の職員でスタートします。数年後には支店600を想定しており、職員数も倍増するでしょう。しかし、定額貯金が全て満期となり大半が引き出される10年後には、定期預金等で吸収するとしても、運用資産は一挙に減少します。それまでに、不用意に店や職員を増やすことは危険です。調達はマスリテールで運用は大規模機関投資家という形に落着くのではないかと思います。

こう考えると、極めて近く決定されるゆうちょ銀の勘定系システムは、単なる仕入れシステムであると言えます。資産運用を支えるシステムの検討や導入はこれからです。しかし、ITソリューションだけでは駄目ですから、ディーリングやリスク管理などの専門家を中心に人的支援も不可欠です。取引量も膨大ですから、資産管理業務も大きくなるでしょう。ゆうちょ銀が、自ら資産管理業務を行なうのか、それとも専門企業にアウトソースするのか?ゆうちょ銀次第で、市場系システムや資産管理BPOのドミナントが決まるでしょう。国内のプレーヤーを見比べてみると、これら条件を満たせるところがないのが寂しいところです。できればコンソーシァム方式などで国内金融機関やベンダーにも参画機会が与えられることを期待したいものです。でないと、長期的には海外での金融収支で国富を支えざるをえなくなる日本は、その運用から管理を他国に依存する危険があります。これはウィンブルドン現象と笑って済ませられる話ではありません。