イベント・ベースト・マーケティング

日経金融新聞平成19年4月4日号の記事です。大量の顧客の取引履歴を分析し、抽出したルールを販売促進などに使う技法を紹介しています。データマイニングとルールベースを組み合わせた技術利用です。

事例として、三井住友が今年度稼動を目標に、ネットバンキング、コールセンター、営業店との連携を前提にシステムの準備中。千葉銀行では、4月から営業店PCで利用できるようにするとともに、キャッシュ・クレジット一体型カードの販売促進を目指した仕組みを構築する。りそな銀行では、顧客が登録済みの取引パターンから外れるような取引を行なう場合に注意喚起のメッセージを流す仕組みを検討中。などが紹介されています。

結語として、顧客情報保護の重要性がますます高まり、それにはシステム投資が増大するので金融業界は一段と体力勝負になると言っています。

日経金融の記者が、ITの一技法を切り口にこうした取材を行なうのは、大変良い傾向だと思います。ITベンダーや金融機関のIT担当者だけでなく、営業部門の人々がITの活用を考える良い契機になるからです。体力勝負になると小規模金融機関を脅す台詞を吐くのは気に入りませんが。というのは、紹介された事例は、ワンツーワンと言っても、プロダクト・アウト営業支援のストーリーです。金融業は、サービス産業です。サービスは、提供すべき項目もレベルも極めて多岐に渡ります。同じ顧客でも、その時々の状況や気分によって求める項目、レベル、雰囲気、奨め方などがまるで違います。対象客選別はワンツーワンでも、提供するものや方法がマスでは、逆効果になることがあります。その意味で、顧客との対面による長い人間的つきあいの重要性はますます高まります。必ずしも、規模が大きいとか、資金力やITパワーだけでは決まりません。要は、ITと人間力の組織的総合力が、サービス・ビジネスのCSFだという当り前の話です。

筆者が金融業向けAI(知識ベース・システムが中心)を担当していた1988年のことです。営業活動、資金証券投資、融資審査など判断業務のKBS化に力を入れていました。ある大手クレジット・カード会社が、千万単位の顧客に関して、基本属性、付随属性、取引状況を分析して、取引遷移パターンを分析し、契機となるイベントを抽出しました。それらを整理して、最終的に3千のルールを作成しKBS化したのですが、問題が二つありました。処理に余りに長時間を要すること。出てきた結論は、何も大量データを分析・解析しなくても経験から自明なことばかりだったことです。絞ったつもりだったのですが、ルールが多すぎたというか、整理レベルが低かったのです。当時のツールでは、300程度に抑えるべきだったのですが、そこまでの整理力がなかったということです。結局は実用化されませんでした。とはいえ、この時の経験は同社の財産となり、今日では我国最高レベルのイベント・ベース・マーケティング・システムとなっています。既にお気づきのように、決して最近出てきた技術ではありません。格好良いネーミングがなされただけです。

ただ、20年前に比べると、関連技術が数段と進歩しています。百億件程度のデータであれば、一般的PCでも数秒で分析結果を出すでしょう。データがロード済みという前提ですが。オンメモリー処理、インキャッシュ処理、洗練されたルールベース・エンジンなどが廉価に入手できます。マイニング・ツールは、まだ、大型システムが前提のようですが、やがてはPCバージョンが普及するでしょう。大企業だけではなく中小企業も、個人ですら購入できます。分析手法として、さまざまな雛形が提供されるでしょうが、そのことが、ますます分析者個人のセンスや創造性の価値を高めます。個人ビジネスとして成立するかも知れません。ツールを導入したPCを持って顧客企業を訪問し、そこで1日程度の作業を行ない、2日後に報告書を提出して、料金500万円というようなビジネスです。格式を重んじる金融機関には、ありがたみに欠けるかもしれませんが。

重要なのは、記事でも紹介されていたように各チャネルとの連携です。そして、サービス戦略です。ベタベタしたサービスではなく、押しつけでもなく、小さな親切大きなお世話にもならないサービスとはどのようなものか?自分に関する情報を陰で分析して、他人の財布を抜き出すようなことを、指図めいた言い方で提案されたらどうします?私なら、即刻取引停止にします。

経産省が、本年度から面白い研究を開始します。(予算がつけばの話ですが。)サービス・サイエンスに関してです。筆者は、この研究に期待しているのですが、妙なレポート(=もっともな提案だが、どうやったら良いか判らない。)を作って終わりにしたり、箱を入れて成功!としないようにとも願っています。できた成果物を、まずはサービス産業の代表である役所に導入してもらいたい。その結果が良ければ、イノベーション25も国民の支持を得られることでしょう。