開発プロジェクト・リスク(遅延、中止が相次ぐ)


平成19年2月2日付けニッキンによれば、日本証券代行が証券共同の次期システム(NEO−DINES)開発を中断して、同じJBISホールディングの日本電子計算(JIP)のSIGMA21に変更すると決定したそうです。当システムは日証代を中心に水戸証券、東洋証券三社の共同で開発が進められていました。2005年5月から約60億円を投下して、2006年5月の稼動予定でしたが、2度延期しています。日証代の現行共同オンラインには16社が加入しており、最大手ユーザーである東洋証券は梯子を外された格好となりました。プライム・ベンダーは日立ですが、技術的問題というよりは、業務要件が定まらなかった、途中で日証代がJIPと経営統合するなど大きな体制変更があったなどが原因でしょう。共同開発においては要件定義、業務設計が最大の難関です。ましてや、制度変更や新商品・サービスが頻発する環境にあっては、その難しさは数倍化します。証券三社の損失も気の毒ですが、参加ベンダーの中には、突然の中止で要員の遊休が出てしまい、当該期の赤字決算が確定してしまったところもあります。一種の二次災害ですが、危ない案件との付合い方には細心の注意が必要です。

日経BPのサイト「ITPro」は、2月8日付けでTISの決算予想大巾下方修正を報じていました。超大型案件のテスト負荷が大巾に増加して、128億円の追加費用が発生するためだそうです。この超大型案件がJCBであることは、関連業界の人間には自明のことです。稼動時期等に新たな変更はなく(一度延期している)、今春には第一弾として会員系システムを稼動させるとのことです。岡本社長は失敗プロジェクトではなく、四つあるサブシステムの結合テストの工数見積りが甘かったと説明したそうです。通説で500億円といわれるプロジェクトですが、開発費用を400億円と多めに見ても、結合テストだけで128億円もの追加というのは不自然にすぎます。一昨年頃に協業する開発会社が相次いで離脱した際には、遅延というよりは破綻を危惧されていたのですが、PM変更の後は、少なくともクラッシュまではいかないだろうと思われていました。2年前にプロジェクト全体を見なおしておけば、こういう事態にはならなかったでしょう。マスコミがトップ・インタビューの際に、当プロジェクトの進捗を尋ねても、トップには正確な状況が伝わっていなかったようです。いつも「予定通りで順調」という返事でした。現在は、約3千人の要員がフル稼動で開発しているそうですが、健康を害さないで欲しいものです。

現在、金融界では数百億円規模のプロジェクトが、10件以上走っています。千人単位の要員を一つのビルに集中した結果、朝夕の通勤、昼食時にはエレベーターを15分待ちという話を聞きます。2往復ですから合計1時間となります。人月委託費100万円として1日5万円、1時間6千円強です。千人ですと、1日600万円の渋滞コストです。開発チームが大きいと、管理要員が膨れ、遊んでいる要員も増えます。恐らく、20%以上は実作業をしていないでしょう。SE不足と言われますが、料金を受取りながら、仕事待ちの人も相当な比率です。ベンダーは儲かるから良いではないかというかも知れませんが、単価は安く、利益率は限りなくゼロに近い。実作業していない要員は、モラルもスキルも下がる一方です。誰も得しません。何故、金融機関は揃って同じ時期に同じことをやるのでしょう?

このような状況下で、既にプロジェクトの危機が噂されるケースも複数出ています。仮にクラッシュすれば、ユーザー企業もベンダーも経営面で大きな影響を受けます。それにも係わらず、相変らず丸投げの経営者、ユーザーが多いのには驚きます。最近の大型システムは巨大化、複雑化し、運用面でも多くの制約があります。開発では、マルチユーザー、マルチベンダー、マルチプラットフォームが一般的です。プロジェクト管理は政治的にも技術的にも、極めて難しくなっています。ところが、対応できるPMは激減しています。それは、大手金融機関でも大手ベンダーでも同じことです。

大きなトラブルになるプロジェクトは、初期段階で兆候が顕れています。第一に、アプリ・ドメインの選定を間違える。第二に、意思決定メカニズムが不明確。第三に、トップの参画が不十分。第四に、検証不十分なプラットフォームの採用。第五で最大は、下から信用されないPMです。これが全て揃っているプロジェクトは、間違いなく破綻します。ベンダーは、売上に目を眩ませると、経営を危なくします。そのリスクを避けるためには、決してプライムにならないこと。出来れば、納品即支払いでプロジェクトから離脱できる役割に徹することです。プロジェクトの失敗は、多くの場合、ベンダーに責任があると思われガちですが、真の原因はユーザー側にあることが大半です。ベンダーは、ユーザーの言いなりではいけません。正しいことを堂々と主張し、それを受け入れるユーザーとだけ付合うべきです。そうしないと、共倒れになります。