法人向けネットバンキング(マルチバンク・サービス)


日経新聞、平成19年1月19日号の記事です。見出しから「みずほがマルチバンク・サービスを法人向けに5月から始める。システムは松下と共同開発した。」と考えたのですが、記事を読んでも、解読できませんでした。NTTデータが、ANSERとは別の新しいFBサービスを開始するという視点で見なおしたら判りました。要はNTTデータの発表記事で、松下が開発に加わり、みずほがユーザーになるということです。何故、松下なのかと思う人もいるでしょうが、同社には金融関連のITを専門とする事業部門があり、CMSなどの製品、サービスを持っているのです。旧住友銀行と親しい関係にもあります。

FBと言いましたが、若い人には判らないかもしれません。専用PC或いは専用ソフトを使って、企業と銀行を結び、照会、通知、資金移動、データ伝送を行なうファームバンキングのことです。20数年前に始まり、今でも多くのユーザーがいます。恐らく、延べ数で100万社を超えるでしょう。Webベースのネットバンキングとは異なり、使い勝手が悪い上、機能拡張や保守にも手間がかかります。なぜ、Webに替えないかといえば、企業の会計システムと連動しており、1回あたり数十万とか数百万件の大量データが流れるため、回線の伝送容量、セキュリティ、企業システムとの連動性などが制約となっています。銀行としては、2種類の法人向けネット・サービスを抱えるのですが、Webに統一するという動きは全く見られません。日経金融1月17日号の記事にもあるように、Webベースのネットバンキングは、中小企業向けと割りきっています。ただ、Webベースですと、アプリの追加変更が容易なので、外為を含めて様々な新サービスが追加されつつあります。そこで、大企業は、従来のFBとWebバンキングを併用しているのが実態です。NTTが進めているNGNが普及する数年後には、上述のWebバンキングでの課題は解決されますので、長寿命を誇るFBも消えていくでしょう。

FBが普及しだした頃に問題となったのが、複数銀行と取引している企業は、銀行数だけパソコンを並べるのかということでした。Windowsがディファクトとなり、専用ソフトの導入で済むようになった段階では、銀行毎にプログラムを起動しなおし、回線を接続する面倒さが問題となりました。また、企業側では、振込や入手金データを統合して使いたいというニーズも顕在化しました。後者については、都銀や地銀など業態別にマルチバンク・センターが作られましたが、企業は複数業態の銀行と取引しますので、効果は減殺されます。そこで、業態間のマルチバンク・センターが構築されました。銀行だけでなく、生保、損保、証券なども同様の流れでした。客側視点がないというか、うかつに統一的インタフェースを客に提供すると、大銀行に客を取られるという意識だったのです。今日でも、この銀行的発想に変わりはありません。大手銀行は、大企業からの要請を受ける形で、CMSの機能を順次強化しながら、データ交換のハブ的ポジションを確保してきました。大企業向けCMSは、一見してASPかパッケージ・ソリューションに見えますが、実態はカストマイズの塊です。銀行も企業も金融関連のビジネス・プロトコル標準化が進んでいないのが致命的です。

NGN時代が計画通りに実現するとすれば、その頃にはXMLもWebサービスなどアプリ連携技術も普及しているでしょう。マルチバンク機能を提供することが、はるかに容易となります。銀行ではない提供事業者が出てくるでしょう。N対Mのネットワークにおいて、掛け算の組合せを足し算に単純化させる機能は、銀行以外の組織の方が実現性が高そうです。スィッチングと統合機能を持つハブが、銀行などの免許事業に抵触しない範囲でアプリケーションをカバーすることで、銀行は市場における主導権を順次失っていきます。

これからの金融は、急速に機能のアンバンドル化が進みます。販売、契約、事務、口座管理など取引プロセスだけでなく、ネットワークへの接続、セキュリティ、データの保管、加工、シミュレーションなど操作プロセスすらも分割・専業化されていくでしょう。個々のプロセスに独創的で使い易く、コストの安いサービスが続出するでしょう。その過当競争の中で、長期に高い収益性を維持するのは難しいことです。筆者が「ノリシロ・ビジネス」と呼ぶインタフェース機能は、小額大量ビジネスですが一人勝ちの世界ですから、誰がここを握るのかということになります。その意味でNTTデータは、公社時代からの顧客、技術、要員、サービスの基盤を持っており、極めて有利です。やがて、銀行はNTTデータ主導の下で、金融サービスを提供するのかも知れません。対抗できる勢力としては、メガが他の銀行と連携するか、郵便局会社(ちょきん銀行ではありません。)くらいしか、思い浮かびません。ATMネットワークをセブン銀行が席巻したような動きが、法人分野でも起こることになります。技術の問題ではなく、顧客視点をどこまで追求し、小異を捨てられるかという銀行の経営姿勢次第ということになります。