郵政民営化(民営化委が金融2社の新規事業の基本方針発表)


郵政民営化委員会は、12月20日にゆうちょ銀行とかんぽ保険の新規事業認可に関する基本方針を発表しました。4月の発足以来、18回にわたる会合をこなしての結論ですから、委員もさることながら、事務局も大変だったと思います。会合が終わり、議事を整理したら、あっという間に次の会合が来るという感じだったと思います。

民営郵政における金融2社の新規業務については、生保業界と地域金融機関が、政府の出資が残る間、つまり完全に政府資本を売却する2017年度までは、民間と競合する新規業務への参入に強く反対してきました。むしろ業容縮小を求めています。これに対して田中委員会は、

@    暗黙の政府保証は存在しない。

(その旨は広報を通じて国民に周知させるし、国民はそれほど愚かではない。・・・筆者注)

A    現在のビジネスモデルは中国ファンドのようなもので、民間と比較して強い競争力はない。

(つまり、ここに負けるような金融機関は国民経済的に不要。)

B    企業価値を高める為には、バランスシートを縮小して、ビジネスモデルを再構築せざるをえない。

(言われなくても、自分のために縮小する。民間は、むしろ自分のビジネスモデルを検証すべし。)

C    競争を通じて、利用者利便を高めるのが国家の意思である。

(国の方針に沿えないのであれば、納得できる代替策を出すべし。反対の為の反対は認めない。)

と言いきり、民間側の要望を殆ど切り捨てています。2011年の上場前にも、住宅ローンなどの新規業務を認める内容の所見です。この間の議論の推移や委員会の判断基準などは公開されており、密室におけるなれあいはありません。

一見、極めて郵政寄りの判断に見えるでしょうが、業務処理能力、コンプライアンス、リスク管理能力などを新たに具備しながら、ビジネスモデルを構築し、独立採算を確立するだけでなく、ちょきん銀行の場合で4兆円から7兆円とされる株式を2011年から6年で市場に購入してもらうことが民営郵政に求められています。極めて厳しい話で、今から10年に渡って大変な努力が必要となります。その覚悟が、全職員にある筈がないという前提で、25万人と2万5千の拠点に対する変革管理をどう実現するか?成功すれば、世界の経営学の歴史に残ることでしょう。

民営化の目的は、財投資金源を絶ち、金融構造を透明化、市場化、効率化し、将来の国民負担を軽減することにあります。このことは、一種の国民投票を通じて、法律が制定されているわけです。その象徴的目標が株式の売却であり、上場基準の達成と企業価値の確立です。これに対して民間の各協会が、単純に規模縮小のみを求めたのは完全な戦略ミスで、各方面から冷笑されることになりました。日経新聞が、見出しに民業圧迫懸念という枕詞を条件反射でつけただけで、多くのマスコミには、地銀や生保が既得権保全のために新たな競争を嫌がったとしか思われませんでした。ですから、田中委員長も国家の意思である・・・とまで言いきることができたのでしょう。先の大戦後、復員兵の就職先として郵便局が活用されました。戦死者の未亡人の就職先として生保外務員が受け皿となりました。一種の国策だったと思います。ここで一つ、戦後体制の名残が消えていくことになります。まさに、郵政だけでなく、保険も銀行も、新たな時代に向けてビジネスモデルを再構築すべき時なのでしょう。それを嫌がっていたのでは、鉄道敷設に反対した明治初期の籠担きや荷馬車曳きになってしまいます。

先ほど、変革管理が大変だといいましたが、全株式売却までのビジネスモデル設計すらも至難のことでしょう。巨大な組織を維持しながら、新たな収益源を確保することが必要です。自社コストだけでなく、局会社に対してゆうちょが65百億円、かんぽが4千億円強を毎年業務委託費として負担するという重荷があります。そんなに大きな新規収益源がある筈がなく、小さなものを積み上げるほかありません。政府出資の残る間は、みなし公務員としてさまざまな制約を受けますし、M&Aによる新たなコンピテンシー確保も自由にはできません。一歩間違えば、生殺しです。このことは、決して民間金融機関にとっても良い結果をもたらしません。公取が委員会で提言したように、社会インフラとしての民営郵貯を活用して、新たな金融サービス業の絵を描き、双方にメリットあるビジネスモデルをつくることが時代の要請だと思います。少なくとも、証券会社や投資銀行、損保、ノンバンク、そして一部メガバンクなどはそう動くはずです。地域金融機関が、表面的な競合の土俵が同じという理由で、単純に足の引っ張り合いをしていると自殺行為になります。

ITに関しては、4事業会社がそれぞれに独自の新システム構築に着手します。それ自体巨額な投資で、新たな負担ではあります。しかし、従来のように、貯金業務主体のシステムに他の保険、郵便、管理業務をつけあわせる方式とは異なります。各社が生き残りを賭けて、コンピテンシー強化の施策を盛り込むはずです。数年後に最新のシステムが並ぶことになります。商流、物流、資金流、情報流の全てが、少なくとも表面的には揃います。それを活用する為に多くの民間企業が知恵と商品をもって集まることでしょう。郵便局は、リアルとサイバーの双方を併せ持つマーケットプレイスになるでしょう。その頃には、局会社と金融2社は、競合関係になっている可能性もあります。IT企業各社は過去の経験にとらわれず、数手先を読んで、金融サービス革新のレバレッジになるような提案を郵政各社に行い、民間金融機関には、真っ向競合するか共存共栄を図るシステムを提案して欲しいものです。民営化が完了する2017年には、道州制や金融の市場化、製販分離が進み、今とは根本的に異なる金融業界の姿が見えているはずです。ITは、そのドライバー、イネブラーでなくてはならず、絶対にインヒビターになってはいけません。