証券取引所の国際化(NYSEが東証に提携を提案)


日経新聞の平成18年10月27日号の記事です。NYSEのジョン・セインCEOが先週末NY出張中の西室東証社長に株式10%持合を核とする提携を申し入れたそうです。東証もその事実を認め、検討を急ぐとしています。

マルドメ(まるでドメスティック)の代表だと思っていた東証がいよいよ国際化の時代に入るようです。古い東証を知る筆者には感慨深いニュースです。若く優秀な東証職員が、入社前の期待とは違うビューロクラティックな風土に当惑しているという話も聞きますが、彼らに活躍の舞台が廻ってきたということになります。西室さんがトップになった価値がこれだけでもあると思います。

提携検討範囲は、REIT、ETFの相互上場、売買システムの共同開発、取引監視の連携が案としてあるそうです。NY側は来年早々にも合意したいとしていますが、このスピードに東証がついていけるかも見物でしょう。将来的には、東京にアジア企業の上場誘致、新市場創設などを含めて、NY側にはいろいろな腹案があるようです。東京が世界のハブ市場になる道は消えますが。

アジアのハブ市場になる可能性は高まります。

国際化といっても、大きく三つに分類されます。第1はInternationalです。これは外国企業との相互取引で、単純な線の関係です。日本では中堅中小企業などがこの段階です。第2は、Multinationalです。複数の外国で活動します。Internationalに比べると経営管理が数段と複雑になりますが、資源と市場のポートフォリオを組み易いというメリットがあります。日本の大手企業で海外収益が半分程度以上の企業が該当するでしょう。第3はGlobalです。これは世界の数多くの国で活動し、企業としての統一性を持続しながら現地化を実現します。世界規模での集中と分散が経営の要となります。成長分野と収益分野に注力するために、資源の世界レベルでの再編を繰返します。成功すれば、常に世界平均の成長性、収益性を大きく上回ることができます。消費者向け商品の製造業では、比較的実現可能性がありますが、サービス業のように現地文化の反映を求められる産業では至難とされています。IBMなどは、Global化を目指して長い間、試行錯誤を繰返しています。

証券取引のように、扱い商品が情報そのものの場合は、プロセッシングはGlobal化が容易ですが、対象商品である有価証券の価値評価については国や制度によって異なるので、各種ルールの統一が前提となります。先進国では会計基準の標準化が進んでおり、取引所のルールも統一されれば、取引所機能は世界に一つあれば良い理屈です。(現実にそうなるのは、来世紀かもしれませんが。)連携・統合の流れに逆らって鎖国する選択肢は東証にはないでしょう。流れに乗るとしても、日本経済、上場企業、投資家、証券業界におけるプロコンを考えて、国際化のステップを設計して実行しなくてはなりません。兜町のウィンブルドン化を懸念する人もいるでしょうが、その心配は無用です。シティを歩けば判りますが、東京がシティの真似をすることは不可能です。制度と文化が違いすぎます。あらゆる人種による人脈と情報の宝庫に東京はなれないでしょう。むしろ、他国市場に飲みこまれるか、その支配下のローカル市場に封じ込められる可能性が高い。世界第2位の経済規模といっても、米国の40%規模ですし、やがては中国などに抜かれる可能性が言われています。金融立国という金融政策を進めるためにも、市場の国際化は不可避です。ユーロネクストと組んだNYSEとどのような協調を行うかは、日本の金融市場に大変な影響を与えます。注視していくべきでしょう。

ところで、東証は次世代システムの検討を進めています。年内にもベンダー選定を終え、2009年には稼動させる計画です。総額300億円の予算などと言われていますが、相変らずの巨艦主義です。(分散すべしという意味ではありません。アプリが巨大な岩盤のようだという意味です。)公表された資料を見ても、NYSEとの提携を含めて国際化は全く想定にないようです。細かな取引ルール改正やレスポンスやリカバリーを中心とする技術要件がならんでいます。これを見ると「ローカル市場を目指しているのだな。環境変化についていけず、小さなバグで大きなトラブルを繰返すだろう。」というのが率直な感想です。実態を良く知るベンダーは東証次世代システム受注に腰が引けているという話も聞きます。東証の実状を知らずに、チャンスと張りきっている外資系もあるそうです。しかし、NYSEとの提携話は次世代システムの大幅なコンセプト変更を余儀なくするのではないでしょうか?その場合、次世代システムの稼動時期は遠のきます。それまでは、付焼刃で現行システムの補強を続けなくてはなりません。トラブルの元も増えます。

経営環境が大きく変わる状況下のIT戦略ほど難しく、楽しい仕事はありません。変数が多すぎ、変わりすぎるからです。変数を減らすのは、経営トップにしか出来ません。IT戦略というよりは、経営戦略そのものになります。変化に対応するには、技術インフラと人材も重要ですが、ITガバナンスが最も重要です。外部依存では不可能です。東証がまず実施すべきは、ITガバナンス、

IT管理体制、自主開発運用体制の整備です。この認識がないまま、丸投げを受けるITベンダーがあるとすれば、結果は明らかでしょう。