証券業界取引ルールの改訂(日証協が工程表を発表)

平成18年9月21日付けの日経金融新聞と日経新聞の記事です。日経金融では、日本証券業協会が引き受け審査基準、事業継続計画、誤発注防止など8つの主要課題に関し、協会としてのルール改訂作業を進めているとしています。日経新聞は、昨年12月のジェイコムIPO株誤発注の際に注文取消しができず、巨額の損失が発生したことに対して、取引所の注文(正しくは約定)無効化権限の新ルールを検討している等を報道しています。

金融行政当局の本年度主要テーマは、利用者保護、公正透明な市場整備、信用秩序の維持とされています。(具体的には、貸金業界における多重債務者問題、証券取引ルールの整備、地域金融機関経営の健全化とされています。)これらの基本方針は、検査における重点項目となり、違反に対する行政処分の軽重を左右することになります。金融庁管轄下の各金融機関や、それをビジネス支援するパートナー企業にとって、経営上の優先課題となります。

証券市場において、IPO基準と審査は重大な問題です。IT企業などで年間売上が数億円になると、すぐに証券会社からIPOの提案が持ちこまれます。オーナーがどうしようかと相談してくると、筆者は「金が欲しいのか、自分の主義で会社経営したいのか?IPOなんかしたら、投資家(多くは投機家?)の圧力で、毎年売上と利益増で追いたてられますよ。その位ならサラリーマンの方が楽では。」と答えます。実際、上場とは何?と疑問に思うことがしばしばです。IPOマネーのかなりは発行企業の投資ではなく、個人の財布に入ります。その個人も数年後には、高級マンションも外車も家族も失う事例を何件か見ました。上場基準や審査を統一、厳格化することが必要だと思います。大分以前から議論され、内容も殆ど出尽くしているのに、来年2月や6月にルール改訂というスケジュールは証券らしくありません。個々の証券会社の意思決定は極めて早いのに、協会となると途端にサイクルタイムが遅くなります。加盟各社の同意を得るのに時間がかかるということなのでしょう。筆者が良く出す例えですが、「会議時間は、証券1時間、銀行2時間、保険4時間」というのが長年の付合いからの実感です。

誤発注対策に関しては、約定取消しや注文付け合わせの一時的留保権限を東証に付与することが検討されているようです。多くの海外取引所では、従来から規程されているのですが、東証は何故、今まで放置してきたのでしょう。仲間内の市場なので、会員証券同士の善意で対応できていたのでしょうか?明らかに異常な注文は、取引所の売買システムではねる対処を3月に済ませ、上場株数の5%を超える大口注文は、発注証券会社に確認を取る体制も整えたそうですので、市場の大混乱はもうないでしょうが。

みずほ証券の誤発注では、発注の1分半後に取消し操作を繰返したにも係わらず、取引所システムの不具合で取消しできず、損害額が400億円以上に膨らんだとされています。これらの経緯は、東証のサイトで報告されています。そして、東証は業務改善命令を受け、経営トップが引責辞任までしました。この東証の過失に対して、みずほ証券が損害額分担請求しましたが、東証が拒否通知したことも先日報道されていました。

日経コンピュータ9月4日号では、仮に東証が損害賠償に応じた場合、開発ベンダーは「完璧なシステムが求められることになり、開発を請け負えなくなる。」といった論調の記事が掲載されていました。記者が勘違いしているのか、取材に応じた大手ITインテグレータの幹部が勉強不足なのか判りませんが、東証のみずほ証券に対する過失責任と東証と富士通の間の過失責任は全く異なる話です。後者に関連しては、一般論として、いい加減な見積りと曖昧な責任分担で契約することに問題があります。(多くは契約もなしに、作業を始めますが。)ユーザー企業から明確に整理された要件を受けず、また、成果物に対する責任ある検収を受けずに納品する業界の慣習を改めることが優先されるべきです。でないと、ITベンダーは損害賠償を要求されないが、千変万化するユーザー仕様で超低利益あるいは赤字案件を抱え続けることになります。

仮に東証が損害賠償することになっても、今度は東証が富士通の重大な過失を証明しないと賠償は得られません。富士通が黙って400億円を出す筈がありません。富士通の過失を立証するには、東証側に相当なITスキルと証拠書類が必要です。医療事故における訴訟と同じ状況です。患者には専門知識も情報もないから、医療事故をなかったことにできる時代ではありません。IT業界も透明で合理的な商習慣に進化すべきです。それに適応できない顧客からの注文は断るべきです。社員家族を不幸にし、会社も損失を出し、顧客が怒るようなビジネスに社会的価値はありません。これは、ほぼ全てのIT関係者が10年以上も指摘し続けていることです。法制度を作ってもらわないと実現できないのでしょうか?まずは、毎年2兆円以上を使っている中央官庁のプロジェクトから適用するのが早いかもしれません。