総合代理業としての郵便局会社


日経金融平成18年9月1日号の記事です。来年10月に民営化がスタートする郵政各社の中で、2万4千6百の拠点と12万5千8百人を擁する郵便局会社に対して、金融機関を始めとする多くの企業が販売提携を期待して訪問しているという内容です。

マスコミ各社は、郵政関連の記事を掲載する際には、枕詞として民業圧迫懸念をつけます。ところが実態としては、民間金融機関には全国ネットを持つ郵便局と提携したいという本音もあるということです。その第1歩として自動車保険など損保窓販が民営化直後から行われるようです。既に東京海上日動が代理申請会社として選定されています。筆者は、民営化直後は既存業務のみだと理解していたので、最初から損保窓販を行なうという話に驚いて確認してみました。ところが、火災保険や原付バイク自賠責などで既に実施しており、民間損保からも同意を得ているということでした。事実、民営化委員会では反対意見もなく了承されたそうです。

投信会社なども熱心に提携の打診と人脈の構築を図っているようです。確かに、証券系や信託系のように拠点網の弱いところには魅力でしょう。地域金融機関だけは、他地域に進出しない限りは、郵便局を販売チャネルにする意味はありません。過疎地の不採算店を局会社に代理委託する程度でしょうか。局会社としても、少しでも収入源を増やしたい筈です。収支見通しでは、年間経常費用は1兆2千億強ですが、人件費だけで1兆円を超えますから、物件費などと合わせれば実質2兆円前後の経常費用となるでしょう。国有資産だった不動産を簿価(?)で貰えるのは大変な特典ですが。ところが大型店では、簡保や郵貯が直営店を展開します。両社から得る受託手数料は、年間1兆3千億円前後とされていますが、数千億円は他業務から稼ぐ必要があります。損保業界が代理店に支払う手数料はバブル期で年3千億円程度でした。今は知りませんが、減っているでしょう。局会社が独占しても全くの不足です。旅行代理店といっても、ダントツのJTBですら3千億円程度の売上です。一つの受託業務で数億円も入れば良いでしょう。とすると、数百種類の代理業務をこなさなくてはならない理屈となります。局会社の窓口社員にはスーパー・セールスマンを揃える必要があります。それ程の能力を持つ人材であれば民間企業のトップセールスとして数倍の収入が可能でしょう。

最近、大手のIT企業を見ていると、規模(売上と社員数)の大きさが余りに負担になっています。単価が下がっていますので、利益率は下がる一方です。小さな案件を確保しても、マグニチュードが低すぎます。昔、IBMが例えられたように、肉食恐竜化してしまっています。足元の草や雑木を一日中食べ尽くしても、体を維持できません。結局は大型案件狙いとなります。大きな案件は、売上が不安定なだけでなく、競合が厳しく利益率が期待できず、最近ではプロジェクト・リスクが大きすぎます。売上を伸ばすためには、M&Aが最も手っ取り早いことになります。ところが買った企業が、そのままで売上や利益に貢献する筈がありません。その位なら売却しません。多くの場合、持参金ビジネスで1年目は良いものの、翌年以降、重荷になってきます。それを避けるには、買収企業のリストラ(真の意味での事業再構築と本体とのシナジー追求)が前提ですが、それも簡単ではありません。ハードを中心とした垂直統合型のビジネスが行き詰まり、日本市場だけではソフト(マイクロソフトやオラクルのような)ビジネスは成立しません。SIやコンサルなどのサービス・ビジネスにシフトしますが、これは個人ビジネスの集合体です。現在のような人月単価ビジネスではプロは育ちません。プロでなければ、オフショアの方が有利となります。要は、代理業を含むサービス・ビジネスでは、ただ規模が大きいということはハンディキャップにすぎません。マスコミは、拠点と社員の多さで、郵便局の影響度をはやし立てますが、それに惑わされると本質を見失うことになります。

局会社のシステムは、当初事業会社3社から貸与されますが、早急に独自システムの開発をすることになっています。既に、先月21日、多くのベンダーに対してRFIが提示されています。平成23年には、総合代理業としての新システムを稼動させる計画です。この費用だけで数千億円かもしれません。収益源確保と先行投資の難しいバランスが求められます。

局会社の場合は、定年の近い職員が多いので自然減だけでも経費削減が可能といわれますが、民営化時に国から承継する負債の殆どが1兆2千610億円の退職給付引当金であることを考えると現役世代の負担が気の毒に思えます。国は10年かけてソフトランディングの道を選びました。議論を蒸し返すよりは、新たな社会インフラに発展させて、より多くの職員が仕事を続けられるシナリオが必要です。その為には新しい市場・ビジネスの創出が必要です。古い発想で、既存の縄張り争いや足の引っ張り合いを続けても、誰も得をしません。関連する企業の率直な交流を急ぐべきでしょう。