セキュリティ対策(高齢者向けサービス)


古い記事ですが、日経新聞平成18年4月17日号の領空侵犯コーナーで、作家なだいなだ氏が銀行の安全対策に苦言を呈していました。セキュリティ対策の基本理念に係わることなので紹介します。

奨められて生体認証を登録したが、自分が動けない時には取引が全くできない。暗証番号も制約が増えたが年寄りには複雑すぎる。ごく一部の泥棒の仕業を、大多数の善良顧客の負担と不便で防止しようとする姿勢はいかがなものか?人減らしで、顧客との人間関係を築く余裕がなくなったのか?リスク商品の説明においても、顧客の側に立った説明ではなく、銀行の責任回避と手数料稼ぎが目的のようだ。銀行員は原点に戻って仕事をし、利益と公共をつなげるべきだ。今日、銀行の業績が持ちなおしているのは、国のおかげでなく顧客のおかげだと言うこと認識すべきだというのが主旨です。

ここでの銀行の安全には、取引手続き上のセキュリティと資産運用上の減損リスクの双方を含んでいますが、リスク管理を根源機能とする金融機関に双方を求めるのは当然のことです。確かになだ氏の言う通りで、セキュリティに関するステークホルダーは、マスコミ、金融庁(含む関連学者等)と銀行の3者で、顧客は蚊帳の外に見えます。悪人を追及し、犯罪を抑止するのは警察に任せて、金融機関は手続きを強固にして一人たりとも善良な被害者を出さないようにすべきだ。そのコストは全て金融機関(やがては顧客)が負担するのが当然・・・という論理がまかり通っています。彼らの立場で、多少の被害が出るのは仕方ない、電車・交通事故や強盗空巣に比べたら、些細な話だとは言えません。とはいえ、リスクゼロを目指すのが行政責任とも思えません。マッチポンプは止めるべきです。一方で、根底に日本人のリスクに対する考え方があるようです。

知人が海外パック旅行に参加した時のことです。ガイドが、やたらとスリや強盗の危険を強調して、離れるな、荷物を手放すなと言い続けるのだそうです。よくある話ですが。緊張で疲れ果て、自由時間になったら、さっさとホテルに戻って部屋に篭ったそうです。旅行の意味がありません。当事者全員がリスク回避したかったということです。特に、旅行会社の姿勢には、顧客の安全もさることながら、万が一の場合に自分が責められるリスクが先行しているように感じられます。銀行のセキュリティ対策も同様ではないでしょうか?金融庁に因縁をつけられない為のセキュリティ対策は、顧客にはただの迷惑です。

なだいなだ氏の話には、一点、誤解があるようです。生体認証にしても成年月日を暗証番号から外すことにしても、顧客に選択の余地があります。従来のままでも構いません。銀行に奨められると義務強制のように感じる人が多いのも不思議な話です。ATMコーナーを見ると、従来型ATMは長蛇の列なのに、生体認証専用機は空いていることが多い。理由が判りません。生体認証カードにした人は相当な数の筈なのですが。これも顧客の選択です。筆者の友人で、まだ成年月日を使っている人がいます。忘れるリスクと比較すれば、はるかに安全だというのです。そのかわりに残高を抑え、頻繁に明細チェックしています。そして大口取引は頻度が少ないこともあって、ローテク・ハイタッチ・チャネルを使うそうです。1日当りの取引制限を除けば、銀行が強制しているわけではありません。顧客に安全策の選択肢を追加しているだけです。それでも不安が残るのは何故なのでしょうか?海外旅行のガイドの注意みたいなものなのか?自分の免責条件を満たそうとする姿勢がアリアリだからなのか?何かあった時に、銀行が知らん振りしそうだと思うからなのか?

個人情報保護に強い弁護士から聞いたことがあります。「金融機関のように、あれはダメ、これもダメなんて言っていたら、仕事にならんです。顧客の情報を守るのは当り前であり、その方が、お客も社員も安心できるのだから、もっと前向きな考え方と取り組みができないものか?」というのです。例えば、お客にある商品を勧めるとして、その際にはこういうふうに情報を確認して、保護する方が良い・・・とアクティブな表現にすべきだと言います。ネガティブ・リストでは、リスク管理はできません。行内の減点主義を顧客にも適用していないか・・の問題です。

当コラムで何度も繰返していますが、セキュリティは、リスク・コスト・利便性のバランスです。リスクは頻度と規模・影響度で考えます。利便性と価格に悪影響がなければ、銀行が独断で採用すれば良いでしょう。でなければ、顧客に組合せを選択させるべきです。高齢者だとか、農村部だとかの属性は関係ありません。一人一人、都合も期待レベルも違いますから。つまり、リスク・ベース認証のような方式にならざるをえません。そして、顧客とともに、犯罪者には断固立ち向かうという姿勢を徹底することです。自行に被害補償の責任があるなしではなく、顧客の味方であり続けるという信用を勝ち取ることです。顧客と一緒に警察に届け出るにしても、コストや態勢が必要となります。しかし、ニーズがあるということは、ビジネスとして成立することを意味します。セキュリティは、銀行の新しいビジネスになりえます。弁護士保険付き口座でも、総合補償付き口座でも構いません。