郵貯民営化(郵貯銀システムに大手行システムを検討)


日経新聞の平成18年3月23日号トップ記事です。民営化企画会社である日本郵政は、郵貯銀行の基幹システムとして現行貯金システムの増改造や新規開発ではなく、旧UFJか旧富士銀行の勘定系システムを購入する方向で検討しているという内容です。

この記事の反響は大きく、多くの方が話題として出します。MUFGやみずほFGが競合先の郵貯に売るだろうか、なぜ三井住友のシステムは検討しないのか、現行貯金システムは捨てるのか、

本当に数百億円も払うのか、記事の最後にでてくるDTSはどんな会社なのか・郵貯とどんな関係があるのか?などなどです。結構笑ってしまう疑問が多いのですが、郵貯システムの民営化対応や金融業界における開発力の問題など根本的なものを含んでいることも確かです。

多くの方が勘違いしていることが二点あります。第一は郵便貯金銀行(予定)と郵便局を混同しています。郵便局は、一般事業会社である局会社に組み込まれ、郵便事業を本業とします。そして郵便保険会社や郵便貯金銀行の代理店となります。郵便貯金銀行は、今のままですと自前の営業拠点がありませんから、直営店を2百店以上新設するなどと報道されています。公社や日本郵政が正式に発表しているわけではありませんが。郵貯というときに、局をイメージするのか、金融機能としての貯金銀行をイメージするのかで大きな違いが出てきます。

第二は、現在の貯金資産(正確には負債ですが)は、約200兆円あり、150兆の定額と50兆の通常貯金とに分かれます。定額貯金は郵便貯金保険管理機構が承継して、その対顧客事務は貯金銀行に委託され、更に局会社に再委託されることになります。貯金銀行は通常貯金のみを承継し、それに見合った資産と資本を持つことになります。新規参入銀行としての貯金銀行は、50兆円の貯金をもって銀行事業を始めます。貯金事業と銀行事業を行うわけで、双方の窓口事務を郵便局に代理委託します。

現在、保有しているシステムは、貯金業務と送金業務であって、法的定義の預金も為替もカバーしていません。新規開発が必要であり、それを現行貯金システムに搭載するか、別途システムを作るかの問題となります。超巨大な(何故5千万ステップという巨大なシステムが必要だったのか理解できませんが)システムを修正追加するよりは、新規開発の方が効率的なのは、だれが考えてもわかります。旧勘定用の現行システムと新勘定用の銀行システムの二本建てシステムというのは極めて妥当な考えです。

次は、銀行システムをどうやって作るかです。郵政職員に設計できるはずはありません。銀行業務の経験がありませんから。ベンダーの提供するパッケージといっても、地域金融機関向けのものしかありません。とても使えません。そこで出てきたのが、合併したメガバンクで使われなくなったシステムはどうかということでしょう。この検討は極めて自然な動きですが、この時点でマスコミに載るのは拙すぎます。MUFGにしても、みずほFGにしても、現在と次期の全銀協会長行です。全銀協は、これまで郵貯による民業圧迫批判と分割廃止論を強調してきました。それなりの理由付けと根回しがなければ、申し入れを受けても検討することもできなくなりました。マスコミ操作の常道からすれば、2行のシステム採用をつぶす動きといえます。

こう言いますと、郵政公社のIT部門守旧派のリークと思うかもしれません。そうではないというのがマスコミ各社の取材結果です。この報道で益を得るのは誰か?を考えればソースは推測できます。

記事には不自然な点が三つありました。

何故、日立やIBMにも打診するのかです。旧三和システムは、3年半前にUFJが日立キャピタルに500億円で所有権を売っています。ですから、日立に頼むのは判りますが、恐らく売却時の契約条項でUFJ(現在はMUFG)の同意許諾権が厳重に設定されているでしょう。決定権はMUFGにある筈です。旧富士銀行システムについては、IBMは所有権と全く関係ありません。また、使わなくなって15ヶ月たちましたので、みずほ情報総研にもシステムを理解する人が少なくなっているでしょう。

第二は、購入価格が数百億円ということです。どこから来る数字なのか。前述のUFJが売却したときの価格を参考にしているのか?今回は、所有権ではなく使用権で済みますから、せいぜい数十億円でしょう。問題は、プログラム・コードと金額だけでなく、ドキュメントや経験者のサポートです。両FGともそんな余裕はないでしょう。3大メガで現在IT部門に余裕のあるのはSMBCだけです。しかし、SMBCシステムは処理能力に限界が見えて、ベンダーに上位機を特注開発させていると聞きます。また、西川社長を出していることで、かえって動き憎いでしょう。

第三は、記事最後に出てくるDTSという会社です。独立系大手(とはいえ、親しいベンダーはあります。)のソフト開発会社ですが、「要請があっても6割しか受けられない」というコメントは、一般論としての話なのか郵貯のシステム開発関連の話なのか記者かDTS社に聞くしかありません。

いずれにせよ、郵政にとって民営化対応は無理難題のシステム案件であることは間違いありません。時間的制約が余りに大きすぎるだけでなく、ノウハウをもった人材も使えるツールも世の中にありません。加えて、投資規模の巨大さに多くのベンダーが殺到します。これらの中から本当に使える提案を選び出すだけでも大変なことです。マスコミの取材合戦はある程度仕方ないですが、余り恣意的なニュースは扱うべきではありません。忙しい担当者がその都度、振り回されて本来の仕事時間と意欲が失われます。