新規参入銀行(イオンが新銀行設立を発表)


平成18年3月10日にイオンは、個人向け総合銀行を来年4月に設立するとの計画を発表しました。日経新聞がスクープしたのを受けて、急遽記者会見したとのことです。急な会見にも関わらず数値目標がポンポン出てきたので、相当以前から具体的検討を進めてきたものと思われています。

筆者は、大変な苦労苦痛の割には儲からないのに・・・と思う一方でリテールバンキングに新風を吹きこんでくれれば面白くなると期待します。ただ、自分では画期的なビジネスモデルが思いつかないので、イオンのお手並み拝見くらいで余り興味を持ちませんでした。ところが、マスコミには大変なトピックのようで、多くの方々が情報交換に見えます。いながらにして記者諸氏の取材結果が聞けるるので、筆者としては良い勉強になります。

イオン銀行は何でもやる計画のようで、証券仲介や自前の電子決済も実施するとのことです。対象は、グループ店舗への来店客(週末1千万人)で、5年後に300万口座、預金量6500億円、業務純益100億円を目指すということです。チャネルとしては、グループ1500店の内、60店のSCに百u程度のインストアブランチを設置し3、4人の行員を常勤させるそうです。ATMは、2千台設置を予定しているとのことです。

筆者が興味を持つのは、収益計画とITを中心とした業務処理体制の二つです。

300万口座、6500億円の預金を実現するのは簡単でしょう。主婦相手に金利やポイントなどのインセンティブを提供すれば良いでしょう。問題は、投信販売などが可能かということです。リスク商品ですから、顧客が損を発生させれば、本業への悪影響は大変なものになります。自分でリスク判断できるような客が、日用品のついでに金融商品を買うとは思えません。商品タイプが全く異なります。個人ローンや住宅ローンにしても貸すのは良いですが、信用リスクをどう判断するのか?既製のスコアリング・モデルを買うとしても使えるのか?延滞時の対応や回収は、もっと難しい話です。本業の銀行ですら手を焼いています。個人破産も簡単にできる時代です。まして、企業イメージが第一の大手小売業者が、専業のような回収事務を遂行できるとは思えません。回収で苦労するよりは、償却してしまった方が低コストということも良くあります。信用リスクを3%程度以下に抑えられるのでしょうか?相当に高いハードルに思えます。預金を集めても収益にならず、運用が最も重要な時代になっています。その解は見えません。

マスコミの方に、何で流通企業は銀行業務をやりたがるのか?と聞きますと、資産利益率で1%を期待できるビジネスは、薄利多売の小売業にとっては高収益ビジネスなのだということです。しかし、ネット専業銀行もそうですが、定期性は出資企業による支援預金で、純粋な顧客預金は殆どが普通預金です。流動性リスクが極めて高く、運用比率を相当に抑える必要があります。つまり、運用できない資金が多く、それにも金利と預金保険と事務コストがかかります。万が一、店頭で取り付けもどきの騒ぎが起きれば、パニックが起こりかねません。米国FRBもこうしたことを懸念して、一般事業会社の銀行業参入は、国会で責任を持って決めるよう要請したばかりです。イオンの場合は、テナントなどへの事業性融資が避けられないとの声もありますが、それはあらゆる意味で公取法違反となります。与謝野金融庁が安易に認可するとも思えません。竹中、伊藤時代に、緩めすぎたことの反省もあるようですし。事前規制は減りましたが、事後規制と称して規制コストと行政リスクは増加の一方です。そこで新規参入者がROA1%を上げるのは簡単ではありません。

業務処理体制に関してですが、やはり金融庁のチェックは従来の参入時より強まることでしょう。個人取引で対面型ですから、人手を介する事務が大量に発生します。つまり、ミスや不正の機会が増えます。防止する仕組みを事務規程や組織職掌に組みこんで、訓練しながら実戦することが求められます。営業開始後も、検査の頻度が高いことを覚悟しなくてはなりません。このコストも事業計画に入れておくべきでしょう。軽く10%以上のコスト増になる筈です。何よりも、流通業的な事務に対する認識とDNAは払拭しておかなくてはなりません。このことは、銀行員以外には理解できないかもしれません。だからこそ、イオンは銀行の協力支援を受ける予定なのでしょうが。問題は旧DKBを中心とした銀行員の意見をどこまで受け入れ続けることができるか。また、その際に流通業の良い文化を失わずにバランスするかが難しい課題となります。

ITの手当てですが、記者会見では採用ベンダーと開発予算の質問がでたそうです。予算は120億円だそうですが、ベンダー名は回答しなかったそうです。NTTコミュニケーションとi-flexの組み合わせが専ら噂されています。いずれにせよ、パッケージを使って自前システムを持つようです。イオンは、もともとITに強いとは思われていません。ベンダー依存で苦労してきた経緯があるからです。それが、未知の銀行システムを新構築することになります。120億円と1年では、とても間に合わないでしょう。何故、稼動しているアウトソーシングを使わないのか。それほど独自性のある業務機能を計画しているとは思えません。アウトソーシングで対応すべき典型的パターンだと思うのですが。メディア関係者からは、ライブドアと西京銀行の新銀行用ソフトが10億円で売りに出ているのにとか、セブン銀行のシステムの方が大手小売業向けなので良いのでは?などと質問されます。どちらも業務分野が違いすぎます。ネット専業やATM専業ではなく、個人向けフルバンキングなのです。それも会員制に近い顧客管理が必要です。八千代銀行のBW21の方が向いているかもしれません。ITを新しく手当てするつもりだとすれば、業務に精通した人材が数十人は必要になります。協力銀行がそれだけの人材支援をできるかが、パッケージ選定よりも重大な要因になりそうです。