金融SIビジネス(SE不足が深刻化)


日経新聞の平成18年3月15日号の記事です。金融関連のSE不足が深刻であり、中小ソフトハウスへの引合いも急増しているそうです。しかし、人手不足から受注に応じられない状況で、このままだと、SE単価は上がるものの、大幅な売上増に至らず業界の本格回復を制約しかねないとしています。また、インドや中国などアジア勢にビジネスを奪われる可能性もあるとしています。需要急増は、東証や郵貯を含む大型案件5件が要員をかき集めているからだということです。

金融関連の熟練SE不足は、以前から予見されています。理由は簡単です。長い低迷で若手SEに実戦の場が少ない上、ベテランSEを大手SIerが放出してしまいました。東京三菱とUFJの合併やJCB,郵政のプロジェクトは各々で数千人規模の技術者を必要とすることが明白でした。そこに東証やみずほFGの次期システムが加わるのですから、新規開発案件だけでも2万人以上の要員が必要となります。金融関連のソフト開発支出は、年間6千億円ですから約5万人が働いていることになります。そこに基幹業務を知っている2万人以上のSEを手当てできる筈がありません。経験とノウハウは、短期間で補うことはできません。ローテンションでやりくりするしかありません。仮に中印SEを使うとしても、ミドルかユーティリティの分野です。業務知識を教えている時間はありませんし、金融アプリのオフサイト作業は認められないからです。

業界専門紙のニッキンが、2月10日号のトップで、深刻なSE不足を報道していました。日経の記事は、このニッキン記事を参考にしたようで、ほとんど同じ論調と数字です。ただ、ニッキンは、地銀等の比較的条件の悪い(総額、単価、場所、管理水準等)プロジェクトにおいては、要員手当てができない、或いは剥がされる可能性を心配しています。それは、量だけでなく、質の問題でもあります。ただ、筆者は余り極端な事例を聞いていませんので、各ベンダーは何とか凌いでおり、また、全ての大型案件が本格化していないからだと思います。ピークは来年前半でしょう。

金融基幹システム、COBOL、IMS、PL1の判るSEはいないか?というような要望は多くあります。ある中堅ベンダーが10名近く手配できたのですが、平均年齢が50を超えてしまったという話も聞きます。50歳を越えて、厳しいプロジェクトに3、4年も従事するくらいなら、刑務所の方がまだ幸せかも?などと笑うに笑えない冗談を言い交わしています。こんな状況が発生するのは、2000年問題の時を除けば、日本だけでしょう。不自然な体制で大規模プロジェクトに突入すれば、結果はどうなるか?成功を保証するメソッドかテクノロジーはあるのか?PMに全ての責任を押しつけるとすれば、それは余りにCIOとCEOが無責任です。

ある金融機関での話です。単価をあげるまでは要員手配に否定的な態度を続けたSIerがいたそうです。そこで、「いいですよ。お宅と当グループの付合いはこれまでということで。」と言うと、即座に元の条件で契約したそうです。ベンダーとしては、長期で東京での大規模取引を失いたくなかったのでしょう。それと業界リーダー格の顧客との取引は、良い勉強になるだけでなく、業界内での格があがります。

ところで、ベンダー各社は、今日の状況が三次オンまでとは全く異なる需要トレンドだと認識しているのでしょうか?昔は10年以上に渡って、同じようなプロジェクトが数多くの金融機関で繰返されました。ベンダーからすれば、一つのチームが3回、4回とビジネスできたのです。先端プロジェクトを請け負えば、その後に数多くのビジネスが得られる構図でした。しかし、現在は1回だけです。加えて、長期大型案件に優秀なSEを3年釘付けにすると、完了した後はどうするのでしょう。重層的下請構造の最上位ベンダーは、要員コストの大半が変動費です。しかし、二次以下は順次固定費の比率が高まります。完了と同時にバブル崩壊のようなインパクトを受けます。次の案件が決まってなければ、社員削減をせざるをえません。まして、今回が採算すれすれの受注額だったりしたら、悲惨な話です。こうした構図に気付いたSEは早めに逃げ出すでしょう。優秀な人から。

このリピートがなくなるという需要構造変化は、10年以上前からわかっていました。ソフト開発のビジネス・モデルを変えるべく、いろいろと試行しましたが、見つかりませんでした。オフショアでもパッケージでもありません。標準化と共通部品化が理論的ベストなのは判っているのですが、実行できません。金融関連ベンダーが拮抗した寡占4社だからなのでしょう。一社でもずば抜けた存在があれば、出来るのでしょうが。その他の方策もいろいろ考えるのですが、効果的なものがありません。相変らず人月単価の派遣ビジネスという労働集約業です。ベンダーSEはまともな家庭生活を脅かされ続けます。就職希望者が増えるはずはなく、会社の品もあがりません。

今年から3年程度は続く人手不足をいかに解決し、経験と技術を次のステージに継承・蓄積しながら、利益なき繁忙を抜け出すビジネス・モデルを作るか?これができたベンダーが、その後の金融ITの盟主となることでしょう。銀行基幹業務に、近年参入したベンダーが2社あります。しかし、古いビジネス・モデルを踏襲しています。外資系基幹パッケージ・ベンダーは、ユーザーが増えないままに、他ベンダーの支配化にはいってしまいました。金融基幹系システムを支えるベンダーがなくなりつつあります。金融機関は、自力のITケイパビリティを強化しておかないと、IT戦略などと言えなくなりそうです。