ネット専業銀行(ヤフーとあおぞら銀が新銀行設立を中止)


日経新聞平成18年2月24日付けの記事です。ヤフーとあおぞら銀行は、共同で準備してきたネット専業銀行の提携契約を解消したと発表しました。両社は昨年1月の発表以来、あおぞら信託のネット銀化に向けた準備をしてきましたが、提供サービスの内容やサービス・インのタイミングを巡って意見が合わず、共同事業として継続できないと判断したということです。

ヤフーは、現在の提携先であるジャパンネット銀行との提携内容を拡充して、決済機能強化と収益確保を図ることになるのでしょう。あおぞら銀も独自にネット銀の準備を継続するそうです。昨年1月の提携発表時に、当コラムで「そんな簡単な話とは思えない。」とコメントしました。楽天やライブドアのネット銀参入という流れと同じだったのでしょうが、筆者にはどうして自前で銀行を持ちたがるのか理解できませんでした。超高額な行政コストや雁字搦めの制度リスクと特異な業界風土とつきあうコストを考えれば、異星人であるネット業界人がやっていけるとは思えないからです。むしろ、代理店になる方が簡単だろうと思いました。ネット業界の方に会う都度、銀行を作る理由を尋ねました。異口同音の答えが、コインを集めたいのだということです。マーケットプレイスを提供して懸命に参加者を集め、僅かな出店料を受けとっているのに対して、決済機能を提供する銀行がシステムだけで、膨大な取引の毎に100円玉がポロポロと転がり込む様は、何とも羨ましいというのです。まるで渋滞のタクシーに乗っていてメーターがクルクルと廻るのを見ているようだと言う人もいました。また、独創的な決済手段を提供しようとすれば、どうしても自前の決済機能が欲しいのだとの声もありました。どちらも理解できるのですが、それでも自前の銀行を持つデメリットに気付いていないのだと感じていました。

あおぞら信託は、もともと16名程度の信託財産管理の銀行です。決済サービスなど純銀行業務は、本体のあおぞら銀行が行っています。新規設立の手間が省けるだけで、ネット銀としては全てを新たに構築することになります。システムだけで80億円必要という話を聞いたこともあります。全銀システムに加盟しようとすれば、更にかかるでしょう。今年の春には営業開始予定だったのですから、大半を使ってしまっているでしょう。これらの準備費用は両社で折半するそうです。あおぞら銀は、自分達のスピード感がついていけなかったとヤフーを擁護するような発言をしています。しかし、マネロン、本人確認、個人情報保護、ネット犯罪防止などを考えれば、いい加減な準備状況で営業開始には踏み切れないのも理解できます。要は提携発表段階での意思疎通が不十分だったということでしょう。この段階で計画を中断するのは、両社ともに勇気ある判断と言えると思います。

一年前には、あいつぐネット企業の決済銀行参入に大手銀や地銀が危機感を強めました。ある銀行は、ネット決済の新しいサービスを企画しました。手数料を100円とする計画でした。筆者がコストを尋ねますと、100万ユーザーで一件100円前後ということです。「それでは駄目です。料金が20円、30円になってもやれるようでなくては。」と言いますと「全く無理だ。」とのことです。「ネット銀に勝つにはオセロ・ゲームと同じ戦法が有効です。とりあえず同じ価格帯で勝負しておいて、あるタイミングで大巾に値下げし、相手の顧客をまるまる取れれば、採算ラインの取引件数が確保できるでしょう。その価格戦略・コスト戦略がなくては、コモディティ・ビジネスでは成功しません。」と忠告したものです。このコストを実現する為の仕組みを考え出すことが成功要因です。注意すべきは、ネット取引といっても、例外的な処理には人手と専門知識が必要なことです。残高不足や住所変更無届、送金先指定ミスなどが頻繁に発生します。その後処理に現物と人手が必要なことが多いのです。そのコストが、表面に見えるネット関連のコストよりも大きいこともあるでしょう。

ライブドアの西京銀行とのネット銀設立は行方がわからなくなりましたが、楽天は都民銀行との提携を今年1月に発表しています。SBIは住友信託との共同事業を進めています。ヤフーはパートナーを替えて仕切り直しです。各社がそれぞれの事業戦略で、市場の新規開拓を競おうとしています。カードや携帯電話による小口決済も普及しつつあります。まず、決済資金を通す仕組みを作れば、そこに資金が滞留して運用や融資などの事業機会も出てくるでしょう。アイマスクをされた競走馬のようにただ走るのでなく、広い視野と高い視点をもって、生活実感に根ざした新しい金融サービスが開発されれば面白いのですが。