電子決済(金融庁が法制見直しを提言)


日経新聞平成18年2月15日号の見逃す程小さな記事です。金融庁は、現行プリペイドカード法(通称プリカ法)が実態に合わなくなったとの認識から、5月の提言を目指して金融審議会のIT作業部会(ITWG)で法改正を検討しているそうです。現行法の課題や偽造防止、本人確認方法等が検討課題だということです。

昨年来、電子決済サービスを提供する企業が相次いでITWGに参考人として呼ばれています。決済の仕組みや技術的セキュリティ、マネロン、なりすまし犯罪等の可能性について、つっこんだ質問が行われたと聞いています。説明した企業の人の話では、「どうも説明を正確に理解してもらえたようには思えないし、セキュリティや犯罪防止の視点が優先されすぎているようだ。規制によって電子決済サービスの進歩が阻害される不安を感ずる。」という声を聞きます。委員には金融界の代表者も参加していますが、安全唯一の公益代表者と理論至上の学者が主導します。その双方ともに、実際の利用者ではありません。討議報告された内容は、金融庁によって法案となり与党財務金融部会で審議されて、国会に上程されるのが一般的ステップです。筆者は、「セキュリティに自信があるなら、議事堂内で議員を対象とした電子決済サービスを提供して、安全性と利便性を証明したら良い。議員の下に技術チームをつけてアタックさせるのです。議員も良い勉強になるので喜ぶでしょう。」とサービス提供企業に提案します。皆さん「良いアイディアだ。」とおっしゃいます。それだけですが。

理屈だけで考えると、どうしても安全性のウェイトが高くなります。結果として利便性が抑止され、普及が遅れます。行政としても検討委員としても、立場上やむをえない面がありますが、程度の問題が難しい。筆者も20年少し前にプリカ法とIT化の関連を調査して、当時の金融制度調査会の部会に提示する作業をしたことがあります。考えられる限りのリスクポイントを抽出して、その全てを埋めようとした記憶があります。そのリスクが発生する確率は極めて少なく、防止策よりも保険等で被害補償をした方が、数段合理的であったと後悔する点が多くあります。

日経記事は、記者が理解不足のようで説明が不十分なのと記事内容に不整合があるのですが、ニッキンの2月17日号に詳細な記事が掲載されていました。概要はこうです。ITWGは昨年末から「新しい電子的支払事業とその課題」について論議してきた。特にネットでのチケット販売、音楽ダウンロード、オークションなどは前払い方式であるものの、カードを使わないためプリカ法の対象外である。購入者の保護(前受金の分別管理や個人情報保護等)やセキュリティ確保の為に制度的対応の必要性有無などを討議し、JR東、ビットワレット、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、ヤフーなどからヒアリングを行った。具体的課題としては、サービス内容の開示、利用者保護、市場拡大を阻害しない規制のあり方、ポイントの換金や個人間の送金など新しいサービスへの対応方法などが挙げられている。今年3月末には、座長メモ(野村中央大学法科大学院教授)として「インターネットを使ったプリペイド型事業のあり方」を取りまとめ、法制度の改正を提言するということです。

ネットビジネスのように膨大な数の個人を対象とするビジネスでは、1円硬貨がポロポロと落ちるビジネスで充分に儲かります。さまざまなビジネスモデルが考案されることになります。中には法スレスレ、あるいはアウトロー化するビジネスモデルも出てくる筈です。事前に全てを抑止することは不可能なまでも、ルールを決めておけば逸脱したケースを早期に把握できるでしょうし、制度の修正も迅速化できます。金融庁は規制が進歩を阻害する危険性にも気付いています。ただ、規制緩和と規制強化では、後者の方が数段容易で行政にとってリスクが低いのです。日本での慣習からすれば、どうしても厳しい規制から入って、順次緩和という方法になってしまいます。その結果、開発力と資本力のある大企業中心の展開となって、新興企業参入の機会が大巾に減ります。従って、独創的ビジネスが創られる可能性が下がります。新興企業は、新サービスを創造しても、大企業にパテントを提供してロイヤルティ収入を目指した方が良いかもしれません。

今回の制度改正は、金融機関のリテール戦略に大きな影響を与える可能性が高いでしょう。銀行カードとクレジットカードが一体化しつつあり、更にプリペイやポストペイの機能とも連動するからです。どの金融機関ないしは電子決済サービス提供者が、メインカードの座を獲得するのかが、リテール市場での主導権と収益性を左右することになるでしょう。