偽造カード犯罪対策と本人確認



金融経済新聞の平成18年2月6日号が、面白いというか正確な記事を掲載していました。偽造カードによる被害額は減少しているものの、それは引出し額制限を引き下げた結果であり、件数は増加しつつ、手口が巧妙化しているというのです。警察からはICカードや生体認証化を要請されるが、顧客がカードの切り替えに来店してくれないとのことです。小口化していることと、保険による補償がつくので、顧客の危機感が薄らいでしまったことが原因とのことです。地銀など地域金融機関としては、完全なコスト割れにも係わらず、警察や金融庁から文句を言われ、顧客にはカード切替を強制できないジレンマを抱えているという内容です。同紙は、本人確認強化により顧客との窓口トラブル頻発も報道しています。近所の顔なじみ客が来店した際に証明書を要求するとか、孫名義の口座を開かせないなどで馴染み客を失うケースが出ているようです。大半のマスメディアがIC化や生体認証化すれば安全だとし、採用銀行名を羅列したり、指か掌かの陣営比較をして煽っています。この種の記事に一喜一憂する銀行も情けない気がしますが、この記事のように公平に実態を報道するメディアが少ないのも残念です。

2月10日から偽造カード被害補償法が施行されるため、各行は本人確認の強化や引出し額の引下げなど様々な対策を実施しています。ただ、副作用も大変なようです。まず、窓口業務が急増していること。といって、急にテラーや窓口端末を増やすこともできません。お客も怒りますが、行員も大変です。また、時期の悪さも重なっています。受験シーズンで、入学金の振りこみが多いのです。ATM振込送金の限度を越えて窓口に廻されたものの、ご主人名義の口座なので奥さんが取引できません。家族であることを証明すれば対応する銀行もあるようですが、そんな証明書を持ち歩く奥さんも少ないでしょう。結局は入金時間が間に合わず、合格取消などというケースも出そうです。顧客の怒りは銀行だけでなく、金融庁にも向います。クレームを受けた金融庁は、当該銀行の本部に電話します。「お宅のお客様向け案内が不充分なのでは?」という言い方だそうです。脅された本部は、次に当該支店長を怒鳴りつけます。

支店も堪ったものではありません。どうしたら良いか?という銀行員の質問に対して、「金融庁の通達とこの法律を作った国会議員リストをATMコーナーとロビーに大きく張り出しておいたら。それと、私達も被害者です。訴訟するなら金融庁を相手に!とポスターでも作ったら。」と冗談で誤魔化すしかありません。一部の特殊な事例に、大げさに、しかも表面的に反応して制度を変えると、結局は大多数の正常顧客が迷惑を被ります。この繰り返しパターンの原因を考えると、政策ミスの責任を銀行に押し付けることができるからのようです。成功した政策は自分の手柄で、失敗や副作用は銀行の責任という構図です。

振り込め詐欺でも同様なことが多いようです。顧客の様子に気づいた銀行員が、気を利かせて資金用途の質問をしても、騙されていることに気づかない老夫人が「私のお金を返して」と叫んでしまえば銀行はどうしようもありません。同じ窓口で振りこんでくれれば、送金先を抑えておくことも可能ですが、怒った客は金をもって他の銀行に行ってしまいます。政治家や役人が考えるようなストーリーではない場合が多すぎます。どうしたら良いかといえば、法制度を決めて強制する側の役所が自分の負担と責任で広報活動すべきです。新制度導入の理由を簡便に説明しながら、自分が銀行に強制している旨を周知徹底すべきです。そして、法制度を起案した国会議員名も掲示すべきです。利用者が、それをもって議員や役所の仕事振りを評価できれば相互牽制が働き、より実態に即した制度となるかもしれません。

金融だけではありませんが、行政コスト、制度コストは上がる一方です。弱者救済が名分ですが、誰が弱者で、それを救済する負担は誰が負うのかを明らかにしておく必要があります。でないと制度の隙間を潜り抜ける金融機関が顧客の評価を高めることになりかねません。金融機関側も、顧客のニーズに合わせた商品・サービスの開発にもう少し知恵を使えないものかとも思います。たとえば、祖父母から孫への生前贈与を合法的に行える商品だとか、夫婦共同名義の口座(存在するのですが)だとか、第三者機関による中立的な本人証明手段だとか、怪しい振込の場合に被仕向け口座の取引制限だとか。制度によって顧客利便を下げざるをえない場合は、何らかの対応商品が作れると思うのですが。

ちなみに、プログレッシブ・システムズ社が、無線盗聴機や無線カメラの電波を検知し、管理者に通知するシステムを発売しました。設置環境によって調整が必要なようですが自動学習機能もあり、原理的には充分使えるものと思います。端末あたり月額2〜5万円だそうです。一瞬安いと思いましたが、150拠点で月に500万円程となります。これなら、やはり保険の方が安いとなります。カード犯罪者は、うまく市場セグメントを選んでいるものだと感心してしまいます。彼らは技術的にはたいしたものを使っていませんが、市場分析力は相当なもののようです。警察も銀行ばかりに頼らず、犯罪者の摘発をやって欲しいものです。行政やマスコミは、責める相手を銀行から犯罪者に修正すべきです。