システム障害(ITベンダー責任)


日経新聞平成17年11月26日号の記事です。東証と名証のシステム障害に関して、富士通は会長社長以下関連役員の社内処分を発表しました。同社は、既に作業ミスを認めており、東証役員の社内処分(11月10日)を受けて正式決定したそうです。東京・名古屋と続いたのが痛恨の極みです。黒川社長は、東証社長と同じ6ヶ月間減俸50%です。業績が余り良くはないので役員賞与も少ないでしょうから、家計としては痛いでしょう。というより「こんなベイグなチョンボをしやがって。根本の原因は何だ?」が本音でしょうが、続けば制度問題となります。役員も大変な時代となりました。何かと言えば訴訟の対象ですし、マスコミにさらし者にされますし、収入は少ないし。20年ほど前は、政治家になっても良いことはない。企業人の方が高収入だし、役人になって政治家を使う方が良い・・と言われました。10年ほど前は、役人は損だ、苦労が多いのに文句ばかり言われる・・となりました。今日では、上場企業の役員になるものではない・・・と考える人が増えていると感じます。SEも、ミッション・クリティカル・システムに携わるのは嫌がります。社長を減俸にすれば、自身の出世はありえません。今回の役員処分で、ますます萎縮することでしょう。優秀なSEから先に逃げ出します。

金融関連のインフラ・システムを運営する組織のトップがスタッフに聞いたそうです。「ウチで東証のようなトラブルが起きたら、俺も減俸かな?」スタッフは「多分そうなります。」そして、「これで少しは、IT予算カットの圧力が和らぐかも」と思ったそうです。実際、東証はIT予算を倍増すると発表しました。筆者はITベンダーの友人に「これからは営業はいらんな。お客さんに“では一度止めてみますか?”と言えば、直ぐに買ってもらえるぞ。」などと冗談を言ったものです。単価と工期の切り詰めが遠因となっていることは想像に難くありませんが、それだけが原因ではないでしょう。

システムを作る時には、業務を分析して設計します。しかし、その専門家達は自分の業務を整理するのは苦手なようです。ITプロセス管理という概念&メソドロジーがあります。しかし、これも輸入物でして、少なくとも金融の世界で使いこなしているユーザー企業は多くありません。証券界が、特にそれを苦手とすることは以前に言いました。ITプロセスの管理体制ができていないままに、複数のベンダーに分散丸投げしたら、どうなるかは自明です。これまで大きなトラブルにならなかったのは、誰かミドルマネジメントが支えていたということでしょう。

通常、このキーパースンは、ユーザー企業の中間管理職です。自社システムを熟知し、技術に明るく、人望もあって部下だけでなく、ベンダーも良く従い協力するような人です。分散丸投げする経営者は、こうしたミドル・マネジャーを戦略的分野(?)に異動させてしまいます。そして、主力ベンダーに、「後は良きにはからえ。」とやります。主力ベンダーのPMは、自分のチームだけでなく、他社も管理する必要が出ますが、資金や人事権を握っている訳ではありません。これで、どうやって、良きにはからうのか?そんなメソドロジーはありません。では、配置替えした管理職氏を戻すのか?既に遅しです。数ヶ月たっていれば、システムも技術も変わっています。ましてや、丸投げしてしまっていますから、使える部下はすでにいません。こうした状況の金融機関や関連組織が、想像を超えて多くなってしまいました。これは2007年問題ではありません。経営判断によるITガバナンス放棄の結果です。この状況を、どうやって建て直すか?関係者が知恵を絞る必要がありますが、もうしばらくは、共同化やアウトソーシングという名目で、今の流れが続くでしょう。トップの減俸をしていれば済みますので、その方が簡単といえば簡単です。コスト削減にもなります。

今回の件に関して言えば、ベンダーに瑕疵があり契約上の賠償責任があるのであれば、富士通は企業として賠償すべきです。それとは別に、顧客企業とのつきあいで自社役員も社内処分するのであれば、そーっと、東証の鶴島社長に言えば良いことです。新聞発表するようなことではありません。損保会社が、ITベンダーの役員向けに「システム障害減俸保険」を開発して販売したら売れると思います。日本以外では絶対に売れませんが。しばらくは、今回の決着方法が雛形となりそうです。キーワードは、社会的影響です。これはルールではありません。単なる観念です。加えてITベンダー側の受注額には、社会的影響リスクは包含されていません。面白い国だと思います。賢いIT企業は、こうしたビジネスに手出しをしないでしょう。