銀行代理店戦略


銀行代理店の大幅規制緩和を認める銀行法改正は、来年4月から施行されることとなりました。メガバンクも揃って具体的施策の検討を始めるとともに(筆者の知る限り、代理店の制度変更を睨んで昨年から調査検討していたのは一行のみです。半年以上の時間差があります。)地銀協、第二地銀協、全信協も委員会などを設置して影響と施策案の検討を始めました。信金では相互に代理店となる案も検討されているようです。筆者には、単にペイオフ対策として預金を相互に分散預かりするだけで、何ら収益に貢献しないとしか思えないのですが。地域金融機関の多くにとって、銀行代理店は自分に不利な新制度という印象が強いようです。本当は、地域経済に自行庫サービスをロックインする大きなチャンスだと思うのですが。

金融庁は当初、法人向け融資を代理店認可業務に加えない方針でした。それに対し、議員や一部業界から意味のない規制だとの批判が出て、利益相反や情実融資を防止する態勢を条件に認める方向へ変わったようです。銀行が代理店に融資審査そのものを委ねるはずがなく(それが代理店に出来るくらいなら銀行は不要となります。)、案件の取り次ぎと融資先の実状を伝えてくれれば良いだけなので、当然の方針変更だと思います。法案成立を受けて金融庁は、代理店のタイプと扱える業務範囲を類型化して、代理店認可ガイドラインの作成作業を始めたそうです。ガイドラインに従順に従う銀行とは異なり、これからは一般事業会社が加わりますので、様々に独創的なアイディアで出てくる筈です。金融庁の担当者が目を白黒させる状況が続発することでしょう。

マスコミでは、銀行代理店が銀行ビジネスの大きな変革要因となると見て、特集を組むことが増えています。ところが、実際に取材執筆する担当記者がジックリと考えると、果たして何の意味があるのか、従来の提携と何が違うのかと戸惑うようです。日経新聞平成17年11月4日号の記事にも、そうした記者の戸惑いが出ています。家電量販店や旅行代理店などで考えられる新サービスを紹介したり、郵貯とメガバンクが組んだ場合のインパクトなどに触れながらも、ノウハウやコンプラの問題などを指摘して、必ずしも明るい話ばかりでないというニュアンスを出しています。

マスコミや金融機関から情報交換を申し込まれます。話をしていて何時も感じるのですが、代理店によって自動的に変革が起こり、一般大衆が便利になって、皆が儲かると考えているようです。そんな都合の良い話ではないと思うのですが。某大手小売業が代理店制度を先取りするようなワンストップ・バンクを半年ほど前に始めました。筆者も見に行ってきたのですが、マスコミに掲載される写真とは異なり、閑散としたものでした。「あー、やはりね。」と納得しながらも、金融に対する一般大衆の保守的かつ堅実な姿勢を再確認しました。銀行が儲からないから代理店化するなら、代理店が簡単に儲かるはずがありません。銀行が儲かって嬉しいが、手が廻らないので猫の手も借りたいというのであれば代理店と利益を折半できます。実際には、このように単純なビジネス・モデルではなく、代理店となる事業会社の持つ優位な顧客層、商品、プロセス能力、ブランドと銀行ビジネス・システムとの相互作用を如何に働かせれば、新たなバリューを生み出せるかという仕組みが大切です。仮に小さく入るにしても、大きなシナリオは不可欠です。

ですから、代理店戦略を適用する市場セグメント(顧客層や地域など)、そこにミートする金融業務と商品、どの業務プロセスを委託するのか、それは代理店方式なのか、単なる提携で良いのかなどを考える必要があります。20年ほど前のVANブーム(この言葉を知る世代は少なくなりましたが)の際に、筆者も様々な業界の人達と、資金流を如何に商流や物流を融合させれば情報流を確保できるかを議論しました。議論で終わってしまった金融VANが陽の目を見る時代になったと思います。成功条件は、利用者、金融、事業会社の三者全てがWin−Winとなることです。それをITで如何に実現させるか。IT知識だけでは考えられません。事業会社の商品・業務をはじめとしたビジネス・システム全般に関すると知識と、個々の顧客を意識した市場の動きと金融の実状に関する知識・洞察とITを結び付けることが必要です。金融庁も、随分と複雑で高度な課題を投げかけたものだと思います。但し、金融の飛躍発展に役立つことは確かです。

5年ほど前から、プライベート・バンキング用にシステムのあり方と適切なパッケージソリューションを捜してきました。そのまま使えるソリューションのないことを確認しましたが、既存の勘定系ではPBや代理店のような機能限定型の業務支援は無理だとの結論も得ました。金融の世界で代理店制度の先達は損保業界です。しかし、代理店チャネルのIT化に関して最も進んでいるのは、某大手生保です。理由は簡単で、基幹系に代理店関連を全て取り込んでしまい、動きが取れなくなった損保に対して、その生保は代理店をランク分けして本体業務と適宜組み合せできるようにシステム・アーキテクチャが出来ているからです。これを設計した人は本当に凄いと思います。ITに強いだけでなく、自社ビジネスを長期的に睨んで、経営トップも思い及ばないことをシステムに組込んでいるのです。IT技術者冥利とも言えるでしょう。

繰り返しですが、自行が重視する事業分野を選び出し、補完してくれる強みを持つ事業会社に、どの商品の、どの業務プロセスを代理委託するのか。その成功(双方の収益増或いは戦略目標の達成)に何が必要なのか。金融庁の規制というより、顧客のニーズや安全性を担保する仕組みをいかに作るのか…が重要です。意外とシステム対応が制約となることに気づくでしょう。付け焼き刃をやると費用や時間の浪費となり、既存基幹系の寿命を縮めます。使えそうなソリューションは殆どないのですが、それに気づいているベンダーはありません。銀行もシナリオが作れないでいます。来年4月には、簡易型で小さく入る銀行が多いでしょう。代理店チャネルのインフラ構築にいち早く成功した銀行が勝ちを収めます。