地銀の証券業務(八十二銀がアルプス証券を経営統合)



ニッキン平成17年9月16日号に、長野県上田市のアルプス証券が八十二銀行に統合を申し込み、2006年度の早期に100%子会社となることを合意したとの記事がありました。地方銀行としては、静岡銀、福岡銀、千葉銀などに次いで証券子会社を保有することになります。

アルプス証券は、県内を中心に9店舗、117人の社員を抱える地場証券です。総資産155億円、資本金8億円ですが、営業収益18億、営業利益4億、純利益3億円を稼ぎ出す優良地場証券です。もともと82銀行は大株主でした。

アルプス証券が統合の申し入れを行った理由は、82銀が証券仲介に参入するからということですが、それでは明確な理由になりません。ブローキング中心の地場証券としては、ネット専業に市場を侵食されており、引き受け業務等を実施するにも82銀の営業力、ITパワーを必要としたのでしょう。82銀としても、証券業務を強化するには好都合ということなのでしょう。

このニュースを地銀の戦略から解釈する視点として二つのことが重要だと思います。第一が地銀における証券業務の位置づけです。第二は、手数料ビジネス戦略への位置づけです。

第一の地銀にとっての証券業務ですが、成功させるには多くの課題があります。単純なブローキングであれば、ネット専業との競争に勝たなくてはなりません。アルプスが稼ぎ出す営業収益18億円は、82銀の業務粗利益や業務純益を嵩上げするでしょうが、その影響度は1%強です。県内企業を相手とする引き受け業務といっても、その規模は些細なものでしょう。大手企業や中堅企業の多くは、すでに大手証券会社との取引関係を構築しています。今後のIPOを期待しても、その事業規模は知れています。むしろ、大手証券や成長著しいネット専業証券と提携した方がインパクトがあります。恐らく、こうした提携戦略のインタフェースとしてアルプス証券が位置づけられるのでしょう。

第二の手数料ビジネスですが、82銀の業務粗利益における手数料収益は11%台です。中期的には20%程度を目標とするのでしょう。業純ROA1.0%を目標とすれば、平成16年度期水準で業務純益を150億円ほど積み増す必要があります。融資が増えないと前提すれば、総資産を増やさずに(つまり預金を増やさないで)、また、営業経費を増やさないで業務収益を150億円以上増やす必要があります。その方策として、ミドルリスク分野の融資増強、個人向けローンの他に、資産運用商品などによる手数料収入があります。長野県の県内GDP8兆2千億円、法人数5万社、世帯数78万、総人口220万、県民所得6兆3千億円の市場規模からすれば、難しい数字ではありません。ただ、手数料収益比率20%以上を実現するためのビジネス・モデル変革を可能とする組織・行動改革が実現できるかが問題となります。

アルプス証券を、証券業務という新規事業分野における水先案内人として位置づけるのでしょうが、地場証券の多くは証券業界の中でも、古い体質を温存しています。兜町では絶滅した種と考えて良いかも知れません。安易な総合金融化やワンストップ・ショッピングの実現などと言っていては、大きな負担を抱えるだけとなります。ディープ・シンキングを組織文化とする82銀ですから、あらゆる可能性とリスクを評価した上での判断でしょうが。

手数料ビジネス強化とは銀行業のサービス産業化を意味します。サービス産業とは何か?サービスとは何か?その意味とメジャメントを追求する必要があります。銀行業はストック・ビジネスであり、商品販売ビジネスでした。それも垂直統合というビジネス・モデルを前提として、プロダクト・アウトでやってきました。その全てが変わります。どうやって、新たなビジネス・モデルとそれを支えるビジネス・システムに変革していくのか?それがアルプス証券を統合する過程で問われることになります。

このことは、他の地銀だけでなく、地銀と提携したい全国ベース金融機関やITベンダーも共に考えるべき課題でしょう。キーワードは、地銀のサービス産業化です。