郵政民営化システム(自民党案は日程を変えず)


民営化法案が廃案となり、郵政のシステム関係者は身動きの取れない状態となりました。組合や特定局長の政治的反対活動の一方で、経営部門は民営化による事業再構築を図るという前提で準備を進めてきました。しかし、法制度が確定しない限り、予算措置を含めて何もできません。つらい立場だと同情せざるをえません。一年前の今頃も、民営化に伴うシステム変更や完全民営化後のあるべきシステム像を検討していましたが、結局は政局を読めずに、全てが凍結されました。引合いに応じたベンダー各社も、大幅な営業計画変更となり、業績への悪影響が出たことでしょう。今年は、技術者達が急遽夏休みを取れて喜んでいるかもしれません。

今回の法案廃案も、システム変更プロジェクト受注を予定していたベンダーには、大幅な収入ずれこみとなります。待機させていた技術者の人件費だけでも相当な額になるでしょう。下請けの中には、資金繰りを見なおす必要の出たところもあるようです。公共機関のIT化では、手続きに要する時間とプロジェクトに要する時間が大巾にアンマッチなことが通常ですので、多くの場合はベンダー側がリスクを負担して先行作業をせざるをえません。ところが、内容が変わったり、予算が絞られたりで、目論見通りに計画が確定することはありません。後工程の受注で収支を目指すのでしょうが、それも難しい時代となりました。こうしたビジネスモデルでは、資金力のあるベンダー以外に参入機会はありません。結局は、入札しようが公募しようが、特定ベンダーによる受注が続くことになります。そのことが必ずしもコスト上昇や品質・サービス低下を意味する訳ではありませんが、長い目で見れば、競争機会を失うことは確かです。

郵政は、今月末を期限として、次期システム基本方針を定めるコンサルティングを入札しているそうです。随分と多くの会社が入札しているようですが、本命とされる3社はお馴染みの企業です。そしてコンサルだけでなく、開発でも大きな受注をしている企業です。コンサル単独では収支を確保できないが、開発工程の売上から利益補完を受けることが前提なのでしょう。入札参加ベンダーの多くでは、担当部門が公共部門です。民間企業担当部門では事業計画が成立しないので当然ではあります。ところが、郵政が求める次期システム基本方針では、メガバンク・グループを始めとした民間金融機関との競合を前提としています。金融ビジネスの方向性や民間銀行のIT戦略に精通している必要があるのですが、そうした専門家は少ないようです。銀行業界担当のベテランからすれば、大切な顧客の長年の敵に味方するわけにもいきません。加えて予測不可能な制度改革を前提として、今から十数年後でも現役として稼動するシステムを考え出さないといけません。

このような条件で、正確な提言ができるコンサル(人間)がいるとは思えません。メガバンクですら、できないことです。ましてや、戦略(=制度)を自分で決められず、全てに国会か役所の許可を前提とし、常に政治的調整と妥協に時間を必要とします。郵政の責任ではありませんが、当事者能力(ガバナンス)がないのですから、どんな計画を作っても同じというか、虚しいというか。であれば、二、三年毎に見なおし修正の出来るシステムであるべきですが、相変らず8年サイクルのIT化計画です。新システム稼動と同時に、次期シスの検討を開始、2・3年後に計画策定(大手銀行方式の焼き直し)、3・4年かけて開発、2・3年かけて全拠点の移行という、スピード感に溢れる作業を繰り返してきました。今回は民営化法案審議で、すでに2年を空費しています。IT企画担当者達の本心は、「いっそ廃案を確定して、仕切り直しをしてくれたら。」というところでしょう。

ところが、自民党は、政権維持が実現したら首相指名の特別国会に、参院提出法案をそのまま再提出することを選挙公約にするそうです。(8月15日付け日経)つまり、9月一杯で、法案の成否が決まり、成立の場合は2007年4月の民営化開始は変えないというのです。1年半で、システム修正とテスト、移行を実施しろということです。東京三菱・UFJのシステム統合より、比較にならないほどの大きな変更をこの短期間で行うことは、まず無理でしょう。金融庁も認める訳にはいきません。MUFGの場合との整合性に欠けることになりますから。といって、さすがの某検査官や某長官も政府決定に逆らうことはできないでしょう。民営化は法に基づき実施され、2007年3月31日までは総務省所管なので、金融庁としては民営化準備に関与していないという話になります。利用者を保護するという大義名分は、あくまで金融庁支配下の法人・個人が対象です。それを逸脱すると、他省庁から袋叩きに合います。すでにその兆候が出つつありますが。

仮に、予定通りに民営化の場合は、窓口業務のシステム変更は行わない方が無難です。窓口ネットワーク会社は全国一律ですので、その必要もないでしょう。年一回の単式簿記会計は、例外規定を設けてドンブリの中味をエイヤットと分配するしかありません。筆者は、これを割りきりドンブリと称していますが、システム対応はエクセルと人間のKKDによるトップダウン型配分にならざるをえません。超巨大なドンブリ料理を素材別に区分して味付けしなおしても、結局は同じ料理です。業務プロセスに仕訳データを取り込む仕組みを新システムで構築するほかありません。また、次期システムには、分社各社の経営戦略を反映することが前提となります。2万拠点を超える総合金融サービス会社の長寿命システムを実現するアーキテクチャと導入計画を見るのが楽しみです。

筆者としては、郵政法案とともに廃案となった銀行法改正の行方に関心があります。共同子会社や銀行代理店などが主要改正点でした。今国会での成立はなく、来年初頭の臨時国会で成立し、来年10月頃に施行と予測しておりましたが、政権党が変わればどうなるか判りません。その結果によって、銀行の戦略は大きく変わることになります。