生保とコンビニATM

日経新聞(平成14年1月14日号)によると、日生がコンビニ大手2社とATM提携を開始するとのことです。

生命保険会社が銀行やコンビニのATMを使って保険料や契約者貸付けの入出金サービスを検討したのは何年も前のことです。契約者に利便性を提供するという営業推進面での動機もありますが、何よりも現金の取り扱いに関する費用を軽減したいという理由が大きかったのです。仮に5万人の営業職員が毎日5件分の保険料を集金してくると、毎日25万件もの入金処理が発生します。その為に、支社には金庫と出納要員を用意しなくてはなりません。大手生保となると2000前後の支社数ですから、この費用は巨額になります。

保険会社の中には、口座振込以外を認めない所も出てきました。契約者が嫌がるケースも多いですし、営業職員は顧客と対面する機会が減って、営業力が落ちるというマイナス面があって口座振込の普及しない理由となりました。対面時のクレジットカード払いも一部に導入されたのですが、エンボス機の重いことや全てのカードに対応するには複数のエンボス機を携帯しなくてはならず実用には耐えませんでした。

一方、生保会社にとって資金の運用難は逆ざやという死活問題となりつつありました。不動産投資の利回りも限りなくゼロに近づいていました。企業向け融資は低調ですし、融資先の破綻に対する手当てはメインバンクより後手に回らざるを得ません。ところが、個人向けの契約者貸付けですと担保はありますし、5%の利回りが得られます。顧客にとっても、銀行の10%前後、消費者金融の20%以上というローンよりははるかに有利です。借りる時、返す時の利便性さえ確保すれば両者のメリットは大変大きなものがあります。

銀行に法人ATMカードを大量に発行してもらい全営業職員に持たせ、営業からの帰路、銀行ATMに入金してもらう。営業職員は、会社に入金明細をオンライン登録し、銀行からの入金通知と照合して入金処理を完了するというプロセスを設計したことがあります。実現しませんでした。予想もつかないミスやトラブルが発生するとしても、プロセスを遡れば対処できます。銀行が応じてくれなかったのです。わざわざ、このような新しいサービスを提供しても銀行は儲からないというのが理由です。夕方に営業職員がグループでATMを占拠してしまうことも嫌われました。入金額が大きいので、ATMの紙幣格納容量の問題もありました。

そんな時に、複数の銀行がコンビニと組んで大規模な共同ATM構想を検討しました。これに加盟できれば三社三得です。しかし、行政が是認しませんでした。ATM上で銀行と保険の相乗りが実現してしまうというのです。不可とする法律もなければ、可とする法律もないので法制度の整備が先だというのです。裏には銀行側に大手生保の参加を喜ばない気持ちもあったようです。こんなことで良くまあビッグバンだなどと言っているもんだと唖然とした記憶が今でも鮮烈にあります。公正な競争のない自由化なら、まだ規制下にある方がマシです。

この時から数年経ち、最大手の日生が二回目以降の保険料入金と契貸し返済をセブンイレブン、ローソンで支払いできるようになりました。コンビニ側としても利用件数の早急な増加がATMサービス存続に不可欠という切羽詰った理由もあるのでしょう。小さな記事ですが過去の経緯を見てきただけに、この記事の意味する所が私にはとても大きなものに見えます。

旧大蔵省系金融機関の排他的・独尊的サービス戦略は、やがて旧通産省系ノンバンク、擬似バンクにより名実ともに空洞化されるでしょう。そこではじめて、顧客ニーズを超えるレベルのサービスが続出してきます。その時にリテール金融ビジネスのバリューチェーンが大変革を起こします。商品の開発から販売、アフターケア全てを一社で行なうという業界構造は、スピード、効率を求めてアンバウンドルされます。そして水平構造へとレバウンドルされます。ここ数年でIT業界に起きたのと同じ現象です。日生をかつてのIBMに、大手コンビニをMSに例えたとして、日生もコンビニ側も、次の戦略を持った上での対応と期待したいものです。
念のために述べておきたいのは、異業種から新規参入した銀行の成功を、私は疑問に考えているということです。金融ビジネスも規模がCSF(主要成功要因)ではなくなります。そう考えると新規参入銀行は、旧来の銀行モデルを単にITに乗せただけのように見えます。金融で利益を上げたいのか、金融を使って顧客ベースを拡大したいのか中途半端に見えます。低成長を抜け出せないので、一段と提携戦略を推進するでしょう。顧客利便は上がりますが、費用が増大してプロセスは複雑化します。結果的に賢い大衆の餌食になるような不安があります。黒字化期限までの、あと二年で結論が出ます。